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twnovel

気の向くままに書き散らした情景たち。
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朋子 @tomokomoto

#twnovel さんざめく霧雨と大気に飽和する遠雷があの合戦を彷彿とさせた。背がゾと粟立つ。あの日あのとき彼は泥に沈んだ幾万の魂と引き換えに命を取り留めた。ゆえに全てを失ったのだ。失ったはずだった。だが何もかもを手に入れて、今、目の前に居る。男が美しき刃の向こうで静かに笑った。

2009-11-26 14:17:30
朋子 @tomokomoto

#twnovel 僕だって完璧なんかじゃないさ。たとえ礫ひとつで百人を魂切ったとしてもね、どうしても自分って輩だけは弑することができないんだ。……醜いねえ、ああ嫌だ。ねえ、きみ……だからもっと強くなって。もっとだ、まだまだ足りない。そんなんじゃ僕の喉元に刃は届かないよ。

2009-11-25 09:54:56
朋子 @tomokomoto

#twnovel 「瞳の奥で蛍が瞬いているようだ」 と、彼の目を初めて見たときに恍惚と告白した。 雅なことだと彼はカラカラと弄うてきたが、ますます魅入ったものである。深い緑にも見える。角度を変えれば金色にも見える。その瞳に見惚れて思わず口づけたのはいつのことだったろうか。

2009-11-24 17:09:11
朋子 @tomokomoto

#twnovel 見えないと繰り返しながら目許を掻きむしり、次には戦慄く手を宙に伸ばす。絹に覆われた指先は赤く濡れ血の匂いを放っていた。虚ろな瞳はただただ漆黒。そこから溢れ頬を濡らすのは清い涙だった。 その清廉さこそが彼であるというのに、噎ぶ姿は手負いの獣のようであった。

2009-11-24 11:06:24
朋子 @tomokomoto

#twnovel 濡れ髪を沈香の紫煙で乾かし、緩めに結い上げる。露わになったうなじには小指の爪で掬った蜜を塗り、その指で耳朶を撫でた。目許を数度擦り火照らせ、しばし噛み締めていた唇を一気に解く。そうして艶を刷くころ、朱布団の向こうの襖が静かに開いた。

2009-11-24 00:56:15
朋子 @tomokomoto

#twnovel うたた寝の真夜中、遠雷を聞いた気がして意識が冴える。鼻を鳴らせば土が香った。嵐が来るかと次なる雷鳴を待ったが静寂のままに時は過ぎた。と、ドロロと鼓膜が震える。否、もっと奥だと気を澄ませば嵐の正体を己の鼓動と覚る。そして土の芳香に春の訪れをも知った。

2009-11-22 19:05:54
朋子 @tomokomoto

#twnovel 火鉢に寄って燠を掘り起こし、残っていた火を糸くずで拾い上げる。雨のせいで湿気った煙草は不味く、それでも一口二口と吸った。煙をゆっくり吐き出し、それが溜め息の色を帯びているのに気づき肩を竦める。 紫煙が舞う。白い曲線は滑らかで、女の亡霊を見た気がした。

2009-11-21 11:37:45
朋子 @tomokomoto

#twnovel 月見酒に笛の音が絡む。音色の主の名を呟けば「よほど惚れてるんだな」と弄われた。苦く笑み返して胸底で否と呟く。かの笛の主がお前に恋慕を抱いているゆえ腹立たしく覚えているだけだと。

2009-11-21 08:39:04
朋子 @tomokomoto

#twnovel 天女の手は男を天界へといざなう。それは「死」という恋の成就。彼女の可憐な指先を取れば男の魂はこの世を離れるのだ。 苦もなく負もなく朽ちることもなく、光として、美しき純白として、永久をたゆたう。 なんて甘美な恋だろうと紡いだ朗らかな唇に、一筋の涙が吸い込まれた。

2009-11-20 14:20:06
朋子 @tomokomoto

#twnovel あんたのその真っ白な肌によ、虹の羽根、夕陽みてえな真っ赤な目の鳳凰を彫らしちゃくれねえか。胸に雌の凰、背には雄の鳳だ。表から抱けばこの世の始まりを見る。背から突けばこの世の終わりを見るって塩梅よ。どうだい、あんたにゃぴったりの洒落だろう。

2009-11-20 13:00:36
朋子 @tomokomoto

#twnovel その仕置き、明日に回さればよろしかろうと諌めれば、「明日など永久に来ないさ。あるのは今だけだ」そう寝不足で充血した瞳で笑まれる。そんな柔和さも瞬く間、こちらに真摯な横顔のみを晒して、彼は再び書の世界へと没頭していった。黄金の輪郭を見詰め、主の潔癖さに唇を噛んだ。

