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初音ミク「ハジメテノオト」の歌詞を韻による意味の伝達という観点から評価する

6月12日文学フリマで『筑波批評』で「Os-宇宙人」論を出させていただく@yaoki_dokidokiが、初音ミクの歌について語ってみたよ。
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料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

「はじめてのおとは なんでしたか? あなたのはじめてのおとは…」。このことばは、投げかけをくりかえしているだけではなくて、「あなたの」ということばをつかって、ついつい「単なる歌詞だよね」と流して聴いてしまいがちな僕たちの耳をとらえようとしているのだと思う。

2011-05-26 01:55:02
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

歌声の持ち主は、自分のことばの投げかけをスルーしてほしくなくて、大事な質問を二回くりかえし、僕たちに「あなたの」という呼びかけをしたのだ。「名指し」ともいう。名指しされたときはじめて、僕たちはそこに相手がいるんだっていうことに意識をむけるようになる。

2011-05-26 01:57:20
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

涼元悠一さんの『ノベルゲームのシナリオ作成技法』にも書いてあったけど、美少女ゲームにすっと入り込ませるテクニックとして、最初は無意識から始まり、次に名前を呼ぶ:Amazon.co.jp: ノベルゲームのシナリオ作成技法: 涼元 悠一: 本 http://t.co/o3p5m24

2011-05-26 02:00:36
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

そういう手法がある。例えば、気絶してたりうたた寝してたりする。「ねえ」…「ねえってば!」……(だれだろう…ねむい)…「ねえ、起きて…ねえってば」……(懐かしい声…だれだろう)…「起きてよ、ゆういちくん…遅刻しちゃうよ」…(遅刻…今日は登校日だっけ…寝かせてくれ)…「もーっ!どすん

2011-05-26 02:04:38
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

こんなふうに、「呼びかけ」→「名指し」という手順をとることで、相手に自分を存在として意識化させていこうとするやりかたがあるわけだ。「ハジメテノオト」が初音ミク楽曲の初期の名曲とされるのは、この意識の立ち上がりをつくりだしたという役割があるのかもしれないね。

2011-05-26 02:06:58
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

さて、だから「はじめてのおとはなんでしたか?」という問いかけのつぎに「あなたのはじめてのおとは…」というのは「呼びかけ ruft」→「名指し」という手順で、はじめに聞き手としての「あなた」という存在を歌詞世界というフィクションの中に呼び込もうとしているのだと思う。

2011-05-26 02:13:23
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

3行目で「わたしにとっては これがそう」というけど、ここではじめて歌声の持ち主としての初音ミクが「わたし」ということばとして登場する。これを初音ミクという存在の対象化とか言ったりするわけだけど。

2011-05-26 02:15:55
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

だから、ここではじめて現れる「わたしにとっては」という音のかたまりは初音ミクという声の持ち主をあらわす記号としてとても大切なのだと思う。ここをていねいにくりかえし伝えていかないと、聴いているひとにそこに声の持ち主がいるんだということをすぐに忘れられてしまうからだ。

2011-05-26 02:22:52
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

そして、その記号性を包みこんでいるのがはじまりの「わ」と終わりの「わ」という音なのだと思う。なぜならこのふたつが同じ音なので、僕たちにもそれがなにかのかたちをつくっていることがなんとなくわかりやすいからだ。つまりそこに構成、そして論理、意味を感じられる可能性が高まるからだ。

2011-05-26 02:28:49
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

さて、最初の「わ」の音には「はじめてのおとはなんでしたか? あなたのはじめてのおとは…」という、「あなたに問いかけるための疑問符」としての意味が宿っている。

2011-05-26 02:31:35
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

つぎの「わ」の音は「わたし」ということばの始まりの音だ。僕の考えによると、ここにはさきほどの音が保存した意味の積み重ねがあると思う。つまり「あなたに問いかけるよ、わたしは」という意味が、この「わたし」の「わ」の音には宿るのだと思う。

