夏の魔法

イケてない大学生丸ちゃんがただ悶々とするだけのお話。back numberに全力で土下座。
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かおり @orange_shake_

【夏の魔法・1】 最初は、信ちゃんの彼女なんやと思ってた。 僕より1つ年上やから、信ちゃんの1つ下。 色白で小柄で童顔で、初めて見たときはお人形さんみたいやなぁって。 "友達のイトコやねん、つまり他人なんやけど何でか懐かれてもーてさ。"

2015-06-19 23:03:29
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・2】 「懐かれてって、動物みたいに言わないでくれるー?」 "動物の方がまだ聞き分けええわこのアホが" 「痛ーい!信ちゃん暴力!」 なんだかじゃれてる2人を、ええなぁって思いながら見てた。

2015-06-19 23:03:54
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・3】 『しかし意外やなぁ、信ちゃんがあんな…なんていうかこう、わかりやすい…美少女と付き合うのって』 彼女がサークル行くからまたねって去って行って、信ちゃんと学食で自販機のコーヒーを飲みながら思ってたことを言ってみる。 "はぁ?"

2015-06-19 23:04:03
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・4】 信ちゃんは呆れたように舌打ちをすると、ズズッと音を立てて残りのコーヒーを飲み干した。 "なんで俺があんなんと付き合わなあかんねん" 『え、ちゃうの!?』 "ちゃうに決まっとろうが。長い付き合いやろうが、俺のタイプと全然ちゃうのわかるやろ"

2015-06-19 23:04:17
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・5】 「確かに…」 信ちゃんは2つ上の先輩やけど、幼馴染やったのもあってガキの頃からこんな感じでずっと可愛がってもらってる。 信ちゃんの歴代の彼女を思い返してみると…うん、確かにおしとやかな大和撫子系ばっかりやな。 "はは〜ん"

2015-06-19 23:04:25
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・6】 信ちゃんが八重歯をのぞかせながらニヤニヤ笑い始めた。 "お前あーいうの、ドストライクやもんな" しまった。 僕が信ちゃんの好きな女の子のタイプ知ってるってことは、当然僕のも知られてるわけで。 『いや、ストライクっていうかそのぅ…なんか、可愛いなぁ、って…』

2015-06-19 23:04:34
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・7】 "ええんちゃう?" 空き缶を持って、信ちゃんが立ち上がる。 "わがままでやかましい女やからオススメはせんけど、お前やったらそーいうとこまで可愛いとか言い出しかねんし" ご名答。 年上だと思わせない無邪気さに、キュンキュンきちゃってます。

2015-06-19 23:04:41
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・8】 "丸が面倒見てくれたら俺の苦労もなくなるわけやし。" んーっと伸びをして、 "じゃあ俺、図書館行くから" 爽やかに去って行った。 卒論のテーマ決めなあかんとか言うてたよなぁ…大変やなぁ4回生って。 彼女も、来年の今頃には。 俺も再来年…

2015-06-19 23:04:48
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・9】 なんか、あっという間やな大学生って。 特にサークル活動をするでもなく勉学に打ち込むでもなく、 可もなく不可もない程度にこなす学業の傍ら、 家から近いって理由だけで選んだコンビニのバイトだけを行動範囲とする俺の青春… 我ながら平凡すぎてびっくりする。 悲しい。

2015-06-19 23:04:56
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・10】 彼女のサークル、他大学と合同で100人規模の、いわゆるリア充テニスサークルって言ってたなぁ… はぁ、ため息ついでに時計を見たらバイトの時間が迫ってて。 慌てて信ちゃんにもらった次の試験の過去問を片付けた。

2015-06-19 23:05:03
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・11】 それからというもの、学部が同じでよく校舎の周りで彼女と顔を合わせた。 彼女はいつも、めっちゃ笑顔で手ぇ振ってくれて。はぁ、その笑顔プライスレス… なんて思ってたらある日、いつもみたいにすれ違った後に聞こえてきた彼女の友達との会話。

2015-06-20 22:58:11
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・12】 "ねぇ、今の誰?" 「え?えぇ、えぇっとねぇ…んー…あ、そうだ!マルちゃん!」 "マルちゃん?" "そう!マルちゃん" 多分、いや確実に。 本名どころか顔以外何も覚えられてへんな。 その程度の知人にあのキラースマイルはあかんでしょ、罪重いでそれは…

