- adumayahomare
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僕たちがまだ人のかたちをした刀だった頃、本丸で熱病が流行ったことがあったんだ。一振り、また一振りと仲間が病に倒れていって、出陣や遠征は軒並み中止を余儀なくされた。
2016-04-01 17:08:05刀が病床に臥すだなんてあまり面白いことではないけれど、当時はみんな肉体を持っていたし特に不思議には思わなかったよ。自己管理を怠れば体調を崩すっていうのは、あの頃の僕らにとって当然のことだったから。
2016-04-01 18:04:31最初は薬研くんの指示で薬を調合しながら倒れた刀の看病をしていたんだ。でも、薬は一向に効く気配がないし、看病していた側にも次々と感染が拡大していってね。最終的に、病床は完全に隔離されることになった。
2016-04-01 18:43:28不思議なことに、この熱病は人間には移らなかったんだ。だから主クンは率先して看病に当たっていたし、何か事態を打開する情報はないかって他の本丸や政府と必死に連絡を取っていたよ。……前例がない、以外の話は聞けなかったみたいだけどね。
2016-04-01 18:47:57手入れだって何度も試したさ。けれど、資材も手伝い札も減らないまま、ただ手入れ前と同じように熱に魘される刀が横たわっているだけで何の効果もなかった。幾度目かに主クンが静かに首を横に振って、それ以来手入れ部屋へ担ぎ込まれる刀はいなくなったんだ。
2016-04-01 19:02:13そうしている間に一月が経ってしまった。もう本丸の半数以上の刀が臥せっていたから、まともに機能していない名ばかり本丸に成り果てていてね。そして、主クンは審神者として重大な決断を下すようにと迫られたんだ。
2016-04-01 20:33:58彼は迷わず前者を選んだし、誰もその決断に異論を唱えなかったよ。そこからはあっという間で、数日のうちに手配された油を手分けして本丸中に撒き終わった。接触は厳禁だから直接顔を見て別れを惜しむことも出来ずに、僕たちはその時を待って、そして――本丸は炎に包まれた。
2016-04-01 20:51:38あとで聞いた話だけど、火を放ったのは長谷部くだったんだ。自分から志願したみたいだよ。彼らしいや。
2016-04-01 20:53:21なんでこんな話をしたかって? ……そうだな、今日という日に口に出せば、全部嘘になるんじゃないかと思ったから、かな。
2016-04-01 21:00:18なんてね、これは嘘だよ。――本当は、長谷部くんが折れて、久方ぶりに隣に並ぶことが出来たから、少しあの頃のことを思い出してしまったんだ。
2016-04-01 21:02:52これも嘘なんじゃないかって? 疑いたければ疑えばいいさ、僕にそれを止める権利はないからね。
2016-04-01 21:04:50でも、燃え盛る本丸に向かって長谷部くんが「主命を果たしたら必ずそちらに行く、だから待っていろ」と叫んだことだけは、本当だよ。
2016-04-01 21:08:31「おは よう、うそつきの長谷部くん」「悪かったな、有言実行出来ずに。……おまたせ、光忠」
2016-04-01 21:10:55おまけ
長谷部くんとは結構気が合いそうなんだけどね。でも彼、遺影になって喋らなくなったから話が出来ないや。
2016-04-01 10:33:40僕たちの死因? そうだな……どれが直接的な原因だったのかはわからないけれど、少なくとも最後に見たのが炎の海だったことは覚えているよ
2016-04-01 11:34:26たまに骨の僕たちに会いに墓参りへ連れて行ってもらうことがあるんだけど、いくら暗所に押し込められているからって日がなセックスばかりしているのはいただけないな
2016-04-01 12:20:59今日は嘘を吐く日だっていうのに、僕たちは相変わらず遺影のままなんだから主クンも人が悪いよね
2016-04-01 13:09:55