2回死んで1回生きた男#1 第一死人発見◆3

減衰世界 @decay_world

_/_/_/ 減衰世界 _/_/_/

減衰世界 @decay_world

＿2回死んで1回生きた男#1 第一死人発見

減衰世界 @decay_world

◆3

減衰世界 @decay_world

＿男の死体は以前と全く同じように腹を食い破られ、大量の出血を起こして死んでいた。その傍らには、白い靄のようなもの。死霊だ。 「またお前らか……金の亡者め」 「亡者はあんたでしょ」 　ギシュノはあきれる。静かな洞窟に声がこだまする。 21

減衰世界 @decay_world

「どうして……こんな装備じゃ死ぬことは分かっていたでしょ。現に、昨日死んだでしょ。どうしてまたダンジョンに来たの」 「もう、休ませてくれ……俺にもう金は無い」 　男は洞窟に座り込み死体に群がる蠅を追い払っている。メイラールは男をギシュノに任せてクシトカゲを解体していた。 22

減衰世界 @decay_world

＿男は静かに理由を話し始める。 「俺は帝都に家族がいるんだ。家族に会うために、高価な大陸鉄道の切符が欲しかった……けれども田舎冒険者じゃ無理だ。化け物を倒して、一獲千金を狙ったが……このザマだよ」 　最近報酬の高い化け物討伐の依頼が出ていたことを思い出すギシュノ。 23

減衰世界 @decay_world

「金が必要なんだ、でも、俺は死んじまって、どうしたらいいか、もう休むしかない……俺にはもう蘇生費用は……」 　ギシュノは迷う。彼の苦しみを解き放ちたい気持ちもある。けれども、また彼は金を求めてダンジョンに潜り、そして――。 24

減衰世界 @decay_world

「世界を遍く見つめるエンベロード大神に乞う。天の流れ、地の脈の中で救われた彼の魂を再びこの地に戻さんことを」 　気づいた時には、メイラールが蘇生を完了していた。左手にはクシトカゲの肝。右手でピースをして、兜のままギシュノを見る。 「てめぇ俺の話聞いてたのかよ！！」 25

減衰世界 @decay_world

＿男は必死に訴える。内臓がこぼれた死体を起き上がらせて。 「ゾンビ状態だから、はやく治療してあげて」 　メイラールに促されて、慌ててギシュノは治癒を開始する。緑の翼をはためかせる、ハーピィの踊りが回復の魔法を増幅させた。男の身体が再生していく。 26

減衰世界 @decay_world

＿男は訴えを繰り返した。 「俺はもう休みたいんだ」 「別に生きていても休めるさ。まるで死んだように休む。そしてまた頑張ってしまうんだろう？　それは生きたいからじゃないのか」 　メイラールは静かに語る。 「帝都に向かうのは、生きたいから。ダンジョンに入るのもだ」 27

減衰世界 @decay_world

「生きたいって、どういうことだよ」 　男の身体が完全に治癒し、元の身体となる。メイラールは装備修繕の魔法で、腹に大きく空いた穴を埋めてやった。サービスだ。 「ダンジョンは死にたい奴が来るところじゃないからだ」 　そう言葉を付け加えて、彼の仕事は終わった。 28

減衰世界 @decay_world

「ここに来る奴は、みんな生きたいから来る奴らだ。死にたいならいくらでも迷惑のかからない方法がある。けれどもダンジョンに来るってことは、一獲千金にかけて生きたいから来る奴らだ。お前はまだ生きている。そして、一獲千金を掴める」 　そう言って、今度は男にピースをするメイラール。 29

減衰世界 @decay_world

「お前は生きたがっている。信じていい事実だ。掴めよ、一獲千金をよ」 　その言葉は、ギシュノにも伝わった。翼を畳み、心臓の鼓動を包む。 （私の思いは何なんだろう。私も生きたがっているのかな） 　そんな思いが彼女の中に生まれ始めていた。 30

減衰世界 @decay_world

＿2回死んで1回生きた男#1 第一死人発見（了） #2 剣を取れ　につづく

減衰世界 @decay_world

【用語解説】　【踊り】 魔法の効果を向上させるために取るべき行動や様式は無数に存在し、それぞれ流派となって独立している。踊りを行う流派もまた、いくつか存在する。これは肺から取り込んだ魔力を血液によって身体中に素早く拡散させるために、踊りで血流をよくしているというメカニズムである