髪の毛島(かみのけじま)

海で遭難した女性二人が、不思議な島にたどりつく怪奇小説です。
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 51 気色悪いのを通り越して、ギャグで済ませたくなる。 「地面から直接生えているわね」  ビニール袋を下ろして、波多さんは、髪を一本掴んだ。そして、軽く引っ張ったかと思うと、両手で力を込めて引き抜こうとした。 52へ

2016-09-12 21:08:29
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 52 「やめなよ、何してるんだよ」 「サンプルが無いと調べようが無いわ」  なおも引っ張ると、ぶちっと音がして、髪が抜かれた。 「た、祟りとかあったらどうするんだよ」 「そんなのナンセンスだわ。大体、本物の髪かどうかも分からないのに」 53へ

2016-09-12 21:09:41
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 53 抜いた髪を、ロープのようにくるくると巻いて、彼女は肩にかけた。それから、ビニール袋を再び手にして、川まで歩き始めた。と、二、三歩目で肩越しに振り返った。 「良ければ手伝って」  そう呼びかけて、すたすた進み続けた。 54へ

2016-09-12 21:10:46
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 54 確かに、いつまでもへたり込んではいられない。自分の腰を拳で軽く叩いて、あたしはどうにか立ち上がった。  波多さんと一緒に、川で全てのペットボトルに水を入れ終えると、もう昼下がりになっていた。唐突にお腹が鳴った。 「ご飯にしない?」 55へ

2016-09-12 21:12:02
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 55 あたしは聞いた。 「そうね」  短く彼女は言った。ビニール袋に、満タンにしたペットボトルを詰め込んで重さを確かめてから、彼女は改めてあたしを見た。 「一緒に持って行ってくれないかしら。重いから、もう一往復するけれど」 56へ

2016-09-12 21:13:15
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 56  「うん」  あたしも、一人暮らしをしているから、買い物袋の重さは慣れている。それにしても、いざ波多さんと分かち合うと、なかなかの手応えに思わずうなりかけた。 「お、重いね……」 「水は一リットルで一キロあるわ。筏までは百メートルほどよ」 57へ

2016-09-12 21:15:39
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 57  励ましになるかどうか、良く理解出来ない解説を述べて、波多さんは足を前に出した。あたしも応じた。  さっきまで、一滴の水さえあればどれほど幸せかを考えていたのに、今は腕の強張りに顔をしかめている。自分で言うのも何だけど、勝手な性格だと思う。 58へ

2016-09-12 21:17:07
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 58  筏がそう簡単に近づかないのも腹立たしい。  ようやく筏に着いた。ビニール袋を床に置いて、あたしは、その脇に寝転がった。 「お願い、ちょっと休ませて」 「いいわよ」  波多さんは、筏の中にある箱を開けて、消毒用のアルコールを出した。 59へ

2016-09-12 21:18:23
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 59 更に、ビニール袋からペットボトルを一本ずつ出して、口を開けた。 「何をするの?」 「ただの水はすぐに腐るから、アルコールを少しいれておくのよ」  あたしは、コメントする力を失って、波多さんの作業を見守った。 60へ

2016-09-12 21:19:30
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 60  「非常食……余り食べ過ぎないでね」  手を止めずに、彼女は言った。 「分かったよ」  つい、刺々しい言い方になってしまった。悔やむより空腹が先で、あたしは、ビスケットの袋を出した。ついでに残りを確認する。あと一袋しかない。 続く

2016-09-12 21:20:40
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 61  「波多さん、いる?」 「うん。余ったら置いておいて」  最後のペットボトルにアルコールを垂らし終えて、波多さんは、筏を出て行った。あたしは、袋を破ってビスケットを口にした。考えて見れば、ここ一週間はずっとビスケットばかり食べている。 62へ

2016-09-13 21:17:13
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 62 一応、ビタミンやミネラルが添加されているらしいから、病気にはならずに済むみたい。ビスケットダイエットだ。  袋を半分空にして、さっきアルコールを入れたばかりのペットボトルを一本取った。一口飲んで、アルコールの風味は殆ど感じなかった。 63へ

