フォア・ザ・ブルースカイ #6

ロシアではありません、ネオホッカイドウです
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2016-05-02 21:01:16
劉度 @arther456

【フォア・ザ・ブルースカイ】#6

2016-05-02 21:02:13
劉度 @arther456

「タクシーッ!」提督の前を、タクシーが無情に通り過ぎていった。極東軍とロシアンマフィアの溜まり場である『ウースタ・クラリエーバ』の前で、ボロボロになって必死に助けを求める人を拾うタクシーなどありはしない。この街では誰もが、極東軍相手に面倒事を抱えたくないと思っている。1

2016-05-02 21:03:05
劉度 @arther456

何度か無視された後、提督は諦めて港に向かって走りだした。港までは1km。ただしそれは、大通りをまっすぐ行った場合の話だ。「……ヤバッ!」慌てた様子でこちらに向かってくるマフィアを見つけた提督は、慌てて路地に逃げ込んだ。見通しのいい道は危険だ。2

2016-05-02 21:06:11
劉度 @arther456

人通りの無い道に入ったところで、提督はスマートフォンを取り出した。『蔵王』の指令部にかける。《もしもし!?》「こちら提督!待機してる陸戦隊を動かして!」《交渉決裂ですか!?》「うん。C3ブロックで待ってる!」《了解!》電話を切る。同時に、今度は着信メロディが流れた。3

2016-05-02 21:09:06
劉度 @arther456

画面を見ると、不知火からの着信だった。提督は迷わず通話ボタンを押す。「もしもし!?」《提督!ご無事ですか!》「なんとか!今どこ!?」《水槽から舞風を引き上げて、ホテルから脱出しました。……戦ったんですか、教官と?》「ごめん。止めらんなかった」《……生きてるから良しとしましょう》4

2016-05-02 21:12:08
劉度 @arther456

「って、舞風も負けてるの!?」裏返った声。銃を持たせて舞風の右に出る者はいない。そう信じていたから、提督も舞風を強く止めなかったのだ。《ええ。提督、今はどちらに?》「C3ブロックに陸戦隊を呼んで、そっちに向かってる!」《分かりました。C3ブロックへ》エンジン音が聞こえる。5

2016-05-02 21:18:01
劉度 @arther456

「……不知火、車に乗ってるの?」《ええ。タクシーを止めました》「止まってくれたの!?」《ええ。前に飛び出して、動きを止まった所に銃を突き付けて》「うん、分かった。もういい」非常時である。不知火を咎める気は無いが、運転手には後で謝礼にイロをつけなければいけないだろう。6

2016-05-02 21:21:02
劉度 @arther456

「それで、教官はどこにいるの?」不知火は少し考えてから答えた。《ロビーにはいませんでした。気をつけてください、提督。教官は間違いなく、提督を追っています》思わず振り返る。幸い、人影は見当たらなかった。「……不知火、一つ聞きたいんだけど」《何でしょうか》「その人の名前、分かる?」7

2016-05-02 21:24:02
劉度 @arther456

《……名前ですか?》不知火の声は不審げだ。《聞いて何になるのですか》「いや、人間だって確認したくて」今の提督は得体の知れない怪物に追われている心地だった。せめて名前だけでも聞いておけば、同じ人間だと思い込むことができる。気休めにしかならなくても、提督はそれを欲していた。8

2016-05-02 21:27:03
劉度 @arther456

《ダルス・エンゼルシー》不知火の口から、名が告げられる。《本名かどうかは、分かりませんが。昔、そう教えていただきました》「ありがと」偽名でもいい。相手は名前が必要な存在だ。どこからともなく現れる恐怖の化身ではない。そう、そこの角から現れたマフィアのように。9

2016-05-02 21:30:08
劉度 @arther456

「うえっ!?」「オウッ!?」突然の遭遇にお互い驚く。それから提督が銃を抜き、引き金を引いた。相手は一撃で撃ち倒される。問題は、乾いた発砲音が辺り一帯に響いてしまったことだ。「何の音だ!?」「あっちだ!」「逃がすなー!」四方八方から殺気立った声が響き渡る。10

