- hukurou_nayuta
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「ズルーッ!ズルルーッ!」麺を啜る音。ソバではない。ウドンだ。しかしその音はネオサイタマの雑踏、街頭の宣伝によりかき消される。どうだっていいのだ。「売り上げがイマイチなんだよな……なにがいけないんだ?」ウドン屋台の店主と思わしき男が頭を悩ます。啜る音は聞こえど、客はなし。1
2016-06-01 19:55:45では音はどこから?彼のすぐ隣だ。ウドンを啜る音が止まり、ややあって、代わりに間延びした声が飛んできた。「麺とかつゆとか、そういう問題じゃないんじゃない?」そんなことを言いながら、女は美味しそうにウドンを頬張る。エプロンをし、つぎはぎだらけの三角巾を頭に巻いている。2
2016-06-01 19:59:17満足そうな女店員とは対照的に、店主はますます困った様子だった。腕を組み、ため息混じりにぼやく。「いつだったっけ……あのときは大繁盛だったんだよ、そりゃもうウドンチェーン店を各地に設けられるくらいに」「ハァ。そいつはスゲェや」店主の名はザ・ヴァーティゴ。彼はニンジャである。3
2016-06-01 20:02:05「どこまで本当かはわからないけど。ヘイラッシェー!実際美味しいウドン!!ズルーッ!」ウドンをつまみ食いながら客を呼ぶこの女店員もまた、ニンジャなのだ。名をゴシップミル。召喚師であり、放浪者。未だ、謎が多い。「ねえ何でウドン食ってんだ、だから客来ないんじゃないのか、チョット」4
2016-06-01 20:05:12数週間前、再びこの街で屋台を構えたザ・ヴァーティゴだが、この日は特に客が入らない。それまでは……まあ、そこそこだった。「やっぱり……奴等かな」「やつら。……アー、あれは不味かったかも」一昨日のことだ。この付近をうろつくハイデッカー。はじめは監視だけだった。だが、警告に変わった。5
2016-06-01 20:09:04しかしまあ、その、俺達にも暮らしがあるんだよ。その警告は真摯に受け止め、慎ましやかにひっそりと、ウドン屋台を続けた。ハイデッカーは見逃さなかった。「「ザッケンナコラー市民!」」「「アイエエエ!!」」襲ってきた。銃を持って。棒を持って。仕方がないんだよ……だから応戦した。6
2016-06-01 20:14:04やりすぎるのはよくないけど加減もうまくいかないんだ!白状すると、やらかしちまった。ゴシップミルもポワワ銃とか喚び出して撃つし。……そんなことがあったのさ。故に、きっとこれは嵐の前の静けさなのだろう。「ハイデッカーの次は…何だ」「私逃げるぞ、今度は」ふと、背後に客の気配を感じた。7
2016-06-01 20:18:59二人は覚悟を決めて振り返った。ノーレンを潜り現れたのは偉丈夫だった。香油で固めた長い髪に、ところどころに見られる青い刺青。「アッ!お前は!」ザ・ヴァーティゴが思わず指を指す。忘れるはずもない。「ウォーペイント=サン……!!」男はオジギをする。「ドーモ。ザ・ヴァーティゴ=サン」8
2016-06-01 20:23:45「……誰さ?」ゴシップミルはほんの少し困惑気味に、偉丈夫とザ・ヴァーティゴを交互に見た。そして、アイサツをした。「ドーモ…ゴシップミルです。知り合いかな?」「知らぬ女だ。文明人……否、貴様は違うな。ドーモ、ウォーペイントです」男は椅子に座り、オモチの入ったウドンを頼んだ。9
2016-06-01 20:28:19夜のネオサイタマに小さなウドン屋台。あれほどけたたましかった雑踏が遠くに聞こえた気がした。「お待ち!」店主が陽気にウドンを差し出す。受けとる蛮人。まかないと称し堂々とつまみ食いする看板娘。ウドンを食べながら、おかしな3人組は気のおけない会話を始めた。平和な一時のように見えた。10
2016-06-01 20:31:28食べ終えたウォーペイントが、突如真剣な顔になった。「……お前達に伝えなければならぬことがある」ゴシップミルが唾を飲む。ザ・ヴァーティゴは低く「言ってくれ」と促す。手元の水を飲み、蛮人は切り出した。「アマクダリ・セクトなる文明人どもが、お前達の元に来るだろう」11
