twnovel

気の向くままに書き散らした情景たち。
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朋子 @tomokomoto

#twnovel 太陽は莫大な光で昼空に君臨し、晴天の月はとろけるように微笑んでいた。雷鳴の如く轟くのは、大海のうねりか大地の軋みか。風は気高く吠え、茫漠たる草原は地平線をも緑に染め上げる。そんな久遠の景色のただ中で私は怒号した。きみの居ないこの世になど何の意味があるのかと。

2009-12-11 13:41:15
朋子 @tomokomoto

#twnovel 「まさに鬼の霍乱か」などと言いながら熱の籠る額を撫でて来るので、きみのせいだからな、と睨んでやった。「そんな眼をするな。宵の頃より艶っぽい」そんな含み笑いの声を浴びながら、目隠しを甘んじて受ける。どうあっても喰うくせにと震わせた喉を、きゅ、と強く吸われた。

2009-12-11 09:49:54
朋子 @tomokomoto

#twnovel その柱、人がこの世に在ったことを雄弁に示し、魂を浄化せんがために大地に立つ。ある賢人がそれを墓と呼び、やがて風雨に溶け魂は次の廻りへと流れていくと諭した。「ならば、お前はまだここにいるのか」と友に問う。光を孕んだ雨がしっとり降った。それが彼からの答えのように。

2009-12-10 10:30:01
朋子 @tomokomoto

#twnovel 春の空に映える艶髪も夏の光に負けぬ瞳の輝きも、秋の錦も妬くほどの頬も冬の雪と見紛う肌も、唯々愛おしかった。ひととせ廻り再び大地が芽吹く頃、この手で君を咲かせ、散らした。「共に沈んで下さい黄泉の闇へ」と見知らぬ世界へと君は誘う。毒が香る唇に、私もそれを重ねた。

2009-12-10 15:47:24
朋子 @tomokomoto

#twnovel 光華を孕む驟雨の午後。燦々と濡れながら天を仰ぐ彼に見惚れる。流し目でチラリと見咎められ、思わず「何をしている」と唸った。「御祓だよ。こんな雨には濡れたくなる」そう彼は微笑み、「それとも、きみが清めてくれるかい?この血まみれの僕を」春色重ねの襟に指を添えた。

2009-12-09 17:15:06
朋子 @tomokomoto

#twnovel 彼の髪を食んだ刹那、視野が深紅に濁った。肺は焼け骨は軋み脳は沸く。「まさか毒を……」辛うじて声を絞れば、彼が婉然と笑んだ。「悠長に話してる暇はないんだ。早く流さないと僕まで危ないからね」そう事も無げに言うので私も笑った。喉を掻きながら、血の逆流を感じながら。

2009-12-09 14:09:16
朋子 @tomokomoto

#twnovel 生きとし生きるものが呼吸を忘れぬような。雨の一滴が怒濤となりやがて海へと帰るような。星が描く物語が日々移ろうような。太陽が煌めくような。そんな普遍の微笑みひとつで、彼は我が心をくすぐった。 彼と共にある薫風の午後、改めて誓うのである。「復讐を」と——。

2009-12-09 11:13:30
朋子 @tomokomoto

#twnovel 見事の一言である。雲間より落ちる光も、降る花も、神楽を舞う彼のために誂えられたかの如く。袖長の衣裳を羽衣の如く靡かせ、円を描いた裾で降り積もった薄紅を巻き上げる。その幔幕の向こう舞いを納めた彼が祈りの姿で天を仰いでいた。喝采がわき起こる。私はただ、唯々泣いた。

2009-12-08 10:30:31
朋子 @tomokomoto

#twnovel 微風を感じ目蓋を押し上げた。枕頭に添う彼を見る。普段は見せぬうなじを黒髪を結うことで晒し、夜着はしどけなく崩れたままだった。鎖骨に咲く鬱血の花を眺めれば「おはよう、見事な月だよ」と流し目で笑まれ、咎めるように扇を揺らす。そこに雲母で描かれた蛍がチラリと舞った。

2009-12-07 15:47:28
朋子 @tomokomoto

#twnovel 「ひとつを失い、ひとつ悟りを開く。諦めの後に昇華された唯一のものこそ、己という確固たる形であり、森羅万象の理に我が身が溶けるということだろうよ」 そう、明星煌めき夕雲棚引く西天を臨み、彼が言った。ああ……と我は悟る。彼はもうこの世に何の未練もないのだと。

2009-12-05 10:06:07
朋子 @tomokomoto

#twnovel 銀杏並木に夕陽が渡り景色は朱と金の錦を誇る。ふと足元から夜風が立ち昇り朽ち葉を舞い上がらせた。それらは影となって数歩先を行く彼の黒髪と共に舞う。なるほどその艶髪は夜の帳を模したものかと呟けば、「おや、今宵は蛍が遊ぶか。きみが私を口説くなど」と流し目で弄われた。

2009-12-04 13:10:34
朋子 @tomokomoto

#twnovel 「祈れば救われる……ねえ。神など信じぬ男が上手く囀るもんだ」ククと彼が笑うので睨む視線をそちらに流した。芝居がかった驚愕の後、彼は一足で背後に灯る。「きみを救ったのは僕だ。神なんかじゃない。それとも僕を神にしてくれるかい?」そんな囁きに今度は笑みを送ってやる。