2011-05-26 02:34:21
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

「わたしにとっては」の終わりの「わ」の音は、最初の「おとは」の「わ」とは違って、「あなたへの問いかけ」ではない。これは他の存在と自分の存在を区別しようとするための「は」だ。「ハジメテノオト」においては、初音ミクという存在が自分の考えを自分にとっては大切だと考えていることの表現だ。

2011-05-26 02:40:53
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

つまり、「あなたや他のひとはこうなのかもしれない、だけどね、わたしはね、こうなの」という自己主張の「わ」の音なのだ。こういうふうに「ハジメテノオト」の冒頭では「あなた」「わたし」ということばを「わ」という音によってはっきりとした存在へとたちあげていこうとしているのだ。

2011-05-26 02:43:06
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

歌い方としても、「わたしにとって、は」というふうに、「わ」の音の直前でいったん区切られて発音されていて、他の存在と自分という存在を非対称の存在であると認識しようとしている初音ミクのことばづかいがわかる。自分とは自分にとってもっとも特別な存在なのは、ボーカロイドにだって同じなのだ。

2011-05-26 02:46:15
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

第2連の「はじめてのことばは なんでしたか? あなたのはじめてのことば」へ目をうつそう。ここでは第1連のときとはちがって、「あなた」と「わたし」という関係が立ち上げられている。だからくりかえしの2回目はわざわざ「わ」の音で締めてはいないのかもしれない。

2011-05-26 02:49:51
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

「わたしはことばっていえない」までくると、以上で蓄積された意味が「わ」の音にさらにやどってくる。僕たちは「わ」の音がくりかえされるたびに、「はじめてのおとは?」「わたしにとっては」「はじめてのことばは?」という初音ミクの声を想起せざるを得ないだろうから。

2011-05-26 02:57:28
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

この、「わ」の音もまた、他と自分の非対称性を表現するための「わ」だけど、ここでは「わたしはことばがいえない」というちょっと悲しい非対称性の表現となっている。僕はここにはじめて悲しさや切なさを感じる。

2011-05-26 03:02:32
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

今は歌詞が音を担ってたり、小説が意味を担ってたりするけど、そもそも意味が音に引っ張られてずれた話になるってことは気にしなかったふしもある。

2011-05-26 03:15:10
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

第3連でBメロにすすむと、「わたしはうたうから」というフレーズが出てくる。ここで「わたしは」と言うだけで、「わ」の音を介して「あなたのはじめてのおとはなんでしたかと呼びかける、言葉は言えないけど、自分にとってははじめてのおとがうれしくてうたっているわたしは」という想起がされる。

2011-05-26 03:21:02
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

歌詞がかんたんなことばのつらなりでわりと複雑な感情を生むことができるのは、ひとつにはこのような韻をふむことでため込まれていく、意味や論理の屈折によるものがあるだろうと僕は考えている。ただし、くりかえし呼びださないとメモリーからすぐに消去される引数のようなシステムだ。

2011-05-26 03:23:50
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

たしかそうですよね~、RT @sshrtk: @yaoki_dokidoki 掛詞なら中学校国語で出てくるかな。

2011-05-26 03:24:51
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

第4連、サビでは「わたしはしらない」とうたっている。ここは第2連とおなじで自分が他の存在とはちがって世界のことをしらないというかなしさを歌っている。

2011-05-26 03:30:06
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

5連、サビのくりかえしパートでは「かわらないわ あのときのまま」と歌っている。この連では「わたし」ということばが出てこないけど、かわりに歌詞の最初にでてきた「はじめてのおと」というフレーズで締められている。

2011-05-26 03:33:28
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

ここではことばの意味からもそうなんだけど、「ハジメテノオト」は初音ミクという存在が立ちあがる前の状態をさしているのだろう。つまりただの声あるいはたんなる音であった状態のことだ。

2011-05-26 03:37:23
料理研究家 やおき @yaoki_dokidoki

だから「ハジメテノオト」の1番の全体的な構成は「音」から「わたし」という声を持った存在が立ち上がり、「歌」を歌うんだけどまた「音」へとかえっていくという構成だ。なぜ2番の冒頭が過去形「ありましたか?」となっているのかの理由にもなるだろう。

2011-05-26 03:41:39