稲川淳二の『つぶやき怪談』(2016.04.26)

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稲川淳二 @Junji_Inagawa

リヤカーは、引っぱっても引っぱっても、 ピクリとも動かない。

2016-04-26 22:07:31
稲川淳二 @Junji_Inagawa

おばさん、どうして止まったのか見たいけど、 闇の中ですからね。

2016-04-26 22:07:54
稲川淳二 @Junji_Inagawa

なんだか、むしょうに恐くて、 振りむけないわけなんです。

2016-04-26 22:08:21
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうこうしていると、自分が今入ってきた方向から、 “コツンコツン、パチャッパチャッ” って、足音が近付いてきた。

2016-04-26 22:08:46
稲川淳二 @Junji_Inagawa

おばさん、 (ヤダーッ!) って、心の中で叫んだそうです。

2016-04-26 22:09:11
稲川淳二 @Junji_Inagawa

さっき、自分が山道を来た時には、 後には誰もいなかったわけですよ。

2016-04-26 22:09:36
稲川淳二 @Junji_Inagawa

追いついてくるっていっても、 よっぽど急ぎ足でないと無理ですからね。

2016-04-26 22:10:06
稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、 “コツンコツン、パチャッパチャッ” と、足音は、水たまりを踏みながら、 確実に近付いてきているんです。

2016-04-26 22:10:49
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、リヤカーは相いも変わらず動かないまま、 足音は、とうとう最後には、おばさんの背後で止まりました。

2016-04-26 22:11:21
稲川淳二 @Junji_Inagawa

って、思った瞬間、 「どうかしたんですか?」 って、男の人の声が訊いてきたんです。

2016-04-26 22:12:00
稲川淳二 @Junji_Inagawa

おばさんが恐々と後ろを振り返って、懐中電灯で照らしてみると、 リヤカーのすぐ後ろに足が見えて、 作業服に地下タビ姿の男の人が立ってました。

2016-04-26 22:12:40
稲川淳二 @Junji_Inagawa

おばさんが、ほっとして、 「リヤカーが動かなくなっちゃって困ってたんです」

2016-04-26 22:13:12
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と言うと、 「ああ、そうですか」

2016-04-26 22:13:45
稲川淳二 @Junji_Inagawa

って、リヤカーのお尻をちょっと持ち上げて、 押してくれた。

2016-04-26 22:14:17
稲川淳二 @Junji_Inagawa

するとどうでしょう、 リヤカーはいとも簡単に、スルスルと動き出したんです。

2016-04-26 22:14:58
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ああ、そうすればよかったんですか」 って、おばさん、お礼を言って歩き出しました。

2016-04-26 22:15:41
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「助かりました。一時はどうなることかと思いました。 おまけに、あなたの足音を聞いた時は、幽霊かと思って・・・。 いやですねー」

2016-04-26 22:16:20
稲川淳二 @Junji_Inagawa

なんて、調子で歩いていくと、 もう、出口が目の前に見えてきた。

2016-04-26 22:16:57
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「本当に助かりました。 私は、村まで行くんですけど、 あなたは、どちらまで行かれるんですか」

2016-04-26 22:17:56
稲川淳二 @Junji_Inagawa

って、声をかけたけど、返事がないんです。

2016-04-26 22:18:26
稲川淳二 @Junji_Inagawa

もう一度、 「ありがとうございました」

2016-04-26 22:18:52
稲川淳二 @Junji_Inagawa

って、言っても、返事がない。

2016-04-26 22:19:28
稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時、おばさん、 (えっ!?) って、思ったんですよ。

2016-04-26 22:20:13
稲川淳二 @Junji_Inagawa

というのも、聞こえてくるのは自分の足音とリヤカーの音だけで、 ついてきているはずのおじさんの足音は、まったくないんです。

2016-04-26 22:20:51
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(どうしたんだろう)って、思った瞬間、

2016-04-26 22:21:26