2009-12-04 09:14:51
朋子 @tomokomoto

#twnovel 純白の景色に紅の輪が広がる。そのただ中に立つのは黒衣の男だった。血振りの一閃さえ輪の内側を汚さぬ。覚れば赤い輪は彼の間合いだった。降り続く雪が斬られた者たちを飲み込んで行く。「寒いねえ」と息で口許を煙らせながら彼は笑った。「これっぽっちじゃ爪先すら温まらない」

2009-12-03 12:36:22
朋子 @tomokomoto

#twnovel 丁寧に体を清める。水の冷たさに血は火照り、情事の跡が紅色を濃くした。ちょうど鼓動の上、執拗なまでに吸われたそこには、痣が牡丹の花を真似て咲いていた。命そのものが咲き誇っているように感じ、思わず苦く笑う。「らしくない」と呟いて、濡れたままの肌に白い衣を滑らせた。

2009-12-03 09:23:18
朋子 @tomokomoto

#twnovel 火を通したものは喰わぬと言う彼を真円の瞳で眺める。「身体が重くなるんだよ。獣が敏捷に動けるのは生ものしか喰わんからだ」そう諭さんとする彼を「だが、旨いぞ」と串焼きを差し出し口説こうとすれば、微笑みが苦笑いに変わった。「ま、生き方の差だね」彼は呟き、花を食んだ。

2009-12-02 13:40:56
朋子 @tomokomoto

#twnovel 腕の付け根を押され悲鳴を飲んだ。彼が肩を竦める。「あの島で負った傷が因を成してる。これは一生引きずるよ。冷やさぬことだ。そうすれば軽く動く」と指を引いて言うのだ。「生かすと殺すは紙一重ということだな。さすがは人間の玄人だ」そんな言葉に彼は白んだ瞳を向けて来た。

2009-12-02 09:05:10
朋子 @tomokomoto

#twnovel 涙を拭われ頬を撫でられ、彼は睨む瞳を緩めた。眉間がひどく痛む。眉根に引きつるままに皺を刻み、瞼を落とした。 頬に感じる温もりは命の温度、血の流れる証。はるか太古より受け継いだ尊い温もりである。だが、それがなんだというのだと彼は笑った。そして、刃を振り下ろす。

2009-12-01 16:29:11
朋子 @tomokomoto

#twnovel 九つ数えて己を保つ。刃振りの風と共に壱から順に訥々と、ひいふうみいよと狂えと唄う。宇宙の完結を示す「九」を読む刹那のみ、人であると、まだ人でいられるとまじなうのだ。たった一秒の正気。それすらも虫酸が走ると唄いを止めて、屍の道をゆっくり歩いた。まっすぐ歩いた。

2009-11-30 23:05:44
朋子 @tomokomoto

#twnovel あれは何?と指さした幼き日、芍薬という名の花だと教えられた。海も道も街も人もこの目に映るものは、みな等しく名の呪縛を受けて煌めいていた。魂切れることにすら死という名があるというのに、それを与えし我には無い。本当の名前などないのだと、せめて笑う。笑うしかなかった。

2009-11-30 22:53:50
朋子 @tomokomoto

#twnovel 灯に遊ぶ羽虫の鱗粉が刹那の煌めきを放つ。それに目を細つつ、「産まれることは奇跡でも、死は命あるものに訪れる必然だからね」彼が朗らかに言った。「なるほど、死はお前を裏切らないか」と呟けば、微笑みを浮かべて彼は去った。残されたのは、壁に針で打たれた羽虫の亡骸だった。

2009-11-28 13:17:35
朋子 @tomokomoto

#twnovel 血は赤いということ、時は決して遡れぬということ、そして——きみが逝くこと。胸に沈みゆく刃とともに彼の呟きが近寄って来る。ついに灼熱に焼かれ闇に沈めば、もう答えなど返せぬ問いでちゅくりと耳朶を濡らされた。「どうだい?歪められない真理の一部となった気分は」

2009-11-27 16:24:49
朋子 @tomokomoto

#twnovel 討ち伏せられ砂を噛み、軋む四肢を叱咤し立ち上がる。容赦のないことだと片頬を歪め、手の甲で口許を拭えばヌルリと滑った。「弱いから死ぬ。強いから生き残る。これが道理だ」そんな微笑みを真っ向に受け、ならば強さとは何かと問う。「決まってるさ。ぼくに殺られないことだよ」

2009-11-27 15:44:47
朋子 @tomokomoto

#twnovel ペンは剣より強しという異国の思想を説けば、確かにあれは良い武器になると火影に馴染んだ彼が楽しげに言う。本当に殺しのことしか考えていないんだな、と苦笑すれば、さも当然といった軽やかさで、だが肌を焼く殺気を放って彼が言った。「ぼくにはそれしかないからねぇ」

2009-11-27 08:54:08
朋子 @tomokomoto

#twnovel 花を愛でるなど悪魔には似つかわしくないなと笑えば、「彼らの美しさは僕を裏切らないからね。人間と違って絶対に裏切らない」とニコリとされた。白い花煙に霞んで行く彼が、さあ行こうと促してくる。そして私は気付くのだ。彼に見初められた我は、もう人ではあるまいと。

2009-11-27 01:17:16
朋子 @tomokomoto

#twnovel 花が渦として舞う。そのただ中にあって彼は穏やかに言った。「桜は咲き切ってこそ散るという。桜花に己が生涯を映さんとする者の心、今ようやく覚ったよ」そんな微笑みを薄紅の幔幕の外より眺めて、こんなに見事に笑うならこの世に縛らずとでもよいのではないかと思ってしまった。

2009-11-26 17:29:52