2016-06-01 20:35:46半ば予想していた事態だ。だが、何故それをウォーペイントが?「なんとなくわかる。私ら、連中に目をつけられるようなことしちゃったんだ。でも」「俺はここに来る前に出会したのだ」「出会しただと?ってことは、まさか」BLAM!BLAM!銃声が会話を断った。そこにはやはり、ニンジャだ。12
2016-06-01 20:40:15銃を持ったハイデッカー達と、それを率いるニンジャ一人。「アイエッ…出た!」敵のニンジャは1歩前に歩み出て陰気に笑い、アイサツをした。「ウェヘヘヘ…ドーモ。言うことを聞かないおバカ=サンたち。ディフォーメイションです」3人は、この女ニンジャの只ならぬアトモスフィアを感じ取った。13
2016-06-01 20:45:04「ドーモ。ディフォーメイション=サン。ザ・ヴァーティゴです」「ゴシップミルです」「ウォーペイントです」ディフォーメイションと名乗った女ニンジャは眉をひそめる。「ム?二人だと聞いたはずだが……何故増えている」相手にはハイデッカー達がいるといえど、3対1だ。「帰ってもいいぜ」1
2016-06-05 17:40:46「むしろそうしてよ!わた、アタシは戦えないからね!」ゴシップミルは油断なく棒切れを拾い、地面に何かを描き始める。だが、ディフォーメイションは彼女のジツを知っている。調べてあるのだ。「よく言うわ。妙なジツを使う前に、スシにでもしてやる」「イヤーッ!」そこに斬り込む蛮人!2
2016-06-05 17:44:21「イヤーッ!」ディフォーメイションはこれを回避!「私が戦わんにしても状況は2対1だぞ、退いたがいい!」ゴシップミルは叫ぶ。その背後ではザ・ヴァーティゴがハイデッカー達相手に戦っている。「いや、でも俺こっちがちょっと忙しいし」「そう?ザザ=サン喚ぼうか!」「あいつはやめとけ!」3
2016-06-05 17:48:11ディフォーメイションとウォーペイント、ハイデッカーとザ・ヴァーティゴが交戦する中、召喚師は…何もしていない!「何かしたらどうだ!魔術師よ!」「わ、わかったよ!それと魔術師じゃなくて召喚師な!!」ゴシップミルは描いた魔方陣の前で何かを唱え始めた。ディフォーメイションは見逃さない。4
2016-06-05 17:51:39「お前からスシにしてあげる、いいえ…持ち帰って飼ってもいいわよね」呪文を唱え続けるゴシップミルに女の手が伸びる!「イヤーッ!」振りかざされる大剣!ウォーペイントだ。「チィーッ!目障りね!野蛮人」間一髪。しかし、大振りで荒い一撃は掠めただけでもわかるほど恐ろしい威力だった。5
2016-06-05 17:55:32「ウォーペイント=サン、そいつのジツは何かマズイ!食らうなよ」「わかった…しかし隙があるようで全くない」ディフォーメイションはジツに特化し、狡猾で油断ならない。だがカラテの実力はさほどではない。狙うとしたらそこだ。ゴシップミルと同じ。…その時!「…来たれ、我が元へ来たるべし!」6
2016-06-05 17:59:07ゴシップミルの叫び。そして魔方陣から現れた、ふにゃふにゃの何か。そこにいる者達は息を飲んだ。それは…邪竜は言った。「ミーミーを喚んだな」「喚んだ、少しだけ力を貸してくれ。頼む」ゴシップミルは拝むように手を合わせ、懇願した。「汝は引き換えに何を出す」ゴシップミルはポケットを探る。7
2016-06-05 18:02:04それから神妙な面持ちで、厳かに言った。「ちくわしか、持ってない」沈黙。ほぼ半数が削られたハイデッカーも、ディフォーメイションも黙ってそれを見守っていた。「よかろう」邪竜は答えた。彼女がちくわを投げると、ミーミーはそれを呑み込んだ。「乗せて」「わかった」ゴシップミルは竜に乗る。8
2016-06-05 18:06:07「ザ・ヴァーティゴ=サン、ウォーペイント=サンも早く乗って!…いいよね乗せても」「わかった」ミーミーは了承した。三人を乗せた邪竜は浮上する。口を開けて呆然としていたディフォーメイションは我に返った。「ま、待ちなさい!」「ミーミーは滅多に待たぬ」邪竜は頑なだった。9
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