2016-09-13 21:18:27
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 63   ペットボトルを飲み終えたら、ちょうど、波多さんが帰ってきた。もう一つの袋を持っていた。 「お帰り。手伝えなくてごめんね」 「別に、いいわ」 「あたし、食べたから、交代しようよ」 「うん、ありがとう。でも、あたしがやるから、休んでいて」 64へ

2016-09-13 21:19:39
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 64  ああ、そうですか。じゃあ、お言葉に甘えるよ。あたしは、黙ってうなずき、寝そべった。実際、いっぺんに色んな事が起きすぎて、ひどく疲れていた。  いつの間にか、夢を見ていた。舞台はこの島で、五、六人の男が、若い男女を囲んでいる。 65へ

2016-09-13 21:20:41
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 65 着ている物は、時代劇に出てくるような服で、言葉使いも時々意味が分からなかった。とにかく、若い男は、地元に家庭があるのに、島の女性と恋仲になった。他の男衆が、それをなじり続けていた。  若者は、何か言い返していて、それが余計に先方を怒らせた。 66へ

2016-09-13 21:22:21
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 66 ついに、若者を囲んでいた一人が、拳を振り上げた。それからは、暴力が暴力を呼んで、ただのリンチになっていった。 「止めてー!」  自分の叫び声で夢は終わり、あたしは起きた。  辺りはもう真っ暗になっていた。波多さんの姿は無い。急に一人ぼっち。 67へ

2016-09-13 21:23:44
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 67   「波多さん? どこ?」  筏を出ると、満天の星空だった。彼氏といたら、ロマンチックな雰囲気が盛り上がるのだろうけれど、そんな状況じゃない。  筏からそんなに離れる事も出来ず、ただ、あても無く周囲を見渡すと、小さな灯りがちらっと見えた。 68へ

2016-09-13 21:24:54
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 68  「波多さん?」  思わず、足が動いた。一度進み出すと、何故か、そこを目指すのが目的のような気持ちになって、明かりも無いままふらふらと出発した。  潮騒と、自分の足音だけが、夢遊病のような黒一色の世界からあたしを隔てていた。 69へ

2016-09-13 21:25:52
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 69 灯りは、蛍のように、上下左右に揺れていて、わずかながらも大きくなり始めた。  と、突然、右足が、くるぶしまで水に浸かった。とても冷たくて、少し叫んでしまった。恐る恐る、左足を前に出して、爪先をゆっくり伸ばすと、こちらも水に入った。 70へ

2016-09-13 21:26:58
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 70 つまり、浅瀬か何かに入り込んだ。灯りはかなり大きくなり、動かなくなっていた。 「波多さんでしょう?」 「そうよ。滑らないように、気をつけてね」  そう言って、灯りがあたしの足元に投げかけられた。それで、ようやく少し分かった。 続く

2016-09-13 21:28:18
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 71 上陸した島から、浅瀬伝いに、別の小さな島……島と言うより、大きめの岩の塊……があって、波多さんはそこに登っていた。 「どうして、こんなところに来たの?」  問いかけながら、波多さんに近づこうとすると、足が何か柔らかい物を踏んだ。 72へ

2016-09-14 21:02:22
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 72  「ひいっ?!」  思わず飛び退いて、それからかがんだ。生き物では無さそう。少なくとも、動き回ったり、噛みついたりはしない。  好奇心に逆らえなくなって、水面に手を差し伸べ、正体を掴んだ。水から出すと、ただのミカンだった。割と大きい。 73へ

2016-09-14 21:03:37
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 73  「え? どうしてミカン……」 「捨てて!」  いつになく強い口調で、波多さんは言った。 「捨て……? 傷んでるの? まあ、確かに、水に漬かっていたんだから」 74へ

2016-09-14 21:04:48
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 74  「違う! 呪いがかかっているから! 早く!」  呪い? 吹き出しそうになった。もっとも、非衛生なのには間違いない。とにかく、ミカンは捨てた。 「捨てたよ」 「うん。ごめんなさい、大声を出して」  いや、そこじゃないと思う。 75へ

2016-09-14 21:05:42
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

髪の毛島(かみのけじま) 75 それはさておき、やろうとしていた事を思い出した。つまり、離れ岩まで歩き、波多さんと合流した。実は、波多さんの足下からロープが垂らされていて、それを伝って登った。登り切ってから、ロープが、この島に生えていた髪の毛だと気づいた。 76へ

2016-09-14 21:06:38