ダンジョン儲かってますか?#1 少女のお店◆2
_レェラは地味な娘だった。けれども、恋も夢も他の少女たちとは大きく異なっていた。どこにでもいそうで、どこにもいないレェラは大切な夢をひとつだけ抱えていた。それは、ダンジョンに生きる一員になること。いつからこの夢を抱いたのかは覚えていない。けれども理由はすぐに思い当たる。 11
2016-06-18 19:31:25_憧れがすぐそばにあった。レェラの実家の隣が酒場だった。酒場といえば、冒険者がたむろす場所だ。革鎧や鎖帷子を揺らす屈強な男たち。煌びやかな魔法服や怪しい魔女服を身に纏う魔法使いたち。最初は怖かったのを覚えている。だが、それはすぐに彼らの語る夢に塗りつぶされた。 12
2016-06-18 19:36:39_冒険者になりたい! 言葉には出さなかったものの、心の奥ではいつも叫んでいた。そして少女はひとより早く一人立ちし、どうしようかと街角に立った。壁はいくつもある。まず、冒険者になるには身体にシリンダーを埋め込まなくてはならない。魔法を使えなければダンジョンでは生きていけない。 13
2016-06-18 19:41:32_レェラのような少女が冒険者になること自体は普通のことだ。男性には男性の、女性には女性の強みがあり、それは年齢の若い老いにもある。ただ必要なのはお金だった。 (まず働いてお金を貯めてから……) そう現実と折り合いを付けようとした際、目に入った一枚の広告。 14
2016-06-18 19:46:50≪ダンジョンでショップを開いてみませんか? 未経験者でも開店できます!≫ (でもお金が……) ≪融資ご相談受け付けます。小規模の資産でも驚くほどのリターン!≫ (おおっ) ≪いまなら入会金無料! ご相談はお気軽に!≫ (ぐへへっ) 街角で汚い笑顔を晒すレェラ。 15
2016-06-18 19:52:17_そういうわけで、レェラは全財産を投資してショップを開いたというわけだ。けれども、彼女の売り上げはいまだ赤字ラインであり、このままでは業者に払うローンを払えなくなる。話が違うと戸惑うこともあるが、それは自分の能力の至らなさだと反省する気持ちが強かった。 16
2016-06-18 19:58:03_それに、やはり夢を追う以上リスクは背負って当然だとも思っていた。 (店を開きたいなんて我儘通したのは私……でも、後悔はしていない。毎日が楽しいもの。頭を使わなくちゃ) 一日に何度も帳簿を確認する。売り上げは減る一方である。 (なんとかしてみせる) 17
2016-06-18 20:07:20_そういうわけで、今回ディーマが訪ねてきてくれたのはベストタイミングな助け舟だった。先程まで駆け巡っていた数々の回想を終え、ディーマの顔を期待のこもった眼で見る。ディーマはしばらく思案した後言った。 「今回は先生をお呼びします」 「先生?」 18
2016-06-18 20:12:27_ディーマは優しい笑みを浮かべ、レェラの隣へ移動し囁く。 「そうです。ここだけの話……わが社にはこの道のエキスパートでいらっしゃいます、先生のアドバイスを受けることが可能なのです。的確な指示、改善、収益アップ! もちろん特別な先生でいらっしゃいますので、追加料金が……」 19
2016-06-18 20:20:07_レェラはしょうがなく追加料金を払った。今日の売り上げが無くなってしまったが仕方がない。そう思えるほどにはディーマを信頼していた。数時間後、革鎧を身に纏った体格のいい男がディーマと共にやってきた。彼が先生らしい。 「俺はクレンツ。この道のプロだ。よろしくなァ」 20
2016-06-18 20:24:35【用語解説】 【インプラント】 魔法を扱うには魔力という微粒子が必要となる。そして空気中の魔力を自らに取り込むには特殊な訓練が必要となる。そのため、あらかじめ魔力を圧縮する手法が広まった。それがシリンダーという小さな器具であり、それを体内に埋め込んで魔法を携帯できるようにするのだ
2016-06-18 20:30:42