2009-11-20 08:58:19
朋子 @tomokomoto

#twnovel 何が望みかと自問すれば、いかに彼の中に凄艶に残るかということに尽きるのである。治る見込みのない病を纏って唯一「死」を生きる望みとするというのだ。我が人生の皮肉さに思わず苦笑した。見舞いと称して今日も彼はここにいる。その目映さに目を細めながら薬と称した毒を仰いだ。

2009-11-20 06:26:18
朋子 @tomokomoto

#twnovel 旭日が空を割った瞬間、山の端に縫い止める処陽一閃の太刀。まさに刹那の秘技を、今、目の当たりにする。「意外に容易いな」と、彼が朗らかに言った。抜き払った刃にて清冽な光を押さえながら、微笑んでいる。ぞ、と背が粟立つ。汚さねばと思った。彼が神々に愛でられる、その前に。

2009-11-18 23:12:42
朋子 @tomokomoto

#twnovel「化けて出るんじゃないさ。化かせて出させるとでも言おうか。結局は生き残らされた我らが、恋慕を募らせてあれを呼び寄せるんだろうよ。……ほら、だから今も貴殿の後ろに……。ああ、貴殿との二人酒など味気なさすぎるから、呼ばせてもらったよ」

2009-11-18 18:18:25
朋子 @tomokomoto

#twnovel 光舞う初冬の風にが暴いたのは、綸子の下に隠された彼の秘密。思わず飲んだ息が悲鳴を真似て、打ち消さんと放った舌打ちもすでに虚しい。刹那に青ざめた唇が、痛々しいほどに自虐の微笑みを描いた。それが「醜かろう」と紡ぐ前に、ぬくもりを、甘みを、震えを、等しい形で塞いだ。

2009-11-18 13:48:49
朋子 @tomokomoto

#twnovel 喰わせてやろうかと唐突に言うので、何をだと問い返す。クスリと笑んだその口で「私を」と返された。腹を壊しそうだと血脈暴れる首筋に囁けば、一番の好物なくせにと自ら襟を寛げる。さもありなん、さもありなん。

2009-11-17 18:51:43
朋子 @tomokomoto

#twnovel 残酷なものだと思ってみる。生きるべくして生きる毎日の中で、五感というものは常につきまとい、そのいちいちに亡き人の影を思い出し、時に世界が色褪せ時に呼吸すら忘れるのだ。 耳に感じた呼気、肌で感じたぬくもり、鼻腔をくすぐった涙の香り。そして舌で感じたかの人の甘さ。

2009-11-17 09:07:07
朋子 @tomokomoto

#twnovel 今、歩むは凍りついた鳰海で、この一歩が氷を割ってな。とぷんと共に沈んだとして。そしたらこの傘だけが残るだろう。真っ白な氷上に朱色が大輪に咲いて、きっといい景色だろうよ。跡形も無く我らがこの世から消える。今ならそれもいいかと思うんだ。 お前が隣に居る今なら。

2009-11-17 08:56:39
朋子 @tomokomoto

#twnovel 相変わらず拙い筆だと肩を竦めると「抗っているんだ」などと彼は笑う。紙は元を辿れば木であり、木は根より地に眠りし先人の意識を吸う。故に気を抜けば、紙に宿りし記憶をそのままなぞらんとしてしまう。栄枯盛衰の理に抗うのだと、彼は今一度笑った。

2009-11-16 23:35:36
朋子 @tomokomoto

#twnovel 花は桜と我が意を張れば、いやいや梅こそ花よと彼が笑む。何故なら……と更に瞳を細めて、背中合わせに咲く梅の花こそ常に真逆を見る我らのようだから、と唄われた。まさにと思い、盤石なる背後の守りを梅花に覚る。

2009-11-16 19:14:02
朋子 @tomokomoto

#twnovel 彼は我が四季であった。 彼は我が光であり闇であった。 彼はまさに我が宇宙であった。 だが彼は、唯一にして無二の「人」であった。人が人たらんと生きるとき、そこに森羅万象のすべてがあることを彼に学んだ。まさしくそれは、恋だった。

2009-11-16 17:12:39
朋子 @tomokomoto

#twnovel 互いの手の平に血の一文字を描く。重なり合わせて握り締めれば、若々しい細胞がみるみる内に溶け合い始めた。その絶妙なる執着は、我が業深き欲の、まさに具現であった。脅え振り解かれる前に、ひとつになることを切に望む。

2009-11-16 18:49:57
朋子 @tomokomoto

#twnovel 「死なば無に帰すまで」と言い切ったあと下唇と共に噛み縛ったのは涙であろう。 素直に泣けば良いと誘えば、 「どうせ流すなら歓喜の涙でなければ意味がないさ。殿下が拓かれた世の未来が永劫たらんと覚った時にこそ俺は泣きたい」 と、彼は微笑んで言い切った。

2009-11-16 15:38:04