宝箱探しを終わらせてやった!#2 光を見つけるまで◆1
_目の前が真っ暗になる心地がした。ゼイラは脳からさーっと血が引く思いがした。これは眩暈だろうか、それとも洞窟内の魔力が濃くなりすぎたのだろうか。メダルを持つフィルの表情や、隣に立つレッドの姿が全く目に入らない。 強い光を放つメダルだけが目を捉えて離さない。 31
2016-07-02 14:57:59「よこせ……」 「だめです。僕らの願いがまだ叶えられていません。協力が必要なんです。願いを叶えるためには、協力が必要なんです。あなた一人でもがくだけではダメなんです。だから6年もかかったんです」 強い二つの光が灯る。それはフィルの瞳だ。ゼイラは口をぱくぱくと動かす。 32
2016-07-02 15:02:25「そして僕らにも協力してほしいんです……このメダルを、僕らにくれませんか?」 金槌で頭を殴られたような衝撃。渡す? メダルを? 6年追い求めたメダルを? 走馬灯のように記憶と思いが駆け巡る。ゼイラは、かつてダンジョンの研究者だった。それがどうして道を間違えたのか……。 33
2016-07-02 15:07:17「だめだ」 ダンジョンの謎を解き明かすため研究に明け暮れていた。若いゼイラはひたむきに情熱を注いだ……だが、他の研究者に次々と実績で先を越され、ゼイラは未完成の仮説だけを抱えて燻っていた。ベルベンダインのメダルさえあれば新しい理論が完成する。その仮説が彼を駆り立てる。 34
2016-07-02 15:12:17_過去の自分と目の前のフィルが交錯する。過去の自分が妄執の形となってフィルに纏わりついている! 「メダルを見つけた。それが目的だったのでしょう。いいじゃないですか。もう終わりにして。ベルベンダイン=メダル理論が破綻して何年たちました?」 「だめだ……」 35
2016-07-02 15:16:28_ゼイラは自らの腰に手を当てた。鉈がある。ちらりと鉈を見る。強い、甘露のような誘惑が脳髄を駆け巡る。 「メダルを、よこせ……」 「そう、それでいいんです」 鉈を鞘から抜く。暗い洞窟に現れたもう一つの光。 36
2016-07-02 15:21:06_鉈が一閃。フィルの脇腹に食い込む。倒れ、血が噴き出すフィル。ゼイラは、レッドがどこに消えたのかさえ注意を払っていなかった。宝箱とメダルが地面に落ちる。転がる。転がる。地底湖へ……直前で、ゼイラは拾った。逃げ出すゼイラ。息が上がる。血走った眼で、もつれる脚で! 37
2016-07-02 15:26:45「うわあああああ!!」 子供の泣き声のような情けない声を上げて、自分の家に転がり込む。甲虫の殻で出来た扉を閉め、鍵をかける。涙に滲んだ目でベルベンダインのメダルを見た。手のひらの中でそれは、優しく、許すように光っている。 38
2016-07-02 15:30:58_ゼイラはメダルを抱きしめた。暗い部屋の中、ふるふると震えている。 (夢だったのに、手に入れたかったのに……どうして、どうして……ワシはこんなにも汚く鈍くなってしまったんだ。色を失って、欲しいものを手に入れるため、獣のように……もう終わりだ) 「終わりじゃないよ」 39
2016-07-02 15:36:28_誰もいないはずの部屋に青年の声。濡れた目で見上げるゼイラ。そこにいたのはレッドだった。 「大丈夫、アレはただの幻さ。悪い夢だったんだよ、宝箱の罠のね」 そう言ってバラバラの宝箱をポケットから取り出した。その瞬間、部屋の空間が音を立てて……ひび割れた。 40
2016-07-02 15:41:05【用語解説】 【狂った視線の≪ベルベンダイン≫】 ベルベンダインは洪積世から存在する古き女神で、真なる姿はアルビノであるが、黒髪白皙の姿で顕現する。顔は黒いインクで塗りつぶされており、目も鼻も口もなく、恐ろしく長い長髪が身体に纏わりついている。興奮すると全身に目が出現する
2016-07-02 15:49:54