空想の街・氷涼祭'16 二日日 #赤風車

#空想の街 氷涼祭の二日目(16/07/02) #赤風車 纏め。 二日目と三日目の間の深夜→http://privatter.net/p/1718405 過去本編など→http://fukashiten.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権はそれぞれの作者に帰属します。 公式様参加者様、お疲れ様でした。コラボしてくださったかたがた、有難うございました。 続きを読む
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不可村 @nowhere_7

会ってくるといいよ、と徒華は続けて促してやる。それに千草は穏やかに、首を横に振って返してきた。 「もう会ったんだ。――ごめん、姉さん、呼んでくれたんだろうに、二番目で。――姉さんに会うふんぎりがつかなくて、迷ってたらここで」 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 19:06:36
不可村 @nowhere_7

「謝るなよ」苦笑してやる。そういうことなら仕方がない、宿の少年は弟の友人なのだ、恐らくはたった一人の。「いい話はできたか? お前たちが友人同士だと知って私は嬉しかったし、それはびっくりしたけど、会えたならよかったよ」 弟に背を向け、徒華は孔雀荘の方角を見る。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 19:09:58

“私の千草”

不可村 @nowhere_7

「姉さん、」 「なんだ? ほら、このまま孔雀荘に戻ろう。お前、今夜は悟君といたらいいんじゃないか、私とは明日もあるんだし」 「姉さん」 なんだって何回も呼んで、と首を戻した徒華の鼻先に、弟の大きな手がある。 思わず退いたのは徒華のほうだ。 「……どうした、」 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 19:12:39
不可村 @nowhere_7

銀氷の輝きも吸い込んで反射しない弟の黒目に射貫かれ、徒華は暫し声を続けられずにいた。 千草、と問う前に、相手の手がするすると黒い袖へ吸い込まれる。「……髪、結いあげないんだね」――項が見えればよかったのに。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 19:15:11
不可村 @nowhere_7

@tos 「あ、ああ、その、流石に暑苦しく見えたか。どうしても結う気になれなくて。明日は結ったほうがいいかな」 どっちでもいいよ、とそっけなく返され、徒華は呆然とする。こんな話をするような弟だったろうか――二年半で弟を忘れたか。いや、しかし、弟はとまっている筈で―― #赤風車

2016-07-08 01:08:40
不可村 @nowhere_7

@tos とにかく、お前、今日は悟君のところへ戻りなさい、と徒華は無理やり穂を継ぐ。何か不自然な気もするが、――いい。弟は調子を取り戻せていないのだろう、こちらも再会だけで舞い上がったのだし。自分は別の宿をとろう、弟の邪魔はすまい。 「また明日、この近くで」 #赤風車 #空想の街

2016-07-07 03:22:23
不可村 @nowhere_7

わかったよ、とこっくり弟は頷いた。不思議なほどに素直だ。 「今日はこのまま悟君のいる宿に行ってみる。事情、言えばきっとわかってもらえるだろうし」 また明日、海に近い場所で。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 19:20:52

水底の貝殻

不可村 @nowhere_7

孔雀荘へと歩いていく弟を見送る。足跡も碌に残らないのか―― そう俯いたところで、ふと弟が振り向いた。「姉さん、あの、言おう言おうと思っていたんだけど」僕は何があってももう謝らないけどね、絶対に、と念を押され、言葉が続く。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 19:22:30
不可村 @nowhere_7

「僕も姉さんに会えて嬉しい。会えて安心したよ。それだけは、――何があってもいつまでも、きっと同じだから、憶えていて」 呼んでくれてありがとう。 ほのかな声に、徒華も頬を緩めて返してやる。誰もお前を忘れやしない、礼なんかいいんだよ、と。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 19:23:42

虫喰い落ち葉ひとひら

不可村 @nowhere_7

真っ赤に線が迸る塀の前、廻転自動車に腰掛けた女性が日傘をさして、座っている。 もう夜更けだ。氷涼祭の祭りも、その後の飲み直しも終わるような時刻。時計塔の針は丑三つ時をすっかり回っている。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 02:22:29
不可村 @nowhere_7

ひとぉつ、と、近づくのは軽快な革靴の足取りである。歌いつつも賽子は手の中で転がっており、その持ち主は賽子の目に従って歩いているわけではないらしい。 「一日中見て回ったけど、変てこな街だったな、ねえ、お嬢」 お待たせしました、と、ハットを被った青年が笑った。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 02:25:05
不可村 @nowhere_7

帰るの、と相手から声をなげられ、赤いハットの青年は首を傾ける。まるで鳥のような仕草だ。「帰るよ――帰りましょうよお嬢、こんな不快な音の響く街は厭なんだ。言ったでしょう、ボクは音と言えばお嬢の声と骨の音が好きなんだって」 でも、とそこでぼろぼろの燕尾が翻る。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 02:27:43
不可村 @nowhere_7

蛾の羽のような燕尾だ。深紅のそれが穴だらけであることなど本人はどうでもいいらしく、白手袋を外しながら塀へとつかつか近づいてゆく。 「乾かしてしまうなんてさ、お天道様、やっぱりボクは嫌いだな。今日も一日晴れやがってさ、ほんと。お蔭で乾いちゃったじゃないか」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 02:30:34
不可村 @nowhere_7

傷はそんなに早く治らないのにね、とハットの男が、ぐしゃぐしゃになったまま癒えていない右手の甲を舌で舐めていった。「面白い子には会えたけどね、今一番のうちの看板は当分お嬢だから」安心して、と口角が上がる。 「――さ、お嬢。帰りましょうよ、ボクらのあの舞台へ」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 02:33:39

二日目・終

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