- sweetblue83
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・・ジュリエット・・ 1. はぁ…。 終わった。 心地いい疲れと充実感。いろんなことあったけど、やれるだけのことはやった。一つ階段登れたかな、って。 ** 「ただいまぁ。」 「おかえりー、お疲れさまぁ。」 ふふって笑ってもうたのはいつもとおんなじやったから。
2016-04-09 20:07:352. 「意外と早かったね。」 「みんな明日仕事やって。俺もやし。」 「そっか。忙しいなぁ。」 ほんわか笑いながらリビングに戻るんもいつもと同じ。 せやねん。 この数か月俺がどんなに煮詰まっててもイライラしてても、ずっと変わらず何も聞かんと「お疲れさまぁ」の一言だけ。
2016-04-09 20:09:323. 帰り道しみじみ思うた。すげーなーって。こいつ俺より肝座ってんちゃうかなって。ちょっとだけ意外だった。 …せやけど、さ。 「なぁあ?」 「んー?」 前を行く彼女を後ろからギュッと抱きしめて首元に顔を埋める。 「お疲れさま会して?」
2016-04-09 20:10:254. 「今してきたんでしょ。」 「あんなんじゃ足りひんもん。俺、めーっちゃ頑張ってんで?」 「知ってる(笑)」 それから彼女はささっと俺が好きなもん作ってくれて。 他愛のない話に嬉しそうに付き合ってくれて。 ソファーに座ってじゃれ合って。たっぷり甘えさせてもろうて。
2016-04-09 20:12:465. 疲れた身体も固くなってた心もどんどん溶かされていった。 「なぁなぁ、」 「ん?」 「俺、いい男になったぁ?」 「ぷっ、何それ(笑)」 「男は仕事で磨かれるってゆーやん?俺、どぉ?」 「さて、どうだろ。」 品定めするみたいに視線を動かす。 「まぁまぁかな。」
2016-04-09 20:13:456. 「ひっど!」 「この程度で満足するな。」 舌を出す。なんやねん、もぉ。 「そんなんゆーて、俺またでっかい仕事させてもろうて、ええ男になったらめっちゃモテるかもしらんで?どーする?」 「大丈夫、私から離れられないくらい惚れさせてるから。」
2016-04-09 20:14:257. いたずらっぽく笑った彼女に、かなわんなって思った。 *** んん… いつの間にか寝てもーてた。 身体にかけられた温かい毛布。 (あれ?どこ行った?) 寝たんかな、寝室に行きかけてキッチンの灯りがついているのに気づく。テーブルに突っ伏してる彼女。
2016-04-09 20:15:258. (そっちが風邪ひくやんか) 苦笑しながら近づく。 (え?) 細かく震える身体。 「おい?」 肩に手を置くとビクッとしてこっちを見た。 やっぱり… 真っ赤な目。慌てたように視線を逸らして俯く。 「ちょっ、なしたん?」 首を振る。 「なんなぁ?」
2016-04-09 20:16:189. 困ってもうて背中を撫でると小さくしゃっくりをあげた。 「章、ちゃんがっ、気持ちよさそうにっ寝てるから…、」 「ん?」 「あ…安心、したぁ…。」 堰を切ったように泣き出した。 「ふぇ?」 「怪我ぁ…しなっ、いで。」 「え、」 「病気とかっ…もしないっ、で。」
2016-04-09 20:18:1510. 「あ、」 「おっきな…おっきな…」 ミスもせず? 「章、っちゃ…、章ちゃんはぁ…。章ちゃんのっ…こと…だ、からぁ、大丈夫って思…、けどぉ…。」 もうぐちゃぐちゃのボロボロ。なだめようと背中をさすると、力いっぱいしがみついてきた。 「章ちゃーん…」
2016-04-09 20:23:4211. そのあとはほとんど聞き取られへんかったけど。 今回の仕事が始まったころ、俺が呟く言葉に時々すごく心配になったこと、途中で“海行きてー、”って口にしたときやっとちょっとだけ安心したこと、終わりに近づくにつれてだんだん顔つきが変わってきて元の俺に戻らへんのやないかって
2016-04-09 20:24:3412. 不安になったこと、今日の“ただいまぁ”の声に身体の力が抜けたこと、ポツリポツリと話してくれた。 「そうやったん…」 何も気づいてへんかった。 「ありがとう。」 もうその言葉しか出てこーへん。 「章ちゃん…好き。」 「ん。」 「かっこ良くなった。」
2016-04-09 20:25:4813. 「ホンマ?」 いまだ震える背中をゆっくり抱く。 「章ちゃん…、」 「ん?」 「また…プレッシャーでつぶされそうなくらい大きなお仕事来るといいね。」 「え…、」 「章ちゃんなら、大丈夫。」 ギュッと回される細い腕。 熱いものがこみ上げてきて。
2016-04-09 20:26:4014. けど今は泣いてるとこ見られたなくて。 「断るで、しばらく。」 「え?」 「そんな思いさせたないもん。」 びっくりした顔で見上げる彼女に、笑って見せた。 「どーする?」 「大丈夫だし!」 真っ赤になった鼻をすすって涙を拭いた。
2016-04-09 20:27:3615. ** 「んー!なんかしたいことある?」 買い物?旅行?何が喜ぶやろ。 「したいこと…寝たい。」 「!!そぉなん♡?けど明日さぁ。いや、でもそーか。そぉなんかぁ。そぉよな。ずっとなかったもんな。」 「違うよ。寝るの。」 「おん?」 腕をつかんで寝室に誘う。
2016-04-09 20:29:1416. 二人してベッドに入った。 これは… 「章ちゃん、おやすみ。」 「え…、」 しばらくすると本当に聞こえてくる寝息。 拍子抜けはしてんけど。それでも幸せそうにスヤスヤと眠る彼女の顔にゆっくり心が癒されていく。 (泣き疲れか?) まだ赤い鼻を弾いてハッとした。
2016-04-09 20:30:2517. (こいつ、こんなふうに寝るんやっけ) 重圧でなかなか寝付けへんかったとき、隣で眠る彼女の顔を見て平和やなって思ってた。その寝顔にどこか安心して、俺も眠りについてた。 けど。 俺が眠れへんかった翌日、こいつも眠そうに欠伸してた。 (寝れてへんかったんや)
2016-04-09 20:31:2318. 自分にしかやれへんことやって、一人でやりきらな思ってた。 そして、やれたと思ってた。 (一緒に戦ってくれてたんな、) 涙のあとの残る頬にキスをして、起こさんようにそっと抱きしめる。 「章ちゃん…お疲れさまぁ、」
2016-04-09 20:31:5819. 寝ぼけた声で微笑む彼女を抱いてると俺のほうが包まれた気がして、久しぶりに穏やかな眠りに落ちて行った。 pic.twitter.com/UlIzJUE1b9
2016-04-09 20:43:04