Orphe兄貴のマイアミ鎮守府　2014年7月

orphe @orphechin

鈍重に見えた球磨が恐るべき速度で熊野を貫いたのを、鈴谷は見た。クマはその外見に似合わぬ俊敏さを誇る。体毛に覆われた巨体にはその速度エネルギーを産み出すための精密かつ頑強な筋肉が宿っているのだ。熊野は天才であった、しかし無知であり未熟であった。 #マイアミ鎮守府

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おぞましい悲鳴と愉悦に満ちた唸りが空間に響き渡る。目の前で友人が噛み砕かれようとしている。だがそれを誰が救い出せるのか。足柄は多摩との激戦で手が出せぬ。羽黒はいない。提督もいない。彼女を除いて他に動けるものは誰も。しかし、足がすくんで、動けない。 #マイアミ鎮守府

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熊野は残る力を振り絞り、球磨の牙から逃れようとしている。あちこちに歯形が無惨に刻まれ、金髪は血に染まっている。この状態からの逆転はほぼ不可能であり、徒労であった。球磨が今一度口を空け、勢いをつけて彼女を噛み砕こうとする。その時、熊野が鈴谷を見た。 #マイアミ鎮守府

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彼女の青い眼が、鈴谷の眼と合う。 そして球磨の牙が再度彼女の胴へと突き立てられた。 瞬間、鈴谷の体に電流のようなものが走った。鈴谷の手に持ったスリッパが唸り、そして、彼女は疾駆した。 球磨は邪魔物を払わんとして豪腕を振るう。しかし鈴谷はそれを跳躍回避！ #マイアミ鎮守府

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大きな恐れが胸の中で脈打っている。お前の試みは無謀だと理性が警告する。しかしそれ以上に大きな、内なる声が、鈴谷を動かした。 為すべきを為せ。 友を救え。 飛び上がった彼女の足元から、わずかな赤い光が煌めき、消える。 球磨の眼前に鈴谷がおどりでる。 #マイアミ鎮守府

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手にしたスリッパが変形し、細長い管となる。「熊野を放せぇ！」 鈴谷は球磨の顔面に張り付き、スリッパをその牙へと突き立てた。 瞬間、球磨の口内に猛烈な熱が発生し、牙が次々と融解していく。 強固な金属をも容易に融解させるサーマルドリルである。 #マイアミ鎮守府

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前回大鳳との戦いで通常のドリルが無効と判明、その解決策として新たに組み込んだのがこのサーマルドリルである。普段は銀行の金庫をぶち抜くために使っていたが、こんな時に役立とうとは。もがき苦しみドリルを引き抜こうとする球磨。しかしその手は20.3の至近弾で弾かれる。 #マイアミ鎮守府

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片手にドリル、もう片手に20.3。いずれの操作をも恐るべき精密さでこなす鈴谷の脳内は、しかし理性を押し潰していた。彼女の脳にはもはや義務の二字が占めるのみであった。球磨の上部歯茎の4/5が融解した時、ついに球磨の口が開かれた。瞬時に熊野を抱き離脱する鈴谷。 #マイアミ鎮守府

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鈴谷は球磨から距離をとり、そこでようやく理性を取り戻し、熊野をみる。 ﾋｮｵ,ﾋｮｵと僅かに息をしているのを確認、彼女をそっと床に下ろす鈴谷。生きているのが不思議な程の傷だ。早急な手当てがなくば死は免れぬ。 ゆえに今為すべきは、一分一秒でも早く敵を殺す事。 #マイアミ鎮守府

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球磨はゆっくりと首を鳴らし、口を空ける。溶けた部分の歯茎からは、すでに新たな牙が再生していた。生半可の攻撃ではこの怪物を殺しきる事は叶わぬ。鈴谷は口を大きく結び、スリッパを構える。丸形の刃が飛び出し、唸りを上げて回転する。 二体の艦が、同時に飛び出した。 #マイアミ鎮守府

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大和を瞬時に射殺した羽黒。それを目の当たりにし、武蔵・長門・霧島の三名に動揺が走る。羽黒の眼が武蔵を捉える。瞬間三名は羽黒から離れ、砲撃を繰り出す。あの女に近づかれてはならないと、その時全員が直感した。 アウトレンジで仕留めるべし。 #マイアミ鎮守府

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46cmの乱打が羽黒を襲う。一発でも重巡を殺害するには足る威力。 羽黒はその弾幕の微かな隙間を縫い、駆ける。ターゲットは武蔵。長門・霧島の二名はとっさに二手に分かれ、砲の散布界を広範にとって撃ちまくる。 羽黒は視覚と聴覚を最大限に発揮、回避しつつ獲物に迫る。 #マイアミ鎮守府