2016-05-02 21:33:06
劉度 @arther456

提督は倒したロシアンマフィアの銃を拾った。トカレフTT-34。二昔前のロシア軍の制式拳銃だ。愛用のブラックホークを腰のホルスターに収め、提督はトカレフを構える。自動拳銃は慣れないが、多人数を相手にするとなると、やはり装填数がモノを言う。11

2016-05-02 21:36:03
劉度 @arther456

警戒しつつ、時に隠れながら、提督は陸戦隊との合流地点へと走る。だがその途上、少し広くなった道路で、とうとう黒塗りの高級車に見つかった。慌てて提督は石段の影に隠れる。車のドアが乱暴に開き、中から無数の弾丸が吐き出される。提督の頭上を、鉛弾が通過していく。12

2016-05-02 21:39:02
劉度 @arther456

銃火が弱まったところで、提督は顔を出した。まず車の前にいた2人に発砲。数発は車に当たるが、残りは2人に命中。それから地面に伏せ、車の下の隙間を通して、陰に隠れていた1人の足を撃ち抜く。倒れたマフィアの胴にもう一発。更にそれを助け起こそうとしたマフィアの太腿も、同様に射撃した。13

2016-05-02 21:42:04
劉度 @arther456

「ったく……!」提督は物陰から出て、車に駆け寄った。トドメには構わず、落ちた銃を拾い、今持っていたマカロフと交換する。そして、太ももを撃たれてのたうち回っているマフィアの銃を遠くに蹴り飛ばす。これで脅威は排除した。そう思った矢先、提督の体が吹き飛んだ。14

2016-05-02 21:45:02
劉度 @arther456

「がっ!?」止まっていた車に別の車が突っ込んできた衝撃が、提督の体を路上に叩きつけた。怯みながらも提督は体を起こす。振り向いた提督は、その場で凍りついた。後から突っ込んできた車の運転席のドアが開き、黒いコートを羽織った金髪の男が降りてくるところだった。15

2016-05-02 21:48:05
劉度 @arther456

額に巻いた黒いバンダナの下から血を流し、右肩も鮮血に染めながらも、色鮮やかな緑の瞳は提督だけを見据えている。恐怖に睨まれた提督は、彼が懐のホルスターから拳銃を取り出し、自分に向かって構える、ゆっくりとした映像を、瞬きもせずに見つめることしかできなかった。16

2016-05-02 21:51:08
劉度 @arther456

――トカレフの弾丸は、同世代の拳銃弾と比べると射程距離が短い。その代わり火薬の量が多く、更に安物の銃弾は正規品より硬い材質を使うため、貫通力に優れるものもある。提督の撃った弾もそのひとつで、車の板金を貫き、ガソリンタンクに穴を開ける程度の威力は持っていた。17

2016-05-02 21:54:05
劉度 @arther456

激しい爆風が、二人を横合いから殴りつけた。ガソリンの漏れた車に、別の車が追突したのだ。起きて当然の爆発事故だった。18

2016-05-02 21:57:03
劉度 @arther456

彼はすぐに目を覚ました。熱風。火が燃える音。焦げ臭い匂い。頭を振って起き上がる。提督はどこだ。視線を動かすまでもなく、すぐそこにいた。向こうも彼と同じように起き上がったところだった。視線が合う。「――ッ」その場から飛び退ろうとしたが、彼は思い止まった。下手に動けば撃たれる。20

2016-05-02 22:00:13
劉度 @arther456

動いた瞬間、提督は銃を抜き、こちらに照準を合わせ、彼の体を撃ち抜くだろう。その程度の使い手だと、彼は直感していた。逆に向こうが先に動くのなら、彼はその場から動き、射線を避け、それから反撃できる。しかし提督も彼の技量を察したのか、銃に伸ばす手を寸前で止めた。21

2016-05-02 22:03:05
劉度 @arther456

動けば撃たれる。撃てば動く。彼の右肩から、血が滴り落ちる。いつまでも睨み合いはできない。彼我の距離はおよそ5m。手は届かないが銃なら届く。さっきの爆発で銃を落としたが、ホルスターにはもう一丁の銃がある。だが、彼が銃を抜く素振りを見せれば、提督もすぐに銃を抜くだろう。22

2016-05-02 22:06:10