ゾンビ中年トラックで爆走#2 ゾンビドライブ◆3

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＿ゾンビ中年トラックで爆走#2 ゾンビドライブ

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◆3

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＿トラックはゾンビの運転で街中を爆走する。やはりゾンビの運転は不正確で、車体が大きく揺れる。見るからに危ないので、周りの車は大きく距離を取っているため、今の所安全だ。 　レックウィルはナビを続ける。トラックは太い幹線道路へと侵入していた。 51

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「ベイベー俺は風になる……」 　同じ歌の同じフレーズを何度も繰り返すゾンビ。助手席のレックウィルは特に嫌がることなく、話題を切り出した。 「気持ちいいな。車を何台も追い抜いてさ」 「ああ、サイコーだぜ」 52

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＿ゾンビは両目から膿の涙を流す。それはタプタプの頬肉に一筋の跡を作った。 　レックウィルは安心した。彼は風になれたのだ。人生の最後に、自分の理想を手に入れたのだ。それがただのトラックの暴走であったとしても、彼にとっては人生の最後を締めくくる儀式だった。 53

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「行きたいところはあるかい？　どこまでも行こうぜ」 　レックウィルは話を続ける。ゾンビは黙ったまま運転していた。 「旅行なんかいいな。南にずっと行くと、旧都ナィレンがあるよ。凄い街だってな……途中のキシュアだっていい街だ。水道橋を辿る旅になるよ」 54

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「風は……どこへ辿り着くんだろうな」 　ゾンビはまるで独り言のように呟いた。 「風の辿り着く場所……そこはどこなんだろうな。風はどこへ向かう？　何を思う？　何を夢見て……何を目指すんだろうな」 　レックウィルは静かに話を見守る。 55

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＿膿の涙は枯れ、ぬぐうこともせず、ゾンビは続ける。 「俺の行き先は地獄だ。そこ以外のどこでもない。俺は、地獄に向かって真っすぐに進む。それ以外のどこも、回り道でしかない。俺は、地獄へ向かって駆け抜ける風だ。目的地なんか関係ない。ただ、駆け抜けることが幸せなんだ」 56

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「くだらない人生でも、俺の仕事が、誰かの役に立てる。その後俺がどうなろうと関係ない。俺は風なんだ。風の行き先に悩む奴なんかいない。ただ俺は風になって、誰かの前髪を揺らす。それが俺の生きざまであり、残すべき記憶なんだ」 　ゾンビはまだ、自分の仕事が犯罪の一端だと知らない。 57

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「俺は風だ！　風になったんだ！　誰かの心に吹いた、風になれたんだ！　なぁ、兄さん。俺は風になれただろう！？　ベイベー俺は風になる！　地の果てまで吹き抜ける風だ！　地獄へ行ったって、流れ続けてやる。なぜなら俺は……風だからだ！」 58

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＿ダッシュボードの上の無線電信が送る情報は、正確に自警団に伝わり、いまでは道路封鎖によって周りに車はいなかった。違法魔法使用のペナルティも取り消してもらってある。赤煉瓦の街並みは遠くなり、郊外の、鉱毒に汚染された森が濃くなってくる。レックウィルのナビが導いた道。 59

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＿やがてクレーター状のクノーム市の外縁にある、巨大環状道路への入り口が姿を現わした。 「ドライブにはいい道だよ。さ、そこを右だ」 　レックウィルはそう言って、交通標識を指さしたのだった。 60

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＿ゾンビ中年トラックで爆走#2 ゾンビドライブ（了） #3 天国へ駆け抜ける風 へつづく

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【用語解説】　【鉱毒】 多様な鉱物が世界中で産出する一方、無計画に採掘した結果、有毒物質が噴出し壊滅した鉱山都市はいくつもある。クノーム市も例外ではなく、最初露天掘りしていた頃はよかったものの、希少金属を求めてさらに深く坑道を掘り始めた結果、作物が育たないほど汚染されてしまった