このクソ暑い日にあなたの力を借りたい#1 社交界と抗争◆3
_メアレディはパンツスーツ姿で、帝都の裏通りにいた。ちょっとした島よりも大きな帝都には、当然闇も存在する。異臭がする、汚い小道。空を埋め尽くす無秩序な高層建築。たくさんの小さな窓には小汚い洗濯物。まるでごみ溜めの中にガラスの花を放り込んだように、メアレディは浮いていた。 21
2016-05-01 15:51:26_帝都の闇を支配する、いくつもの非合法ギルド、盗賊ギルド。その一つ、レインクラウド・ファミリー。小規模のギルドであり、もっと大きなギルドの傘下にある。今回の潜入先だ。 案内人に導かれ裏通りを抜けると、貸倉庫が並ぶ陰気な場所に辿り着く。今回の仕事場は、ここらしい。 22
2016-05-01 15:57:55_アルコフリバスは結局同行しなかった。後ろを振り向くと、すでに数人の男に尾行されていた。ファミリーの者だろう。メアレディは気にしないことにした。怪しい行動をしないか見張ると共に、威嚇しているのだ。 メアレディは一応顔を変えている。いつもより地味に。 23
2016-05-01 16:03:26_冒険者5人分の力があると豪語していたが、それならば正面から殴りこんで全部破壊すればいいのに、とメアレディは思わないでもない。 (役に立たないジジイですこと) (おい、酷い言い草だな! クソ女が!) 思考に割り込んでくるテレパスの声。 24
2016-05-01 16:09:35(ちょっと、不要なテレパスはやめてよ! みつかっちゃうでしょ!) (思考の暗号化は得意なんだよ、ま、もうすぐ切るが……念を押すぞ。決定的な証拠を掴むんだ。もしダミーのアジトだったら、不法行為を咎められるのはこちらの方だ。親ギルドが黙っちゃいない) (分かったって) 25
2016-05-01 16:14:47_今回は希少魔法の取引をファミリーに持ち掛ける、という設定で潜入捜査を行っている。懐に忍ばせた希少調合魔法は本物だ。 一つの貸倉庫前に男がいた。言葉を交わさず内部へと案内される。違和感を覚える。 「魔法通信を遮断した」 男が囁く。 26
2016-05-01 16:20:15「テレパスを封じさせてもらったぞ。最新技術を扱っている企業なら、よくある設備だよな……実に合法的な魔法装置だ。何も問題は無い。そうだろう?」 メアレディは黙って頷いた。これではアルコフリバスを呼べない。ここまで本格的な設備だとは予想外だった。ただ、まだ手はある。 27
2016-05-01 16:25:34_予想外だが、想定外ではない。要は、取引を円満に終了させればいいのだ。何食わぬ顔でここから去り、その後アルコフリバスに強襲させる。 倉庫の扉をいくつかくぐると、ガラスケースの並ぶ広い空間に辿り着いた。白衣を着て机で顕微鏡を覗く作業員。 28
2016-05-01 16:30:15_ガラスケースに目を凝らすと、小さな羽虫が大量に飛び交っているのが分かった。 (ウィルスに感染させた蚊だ……大規模テロにはうってつけじゃない。でも、まだ証拠とするには早いね。ウィルスを確認しないと、殺虫剤の研究でも何とでも言える……) 29
2016-05-01 16:34:59_ウィルスを確認するには、特別にカスタマイズした毒物探知の魔法を用いる。ただ、集中力が必要だ。どこかで安静にできるタイミングを掴むしかない。探知範囲も半径5メートルと小さい。どうしようか考えているとき、案内の男が話しかける。 「なぁ、いい話があるんだ……」 30
2016-05-01 16:40:18【用語解説】 【探知顕微鏡】 微小なものを観測する際に使用する、探知魔法の増幅装置。通常は顕微鏡と短く呼ぶ。魔法は視線によって効果を発揮するが、視線を収束させることで、小さな物をより詳しく探知することが可能になる。探偵や錬金術師の道具であり、高価なため市民は持つことは無い
2016-05-01 16:45:42