2015-06-20 22:58:20
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・13】 彼女のSNSのアカウントには300人以上の友人。 もちろん僕SNSなんてやってへんから、友達のアカウントからお邪魔してます。 "お前さっきから何見てんの?" バイトの控室で、着替えを終えた亮ちゃんが僕の手からタブレットを奪い返した。 "へー、可愛いやん"

2015-06-20 22:58:28
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・14】 SNSにアップされた写真を見てニヤニヤしとる。 "おっ!海行きたいってさ!俺、気ぃ合うかも!" 最新の投稿を見て、目を輝かせてる。 そっか、そろそろ海開きやもんなぁ… "海開きってお前、ジジイか" 心の声が漏れていたらしくツッコまれる。

2015-06-20 22:58:39
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・15】 "なぁ、この子紹介して?" 『ぅえっ!?』 しょ、紹介! 確かに亮ちゃんやったら一緒に海行ったりできそうやけど… "嘘じゃボケ。その世界終わったみたいな顔やめろ" え、僕どんな顔してたん。 "誘ったらええやんか、海行こーって"

2015-06-20 22:58:47
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・16】 い… 『いやいやいやいやいやいや‼︎』 "なんやねん" あ、あまりに僕が否定するもんやから不機嫌なってもーた。 だってそんな、彼女と海だなんて、 "海っていったら水着やで?結構おっぱいあるんちゃうの、この子" 『!!!』

2015-06-20 22:58:56
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・17】 思考停止した僕の背中をタブレットの角でぐりぐりしてくる。 い、痛い… "じゃ、俺はシフト戻るから。お疲れ。" そう言って背を向けた亮ちゃんの首元にはすでに日焼けの痕があって、なんか聞いたことない洋楽みたいなん口ずさみながら控室を出て行った。

2015-06-20 22:59:04
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・18】 『かっこええなぁ…』 1人になった控室で盛大な独り言。 夏になれば真っ黒になるまで海で遊んで、ドライブして、その車の中ではさっき歌ってたみたいなテラスハウスのサウンドトラックに入ってそうな洋楽がかかってて…

2015-06-22 00:34:28
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・19】 目を閉じて、この前水族館連れてってくれたときの亮ちゃんを思い出す。 確かバックの時は助手席に手は回さない派で、そのもどかしい距離感がまた… 助手席に座ってた記憶の中の自分の姿を勝手に彼女にすり替えて、しばし妄想。 あかん、お似合いすぎる。

2015-06-22 00:34:34
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・20】 妄想の中の彼女、めっちゃうっとりしてもーてる。 男の僕でもあのときちょっとドキッてしたもん。 って何を言うてるんや僕は。 "お疲れーっす…って、丸やん。何してんの?" 『…おおくらぁ〜』 大倉もこれからシフトらしい。

2015-06-22 00:34:39
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・21】 僕しかおらんのをええことに、更衣室に入らんと目の前で着替え始める。 しっかし、イケメンやなぁ。 背も高いし、モデルさんみたいや。 店長、"うちは顔採用だから!"って言い切ってたもんなぁ。

2015-06-22 00:34:43
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・22】 じゃあなんで僕雇うたんですか、って聞いたら授業早い日の平日昼間ばっかりシフト入れられるようになった。 つまり、おばちゃん要員らしい。 確かによく飴ちゃんとかみかんとかもらうけど… "…何?" じろじろ大倉の顔見てたら、ちょっと困ってる。

2015-06-22 00:34:49
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・23】 『あ、ごめん…かっこええなぁって思って』 "え?丸どうしたん、なんか今日キモいで" ちょっと、言葉がストレートすぎるで。 さすがに傷つく。 立ち上がって隣に立ってみると、僕より少し高い位置にある目線。 そっか、僕そういえば身長だけなら亮ちゃんに勝てる。

2015-06-22 00:34:54
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・24】 "丸ちゃん、上目遣いやめて" 少し怯えた目の大倉に言われて、慌てて目線を外す。 彼女小っちゃいから、僕見るときも上目遣いになるもんなぁ、あれがたまらんのよなぁ。 はっ、待てよ。 これが大倉ぐらい身長あったら… 大倉を見ながら彼女の身長は…とか考える。

2015-06-22 00:34:59
かおり @orange_shake_

【夏の魔法・25】 『あ。』 これもしかしてあれちゃうん、ちゅーするとき背伸びしな届かへんやつちゃう? 大倉の胸あたりに手を置いて、一生懸命背伸びして目を閉じる彼女、そしてそんな彼女が愛しくて頭ぽんぽんなんてしちゃう大倉… はあ、完璧や。

2015-06-22 00:35:05