日々.

かおり @orange_shake_

【日々・1】 2人でソファーに並んで座って、お互いの膝に半分ずつ乗せたアルバムをめくる。 「あ、これ…」 『俺らが初めて出会った日、やな。』 共通の友人主催のボウリング大会。 集合写真の2人の距離は遠くて、このときはこいつが隣にいる今なんて想像もしてなかった。

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【日々・2】 次のページをめくれば、初めて2人で出かけた日の写真。 ボウリング大会で、人見知りの俺が珍しくお前と話が盛り上がっていたのを見た幹事が、 "渋やん、いきーや！ちゃうかったら友達でもええやん" と無理矢理設定してくれた初めてのデートは俺らが好きなバンドのライブ。

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【日々・3】 俺らが話すきっかけになったのはこのバンド。 ボウリング場で、俺が持ってたタオルを見て、 「私もそれ持ってる！」 ってお前から話しかけてくれたのがきっかけ。 『このバンド好きなん？』 「大好き。CD全部持ってるし、ライブも毎回1回はいくようにしてる。」

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【日々・4】 『新しいやつ聞いた？』 「この前発売したのだよね？もちろんだよー。私、あれが一番好きかも！」 『おぉ、俺も。でも毎回新曲出る度にそれ思ってまうねんな。』 「わかる！(笑)」 "渋やーん、次渋やんの番やでぇ？" 『はいはい』

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【日々・5】 そういえば、あのとき邪魔してきたのもアイツやんけ。(笑) その後から彼女のことをチラチラと目で追ってはいたものの、自分から話しかける勇気はなくて。 結局連絡先も聞けずに帰ってきてもーてんな。 そしたら次の日いきなりあのおせっかい男からメールきて。

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【日々・6】 "○○ちゃんが行きたがってたライブのチケットとれてん！渋やん、一緒に行ってきぃや！" と。 最後にご丁寧に彼女の連絡先まで添えて。 なんやねんこいつ、と断りの電話を入れようとしたらその後にも本文は続いていた。 "渋やんが行かへんのやったら俺が誘ってまうで。"

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【日々・7】 …アイツ可愛い顔してるけど、ホンマは絶対腹黒い。 まんまとアイツの思惑通りに、俺は通話画面に表示された親友の電話番号を彼女の番号に打ち変えた。 写真の2人はお揃いのバンドTシャツに、あの日ボウリング場で持ってたお揃いのタオル。

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【日々・8】 何の打ち合わせもしてないのに見事にお揃いになってしまって、照れたような苦笑いの2人がそこにいた。 思えば、この日が俺が恋に気づいた日。 偶然出会った彼女の高校時代の先輩という男が、やたら馴れ馴れしく彼女と話すのを見て、気に入らない、と思ってしまった自分に驚いた。

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【日々・9】 嫉妬とか、今までするタイプちゃうかったやん俺。 "隣の彼は、彼氏？" ふと僕に笑顔で会釈をした先輩に会釈を返す。 「いや、彼は…」 否定しようとした彼女の手を掴んで、 『そうっすよ』 なんて。

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【日々・10】 言った後で、うわー俺何言ってんねん！どうしよう！なんて1人考えたらいつの間にか先輩はいなくなってて。 「…渋谷くん、」 戸惑ったような声に、彼女の顔を見ることができなくて。 でも、 『…すばる。』 「え？」 『すばるでえぇ。すばるって、呼んでや。』

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【日々・11】 やっと見ることができた彼女の顔はすごく驚いてたけど。 「…すばる。」 掴んだままだった手をそっと握り返してくれた。 ＊＊＊

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【日々・12】 次のページには、またボウリングのメンバーで今度はバーベキューの写真。 ボウリングのときとは違って隣にはいるものの、俺はしかめっ面だし彼女の笑顔もぎこちない。 幹事の親友以外に俺らの関係を知る奴はいなくて、意外にモテてしまう彼女を遠巻きに睨んでるだけやった俺。

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【日々・13】 「すばる、大丈夫？」 みんなが花火で盛り上がってる途中、心配して様子を見に来た彼女の手を突っぱねて、 『うっさい。お前なんか、もういらんねん』 なんて。 相当酔ってた、俺。 "何言うてんねん渋やん！"

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【日々・14】 親友のウルトラビンタで我に返ったときには、走って行く彼女の後ろ姿。 いろんな気持ちがごっちゃになって足が動かない俺に代わって彼女を追いかける親友を見ながら、もう終わったな、なんてぼんやり考えた。 数分後、親友に肩を支えられて戻ってきた彼女は初めて見る泣き顔で。

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【日々・15】 戻ってきてホッとした気持ちと同時に、こんな顔させるぐらいならいっそ本当に別れてしまおうか、なんて思ってしまった。 俺やってこいつと出会う前みたいに、嫉妬も執着もせぇへん相手とおった方が楽なんちゃうか、なんて。

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【日々・16】 でも結局彼女から離れられへんのは俺。 泣いてる彼女を一晩中抱きしめて、何度も何度も謝って。 グダグダな感じで始まってもうた俺らやから、初めて俺が「好きや」って言ったのもこの日やった。

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【日々・17】 アルバムから顔を上げて隣の彼女を見ると、やっぱり苦笑い。 『好きやで。』 そう言ってキスをすると、照れながら肩を押し返してくる。 その手をとって、指を絡めて。 もう一度アルバムに視線を戻す。 何枚も、何冊も。 俺らの歴史は重ねられていく。

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【日々・18】 初めての旅行、温泉旅館で浴衣姿の写真。 彼女の首や胸元に真っ赤な痕…後でむっちゃ怒られた。 首にあのタオルを巻いて、軍手でピースする2人の写真。 これは、彼女が俺の部屋に引っ越してきた日。 お互いの誕生日、記念日の写真は何枚も。

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【日々・19】 俺が事故って入院してたときに病室で撮った写真。 君の頬には涙の跡。 いっぱい泣かせてもうたな、ごめんな。 俺らの大切な恩人である親友の結婚式の写真。 思えばこの時か、俺が決意したのは。

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【日々・20】 ベタな夜景の見えるレストランでの写真。 潤んだ目の彼女の手をには真っ赤なバラの花束、薬指には俺の給料3ヶ月分。 しかし、写真のときぐらいもうちょいええ顔でけへんかったんか、俺。 そこで写真は終わっていて、新しいページを開く。 そこに貼るのは。

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【日々・21】 純白のウエディングドレスで微笑む君と、その横でこれでもかってぐらい笑ってるタキシード姿の俺。 「珍しいね、すばるが写真で笑うのって」 彼女が写真を愛おしそうに見つめながら言う。 『幸せやからな。』 「何それ、今までの写真は幸せじゃなかったってこと？(笑)」

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【日々・22】 わざと膨れる彼女の頬をつついて、 『ちゃうやん(笑)。 …お前とおって、幸せじゃなかった日なんか1日もない。』 「…私も。幸せだったね、今日までずっと。」 『今日からはもっと、幸せになるで。』

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【日々・23】 お揃いのタオルから指輪へ。 俺の手に包まれてる彼女の左手を見ると、くすぐったいけど幸せな気持ちになる。 『ありがとう』 お互いに溢れる涙。 これからもずっと、幸せな日々。 【おしまい】