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武蔵へと10mの距離に詰まる。もはや大砲の間合いにあらず。武蔵が瞬時に15.5cmへと砲撃を切り替え羽黒を撃つが、打撃をうけたまま羽黒は接近。赤い光が羽黒の傷を即座に修復、勢いは止まらない。羽黒は拳を握りしめ、ガードに入る武蔵に一撃を見舞う。 #マイアミ鎮守府

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羽黒の拳が武蔵の頑強な両腕を砕いてへし折り、眼鏡と顔半分を吹き飛ばす。悲鳴を上げる武蔵の胸ぐらをもう片方の手でつかむ。そのとき、霧島・長門が武蔵ごと羽黒を撃ち殺すべく主砲を乱射した。羽黒は武蔵の体を振り回し、主砲の悉くを防御した。武蔵、大破。 #マイアミ鎮守府

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羽黒は砲弾でさらに重さを増した武蔵の体を霧島に投げつける。避ける間もなく直撃し、霧島は中破。動揺する長門の眼前に羽黒が現れ殴り倒す。武蔵を霧島へと投げた瞬間、すでに彼女は長門へと疾駆していた。倒れる長門の顔面を、羽黒は執拗に踏みつける。 #マイアミ鎮守府

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長門の頭部がすでに液体と化した時、羽黒の左腕が肩ごと吹き飛ばされた。再生を終えた大和が放った46cmが直撃したのだ。焦げた下顎を右腕で一撫でし、羽黒が大和に向き直る。大和は再度狙い済ました一撃。羽黒はそれを寸前で回避。煙が吹き上がり、大和の標的の姿を隠す。 #マイアミ鎮守府

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煙の中から20.3の猛撃が煌めく。大和の体に当たるが昼戦距離、問題はなし。マズルフラッシュの先に向けて反撃の46cmを放つ。だが手応えはない。疑念が大和の脳裏を過った瞬間、彼女の背中に続けざまに魚雷が刺さり、爆発する。背後に回り込んだ羽黒には、艤装がなかった。 #マイアミ鎮守府

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卯月-の姿になった主任-は激しく痙攣した。俺も身体に猛烈な痛みが走る。ケッコン状態の艦娘は驚異的な再生力を持つ。だが一方で契約した提督の命をも代償に削り取っていくのだ。 「いい様だなジュウコン野郎」 血痰を吐いて俺は言う。 「ご自慢の火力バカは四体とも大破だ」 #マイアミ鎮守府

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艦娘の体に改装したとはいえ、戦艦クラスの続けざまの破損は相当なダメージをこいつに与えている。こいつがくたばれば、主を失った戦艦どもも木偶の坊と化すだろう。それまで羽黒がやつらを殺し続け、俺は生き残るだけでいい。楽勝だろ。 #マイアミ鎮守府

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「なんで…たかが重巡ごときに…」 卯月が低く唸る。 「てめえの運用の仕方が悪いんだよ。何使ったんだか知らねえが、短期でLV100の奴等を四人も揃えた事は大したもんだ。だがお前らを見たとき確信した。てめえは強い奴等をただ揃えりゃ勝てると思ってるってな」 #マイアミ鎮守府

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「お飾り元帥って知ってるか？」俺は卯月の顔を蹴り上げて言う。 「海軍が体面維持のために仕上げた提督のことさ。ルーチンワークしかできないAIに提督を任せ、単調な訓練だけで艦娘のレベルをお化粧してる、これで表面上は無敵艦隊の出来上がり。お前はそれさ」 #マイアミ鎮守府

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「現場の提督の間じゃ物笑いの種さ。まともに戦場に出た事もない機械風情が、俺らの上に立ってるってな。チームワークもできない、機転も効かせられない、ただパラメータ上は強力なハリボテ連中。そんなものに俺らが負けるわけねえだろ」 #マイアミ鎮守府

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よろけて立つ卯月の膝に銃弾を打ち込む。ダメージはない、だが挑発にはなる。「挙げ句ジュウコン状態で一気に運用。自殺志願も良いとこだな、え？」「それはてめえも同じだろうが！」卯月が殴りかかる。再び回避レース。「艦娘の戦場に自ら切り込んでくる人間がいるか！」 #マイアミ鎮守府

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「そうしないと羽黒が本気出せねえからなあ」卯月の攻撃を避け、頭をひっぱたく。「お前のはただの自殺、俺のは戦略。違いを理解しろよ、ド素人」 「ふざけやがって、たかが人間が！」 挑発で激昂し、卯月の攻撃が荒くなる。バカの相手はやりやすくて助かる。 #マイアミ鎮守府