鳥籠の王子と幸せな娘#1 幸せな王子◆3
_平和な時代は突如として終わりを告げる。中枢都市ナィレンで大規模な騒乱が起きたという情報が入ったときには遅かった。混乱するエベンジェ政府の隙をついて、各地で武装集団が蜂起したのだ。武装集団は銃や爆弾、戦車まで所持していた。 すぐさま軍に鎮圧を要請する。様子がおかしい。 21
2016-05-12 18:04:53_軍が沈黙したまま返事もよこさないのだ。明らかに武装蜂起を黙認している。政府首脳は訳が分からなかった。そもそも、武装集団の装備は軍のものと同じなのだ。 「近衛兵団は!?」 「動けます!」 政治家と王族は中央塔に退避をする。それしか味方はいなかった。 22
2016-05-12 18:10:37_王族直属の近衛兵団は抵抗を続ける。それも長く続かなかった。 「王政打破!」 「革命!」 「革命だ!」 押し寄せる武装集団は同じような言葉を繰り返し、血走った眼で突撃を続ける。その動きは半狂乱の見た目とは裏腹に、奇妙に統制が取れている。 23
2016-05-12 18:15:54_近衛兵団の抵抗もむなしく、中央塔は陥落した。エベンジェのピラミッドの頂点に武装集団が踏み入る。政治家や王族が次々と捕らえられ、その場で銃殺された。ただ、王子を除いて。 王子は呆然としていた。彼の全てが一夜にして奪われた。 「なぜ……どうして……」 24
2016-05-12 18:21:28_王子には理由が分からなかった。自分以外は全員殺され、一人だけ武装集団の特殊部隊に拘束されている。椅子に縛り付けられ、身動きも自害もできない。 「僕がいけなかったのか? 正しいことをしてきたと思ってたのに……」 やがて、一人の娘が現われた。どこにでもいる、スーツの労働者。 25
2016-05-12 18:27:38「総帥! 命令通り、確保しました!」 「よろしい」 特殊部隊が敬礼をして、娘に報告をする。僅かに年上だろうか、ただの労働者にしか見えないのに、まるで……。 「革命の乙女と呼ばれたりしてるけどね、そうは見えないでしょ、王子様」 まるで疑問に答えるように、呟く娘。 26
2016-05-12 18:33:44「君は誰だ……?」 その言葉に、一瞬目を鋭くする娘。すぐに柔和な笑顔に戻る。 「知らないでしょ、当然だもんね。私はミルエリ。ただの労働者。いまは、革命の主導者。この国は我々のものになった……そして王子様もね」 王子の目に初めて怒りがこもる。 27
2016-05-12 18:38:32「ミルエリか。何のためにこんなことをしたんだ! たくさんのひとが戦って……死んだんだぞ。その亡骸を幾人も見た。その犠牲は必要だったのか! 以前の民の暮らしは、こんな犠牲に見合うほど苦しいはずがなかった」 「ああ!」 ミルエリの表情が歓喜に染まる。 28
2016-05-12 18:42:49「いま、私の名前を呼んでくれた! 初めて王子様の心の中に私が存在した……ずっと待っていた、この時を。そのためならば何人死んだってかまわない。それに、誰もおかしいと思わないはず。私のカリスマの魔法が全てを解決するから」 ぶるぶると震えて自分を抱くミルエリ。 29
2016-05-12 18:47:31「僕が欲しいから……そのためだけに……?」 王子は顔を歪ませミルエリを睨む。それでさえも彼女には甘露となった。 「ああ、私をだけを見てくれる。王子様はきっと私のことを一日中考えてくれる。それがたとえ、怒りだったとしても!」 ミルエリは顔を赤らめどこまでも幸せそうだった。 30
2016-05-12 18:53:13【用語解説】 【エシエドール帝国の崩壊】 エシエドール人の国家であったこの帝国は、北方の異民族であるインペリアル・ティール人とインペリアル・グレイ人の連合軍との戦争に負けて崩壊した。インペリアル諸部族は魔法大系を古代神秘帝国から受け継ぐ文化があり、科学文明と対立していた
2016-05-12 19:00:38