3260のSSまとめ

3260/三郎がTwitterで公開したSSまとめ タグ→#艦これ_3260SS
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3260/三郎 @3260_little

「のわっち!歌って」 なかば前のめりになって、舞風が言った。笑った顔は花がいっぺんに咲いたみたいに明るい。 「歌うって…私が?」 なにを、と訊くと、「のわっちの好きな歌!」とすかさず返ってきた。こうやって、舞風が無邪気に『むちゃぶり』をしかけてくることは珍しくない。

2016-03-30 01:03:14
3260/三郎 @3260_little

@3260_little 私の好きな歌って……ううん、そう、舞風が聴いて喜んでくれるような歌ーー。 「え…と、那珂さんの曲で…」 はっと思いついた曲名を口にすると、舞風は「うん、うん!いいね!」と大仰に頷く。 潮風に乗って、咲いたばかりの桜が舞った。

2016-03-30 01:08:25
3260/三郎 @3260_little

@3260_little 那珂さんの曲を拙い音でーーほんとうは少し恥ずかしいのだけれどーー歌う。 舞風は薄桃の唇のはしを上げ、私のメロディーに合わせて、とんとターンした。 風が吹いて、桜の花びらが舞い上がる。舞風の指先が空中をしなやかに漕ぐーーそうして彼女は桜の海を渡っていく。

2016-03-30 01:18:01
3260/三郎 @3260_little

@3260_little 私の歌声にのせて。 春先の、しずかな真昼のことだった。 夜が来れば、私たちは海に出る。

2016-03-30 01:20:20

ねぇ、しれぇ、なにしてるの。 しれぇ、お休みするのー?ふぅーん、ねぇ、おまじないしてあげようか。おまじない。いい夢が見れるおまじないだよ〜。雪風にもやってあげたんだよ、効いたんだからね〜 あー信じてないー

雪風はねー、怖い夢よく見るっていってたから。うん。怖い夢?うん、ときどき見るよね。みんな見るよ。仕方ないよね。
それより、しれぇってば!
おまじないするのー?しないの?

じゃあ、と私が頷くと、時津風は顔を明るくして、「おまじないするよー」と嬉しそうにした。 それから、めずらしく丁寧なしぐさで、 「ほら、しれぇ、屈んで」 私の手を両手で握って、額どうしをそっと触れあわせる。 「幸福な夜が訪れますように」

これは効きそうだと笑うと、時津風は、「ほんとに効くんだからね〜初風にも効いたよ」と頬を膨らませている。
時津風の、両の手と額のぬくもりを思いながらーー私も密かに「おまじない」をする。

どうか幸福な夜を、彼女たちに。

3260/三郎 @3260_little

眠れないのかと、私の背に声を掛けてきたのは磯風だった。闇の中で風が吹き荒れている。宿舎からわずかにもれる灯りだけが頼りだ。 「風がうるさくて」 「そうだな」磯風の黒髪は、夜に溶けて美しい。 「いくら暖かくなったとはいえ、外では冷える」彼女の澄んだ声が暗闇から届く。戻ろう浜風、と。

2016-04-17 01:38:26

▼磯浜
水平線に一筋の光が走る。曉の光だ。白く輝く陽は波間を走り、航行する私たちを明るく照らしていく。 勝利の夜明けだなーーと、私のとなりで磯風がしずかに笑った。 敵艦隊は夜戦にて撃滅した。
「帰投したらゆっくりと眠りたいものだ」
ほんの少し眠たげな様子を見せた彼女に、そうね、と頷く。
「ゆっくりしたいわ」
「なぁ浜風」
「なに?」
朝焼けと同じ色をした磯風の目がーー朝日にきらめいて綺麗。
「久しぶりに一緒に寝ようか」
「……どういう意味」
ぱっとふり向いた私に、どうもこうも、と磯風が笑ってみせる。
「そのままの意味だ」
「……構わないけど」
白んでいた空は、いつのまにか青く色づき始めている。初夏の潮風はやわらかく、息を大きくすうと海のにおいが肺に染みた。
全艦帰投します、という旗艦のーー川内の声を少し遠くに聞きながら、私たちは海のうえをゆるやかに滑ってゆく。
「一緒だぞ、」
浜風。
そう言った彼女の朝焼け色の目は、いまは前を向いている。
そのずっと先にあるのは私たちの鎮守府ーー私たちの帰る場所だ。
そうね、と私は答える。 ばらばらで終わってしまった、あの春はもう過ぎ去った。
高く青く染まった空を仰いで、私はひとり、こっそりと笑う。 今日は磯風のとなりで、ぐっすり眠ろうか。
end