宝箱探しを終わらせてやった!#1 ゴミしか出ない!◆3
_奇妙なメダルだ。金色に輝いているが、金とは違いくすんでいる。大きく半眼のレリーフが刻まれ、不思議な文字がその上下に彫られていた。 「これは……違う」 ゼイラはゆっくりと目を閉じ、差し出した手を戻した。地下水の雫が垂れる音。 21
2016-07-01 20:07:53「何だろう、これ。貴重な物かな」 「ああ、貴重だぞ。高く売れるぞ」 そっけない声で言うゼイラ。彼はメダルを見ることもなく歩き出す。レッドはメダルを宝箱に入れ、ポケットに戻し、彼の後を追う。長身のフィルは闇の奥を一度振り返って、続いた。 22
2016-07-01 20:13:11「それは視線のメダル……当たりの宝箱に入っているものだ。希少価値がある。けれどもベルベンダインのメダルは、その縁が黒くなっておる。縁が黒いか、そうでないかの違いだけだ」 ゼイラは釣竿を拾い、釣りを再開した。ため息をついて、頼みごとを一つ。 23
2016-07-01 20:18:12「なぁ、ワシは疲れた。お前たち、宝箱を探してワシの所に持ってきてくれないか? 手間賃なら払う」 「いいよ」 即答するフィルにレッドは思わず口を挟む。鍾乳洞に声が響き、蝙蝠が飛んでいく。 「フィルぅ! またそんな……後悔しても知らないぞ!」 24
2016-07-01 20:23:31「最終的にノリノリになるのはレッドのほうじゃないか。まぁ……おじさん。手間賃はいらないよ。僕たちは観光客なんです。お金稼ぎに来たわけではないです。代わりに、僕たちに協力してほしい……いいですか?」 「構わん。好きにしろ」 背中で答えるゼイラ。 25
2016-07-01 20:29:13_ふっと、鍾乳洞の中が暗くなった……そんな感覚を覚えて、ゼイラは辺りをきょろきょろと見渡した。フィルとレッド、そしてゼイラのほかには誰もいない。奇妙に静まり返っている。背筋に冷や汗が流れた。バタバタと蠢く蝙蝠は……? さっき飛んで行ったことをゼイラは思い出した。 26
2016-07-01 20:34:26_フィルは一歩進んで、ゼイラの隣に立った。目の前には暗い地底湖。突然、地底湖に手を突っ込む! そして、一個の……手のひら大の宝箱を水底から掴みあげた。 「何だと!?」 「覚悟してください。もしメダルが見つかったらどうします?」 水が滴る宝箱を凝視するゼイラ。 27
2016-07-01 20:40:06「信じられるか」 目をそらし、釣り針の行方に集中しようとする。だが、その目はブレて、一向に集中できない。フィルのぞっとするような冷たい声。 「信じていないのなら、どうして宝箱を探しているんです? どうせ見つからないと思っていませんか?」 28
2016-07-01 20:45:30「いつしかメダルを追うより、惰性で暮らす方に楽しみを覚えていたのではありませんか? では、叶えてあげましょう。覚悟してください。そして、自分自身を知ってください。僕の言葉を打ち消して、示してください……」 ゆっくりと、宝箱を開けるフィル。 29
2016-07-01 20:51:47_宝箱の中にあったのは……縁の黒い視線のメダル……すなわち、ベルベンダインのメダルだった。横を向いたまま硬直するゼイラ。 餌を針ごと噛み千切られていた彼の釣り糸は、フワフワと湿った風に揺られていた。 30
2016-07-01 20:56:54【用語解説】 【視線のメダル】 現在の超文明である濁積世の創造主、女神ベルベンダインの混沌の視線を象徴するメダル。いわゆるマジックアイテムではなく、普通のメダルであり、女神の遊び心から生まれた。この世界には数多くのメダルコレクターがおり、彼らはいつも視線のメダルを買い求めている
2016-07-01 21:04:46