「ネクロマンティック・フィードバック」 #6

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバー」首だけを回し、ウィルオーウィスプが新たに現れた敵を視界に収める。ジゴクめいた虚無的な瞳に見据えられても、シンゴはひるまない。怒りと憎悪が彼の心にヒトダマのごとくくすぶり燃えているからだ。

2011-03-05 16:23:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シンゴは弾の切れたデッカーガンをいきなりウィルオーウィスプの燃える顔面へ投げつけた。避けようともせず、銃身は顔面に当たり鈍い音を立てる。「アバー」まるで効かないのだ!だがシンゴの狙いはそれではない。憎き敵の脇腹から心臓にかけて、下から上、彼はステンドグラスを深々と突き刺す!

2011-03-05 16:31:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!」ウィルオーウィスプが身悶えした。たちまち、その巨体を覆う青い炎がステンドグラスの破片を伝わり、シンゴに引火した!「グワーッ!」ナムアミダブツ!またひとつ新たな人間松明がそこに!「アイエエエエエ!おしまいだあ!」アンドウが慟哭する!

2011-03-05 16:43:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もはや万事休す……いや、見よ!ウィルオーウィスプの両手の力が緩み、火だるまのニンジャスレイヤーが動いた!「イ……イヤーッ!」彼が摑んだのは、心臓を突き抜けて突き出したステンドグラスの破片である。力任せにそれを反対側に引き抜く!「イヤーッ!」「アバーッ!?」

2011-03-05 16:48:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イ…イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはコマのように身体を回転させ、引き抜いた刃を横薙ぎに払った。「アバーッ!」手負いとは思えぬ敏捷性でウィルオーウィスプが間合いの外へ跳び離れ、それを躱す。だがニンジャスレイヤーは動きを止めない。「イヤーッ!」コマ回しじみた回転の速度が増してゆく!

2011-03-05 16:52:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーのコマ回転が等比級数的に速度を上げる。背中を焼いていた青い炎が不可思議な遠心力作用で肩、腕を伝い流れ、刃の切っ先へ移ってゆく。それだけではない。周囲をいまだ飛来するヒトダマまでもが彼の竜巻めいた回転に引き寄せられ、刃の先へ、同様に集まってゆくではないか!

2011-03-05 17:02:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!」ウィルオーウィスプの身体を覆う炎もまた、目の前のニンジャスレイヤーのタツマキ回転へ引き寄せられていった。炎の衣が剥がされると、そこに立っているのは黒く焼け焦げたボロに身を包んだゾンビー・ニンジャである。一方、燃える刃の回転は今や極限に達せんとしていた!

2011-03-05 17:13:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ち、血の使徒!」アンドウが叫んだ。「ビ、ビジョンが成就した!何もかも! 血の使徒は燃える剣をその手にもて、そして朝日が罪を、罪を……朝日が!」アンドウは東の空を指差した。朝日!

2011-03-05 17:14:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!!!」ニンジャスレイヤーが青く燃える刃を、投げた!「アバ……」高速回転する刃がウィルオーウィスプの胸板を割り、切り裂き、そして「……アバーッバババババーッ!」真横に切断した!切断面に青い炎が燃え移り、一瞬にして、二つに別れたボディを焼き尽くす!「アーババババーッ!」

2011-03-05 17:20:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヌウッ!」回転を終えたニンジャスレイヤーはがっくりと片膝を突き、ダメージに耐える。ウィルオーウィスプはどうか。分断された身体はあっという間に炭化し、明け方の風に吹かれるまま、ホタルめいた青い光の粒とともに、バラバラに散ってゆく……!

2011-03-05 18:01:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

燐光に混じって、「サヨナラ」という言葉がニンジャスレイヤーの耳に届く。己の自我を持たぬままに殺戮を繰り返したゾンビーの、それが最後の呟きであった。

2011-03-05 18:04:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あ……ああ!アーマゲドン!」アンドウはニンジャスレイヤーの前に飛び出し、いきなりドゲザした。ニンジャスレイヤーは訝った。アンドウは必死で地面に額を擦り付け、嗚咽を漏らす。「血の使徒よ、答えたまえ!これは世界の終わりなのでしょうか?貴方はなぜ私の妄想から現世へ生まれ出でたのか?」

2011-03-05 19:28:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「知らぬ」赤黒の黙示録ニンジャは言い捨てた。「私はオヌシの妄想ではない。そこの男にはまだ息がある。くだらぬ世迷い言を言う暇があるなら、その男を医者へでも連れてゆけ」そして朝日の方角へ歩き出した。

2011-03-05 19:32:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私は!」アンドウが去りゆく後ろ姿に叫ぶ。「私には未来も希望も無い!娘は死んで、生きる意味を失ったのです!私はどうすれば……?辛いのです!辛くて……」アンドウは涙を拭った。影は立ち止まり、少し振り返った。「私に訊くな」それだけ言い残すと、すぐに彼は見えなくなった。

2011-03-05 19:41:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ネクロマンティック・フィードバック」エピローグ

2011-03-06 13:29:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ダイヌンガ小道の安宿を抜け、通りの多い道路を横切ると、高架下のワン・トークン・ノミヤ屋台村に辿り着く。サッキョー・ライン鉄道のエクスプレスが分刻みのダイヤを死守すべくひっきりなしに通過する騒音と震動の中、サラリマンやブルーカラー労働者はこの屋台村で、無言でオチョコを傾けるのだ。

2011-03-06 13:36:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

高架が続く限り、薄ら潰れた屋台村の列も伸び続ける。重金属酸性雨をかろうじて凌ぐべく。「焼き物」「おマミ」「カシワ・モチ」「人間味」「木の温もり」。屋台が掲げる思い思いのノレンの並びは、色褪せ錆びたブードゥーめいたマンダラである。

2011-03-06 13:40:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

立ち飲み屋台「そでん」。バイオスズメめいて鈴なりに並ぶサラリマンの背中にまぎれ、その男もまた、誰とも言葉を交わす事なくショチューを飲み続けている。

2011-03-06 13:46:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

よくよく見れば、その男の身なりは異様だ。ズタズタに傷ついた黒マントは牧師めいている。もしそれが本当に牧師のもので、しかも略奪品だとすれば、文字通り、神をも恐れぬ所業といえよう。ツバ広の帽子もおかしな組み合わせだ。

2011-03-06 13:50:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

帽子の下は重病人めいて、汚れた包帯をグルグルと乱雑に顔面に巻きつけている。いかにも浮浪者といった様子であるが、そんな疑いを無言で晴らすかのように、男のショチュー・グラスの横には、カジノめいて500円トークンが縦に積み重ねられていた。

2011-03-06 13:55:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オヤジ……オヤジもう一杯……」不審な男が枯れた声で呟き、積んだトークンから一枚差し出した。猛烈な酒臭さが温泉ガスのように白い気体となって、乱杭歯が並ぶ口から噴き出た。両隣のサラリマンは鼻白んだが、シツレイにあたるので、無言であった。

2011-03-06 14:00:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あいよ……」マツリ・ハッピを着た店主はサイバネ義手でショチュー・ベンダーを操作し、透明な高濃度アルコール液でグラスを満たした。「おいしいハンペンは要らないの?」「……要らぬ……」グラスを受け取る手の指にも汚い包帯が巻きつけられている。

2011-03-06 14:04:13