- tasobussharima1
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村の地上では、タイプ・バトウの解体が行われていた。残骸を覆うように即席の足場が組まれ、村の若者達が忙しく部品の取り外しを行っている。 手探り状態だが、解体作業は一歩一歩前へ進んでいる。 「……なんだ、このタンクみてぇなの」 「わかんね」 足場の上で、若者達が話し合う声が聞こえる。
2016-04-03 22:04:06「……間に合ったか!」 自動販売機の裏、複数存在する地下施設の出口の一つから這い出してきた老人と空海は、地上の様子を確認しながらタイプ・バトウの残骸へと駆け寄る。 「タンクというのは何処だ!?」 「これだ」 解体を行っていた少年を押し退け、空海は解体途上の残骸を覗き込む。
2016-04-03 22:08:05『タンク』と呼ばれていたのは……表面に曼荼羅めいた模様の浮かぶ花の蕾、あるいはフラスコめいた器官。 「これは……タンクではない」 深く安堵の溜息を吐きながら、空海は少年に告げる。それは、得度兵器の中枢。嘗ての徳エネルギー文明の要たる遺物、徳ジェネレータだ。
2016-04-03 22:12:05確かに、徳エネルギーを知らぬ者が見れば何がしかのタンクやボンベに見えることもあろう。空海は最悪の想像を振り払う。 「どうしたんだ、坊さん。そんな慌てて」 「いや……こちらの話だ。それよりも、得度兵器の解体は慎重を期すべきだ。何か仕掛けられていないとも限らない」
2016-04-03 22:16:05「わかってっけど……」 「最悪の場合、毒ガスが仕掛けられている可能性がある」 「得度兵器ってそんなもんまで使うんか!?」 「可能性の話だ。部品の回収は放棄すべきやもしれない」 「でもなぁ……」 少年は、タンク……いや、徳ジェネレータの方へ視線を移す。
2016-04-03 22:20:05「この中から、なんか聞こえんだよなぁ」 空海は徳ジェネレータの表面へ耳を寄せる。……だが、何も聞こえない。 「君にも聞こえるか?」 念の為、少年とともに解体を行っていた同じ年頃の青年にも尋ねるが、彼は首を横に振った。 空海は思考する。それが少年だけに聞こえているならば。
2016-04-03 22:24:01それは、何を意味するのか。単なる体質なのか、生まれ持った才能なのか。 (……或いは、感覚系の『奇跡』か) モデル・クーカイの中にも法話(テレパシー)の使い手が存在した。それと似た能力なのかもしれない。問題なのは、彼が聞いているものが幻聴でないとして、それは何を聞いているのかだ。
2016-04-03 22:28:03徳ジェネレータは徳遺物や『人間』から徳エネルギーを抽出するための機械だ。その中から声が聞こえるということが何を指すのか。 タイプ・バトウの機能停止から既に数日。事態は一刻を争うやもしれない。 「……金剛針(ヴァジラスーチー)!」 空海の手の中に、金色の小さな針が形成される。
2016-04-03 22:32:07