スリー・ダーティー・ニンジャボンド #1
酒場の日陰に座るチョンマゲ酔漢が鼻をつまみ「くせぇ余所者」と罵る。カソックの男は歩み寄り、いきなり酔漢を蹴り飛ばし、手の中のスピリッツ瓶を奪い取って、中身を頭から浴びた。「何しやがる……アイエッ!」その顔面に素子トークンを叩きつけて黙らせると、男は酒場の中に足を踏み入れた。 25
2011-12-12 14:35:51「……で、俺の増設端子、これ、メッキよ。しかもクリスタル含有で」「ヤンバーイ」「あー、キク、キク……」「まるっきりネオサイタマめいて……」「ビョウキとかは?」「ヤケルー」すぐにさざ波のように会話が寄せ返し、タバコ臭い空気は無関心を取り戻す。男はカウンターにドカリと腕を載せる。27
2011-12-12 14:41:50両腕をサイバネ義手に変えたバーテンダーが男に近づいた。「御用は」「トビッコ・ギムレットあるか」「トビッコ?無いね。陸の孤島よ。バリキあるよ?バリキハイ」「クソだ」男は酒臭い息を吐き出し、「じゃあジンはやめだ。ウォートカ……いやズブロッカあるか」「ズブロッカあるよ」「よこせ」 28
2011-12-12 14:53:01男が黙々と酒を飲んでいると、サイバーサングラスをつけたオイランが隣に座り、しなだれる。サイバーサングラスに「危険な香りの男が好き」と蛍光表示される。「消えろ。今は気分じゃねェ」男はジゴクめいて言った。オイランは小馬鹿にしたように肩を竦め、別の客のところへ歩き去った。 29
2011-12-12 14:57:17「おい、コラ!これ!」カウンターの端で、店員にクレームを入れている男がある。「……」カソック男はそちらへ視線を投げた。「何スかァ」「何じゃない!見ろ、この、ペペロンチーノソバを」「ソバすかァ」「ソバだッ!」まくし立てているのは編笠を被った妙な男である。 30
2011-12-12 15:09:35「入ってないンだよ!バイオトウガラシが!」「辛くなかったすかァ」店員は面倒そうにソバを一本つまんだ。「本当スねェ」「ウソなどつくか!」編笠の男は椅子を蹴って立ち上がった。「金は払ってるンだ!バカにするな!」「作り直しますんでェ」「ミートソースもつけろ!」「ちょっとそれはァ」 31
2011-12-12 15:20:55カソック男は椅子を立ち、そちらへ歩いてゆく。客たちがただならぬアトモスフィアを察し、ざわつきのトーンを落とした。「あらわさんか!この……この実際、私の困惑に対するこの……補償を!心外すぎる」「ミートソースはちょっとそれはァ……」「タンパク質だ!」「おい、おいお前」「え?」 32
2011-12-12 15:26:35答えるかわりに、カソック男は編笠男の迷彩装束の襟元を掴んだ。そう、迷彩でカムフラージュしているが、それはニンジャ装束なのだ。つまりニンジャもしくはニンジャを真似た狂人なのだ!しかしてこの男は前者であった!瞬時に物騒なククリナイフがカソック男の首筋に当てかえされたのである! 33
2011-12-12 15:30:47「えっ?アイエッ!?」店員は突然の修羅場めいた状況に衝撃を受け、飛び下がって失禁した。ククリナイフを首筋に当てられながら、カソック男は平然としている。革手袋に包まれたその左手で固く拳を握り、「やってみろ。俺はそれより早くケチな顔面を殴り潰す」「何の用だ」編笠男が睨み上げる。 34
2011-12-12 15:36:01「酒がまずくなる。イラつかせるな。クソくだらん騒ぎは俺のいない所でやれ」「……くだらん、だと?くだらんと言ったか?」二者の瞳に油断ならぬ敵意が満ち満ちる。今や店内はしんと静まり返ってこのやり取りを注視しており、二者の近くの客何人かの失禁音だけが聞こえてくる。 35
2011-12-12 15:56:39「ザッケンナコラー!」「アイエエエ!」沈黙を思いがけず破ったのはカソック男でも編笠男でも無かった。蹴飛ばされ店内へブザマに転がり込んで来た中年男と、十人前後のヤクザめいた悪漢達のエントリーだ!「アイエエエ!?」客達は怯えた悲鳴を口々に上げ、テーブルをひっくり返して逃げ回る! 36
2011-12-12 16:25:25「スッゾオラー!?チェラッコラー!」「アイエエエ!」「ナンオラー?アッコラー!」「アイエエエエエ!」「ルルァックァラー!ウルルァッカラー!?」「アイエエエエエ!」悪漢のボスおぼしき男がサッカーボールめいて中年男を蹴飛ばし回す!「オーナー=サン?」バーテンダーが目を見張った。 37
2011-12-12 16:30:48「ヤメテ」中年男は震えながら訴えた。丸眼鏡が無残に割れてしまっている。「ダッテメッコラー!?」悪漢のボスが声を荒げた。「チェラッコラー!ズラッガー!?ダァー!?」「アイエエエエエ!」ボスが合図すると、部下達が店内を荒らし出す!テーブルを、椅子を蹴り、酒瓶を叩き割る! 38
2011-12-12 16:34:09「アイエエエエ!?」たちまち店内は阿鼻叫喚の地獄図と化す!押されて倒れこんだ客がカウンターのペペロンチーノソバ皿を跳ね返し、ソバは宙を飛んでカソック男の頭へ!カソック男は舌打ちし、フォークを掴むと空中でそれをクルクルと受け止めた!フォークによって巻き取られるソバ!ワザマエ! 39
2011-12-12 16:40:40「待て!それはおれの食物だ!何をするか」編笠男が食ってかかる。「……」カソック男は答えるかわりにソバを巻いたフォークを編笠男の口の中に突っ込み、捨て置いて、騒ぎの元へ向き直った。「アイエエエ!」「滞納したら一括回収、これ、基本ネ」出っ歯の手下が中年男に借用書をチラつかせる。 40
2011-12-12 16:52:30「だってそんな……あまりにも」中年男が涙声で言った。「さっき振り込んだじゃないですか」「20分も滞納オラー!」ボスが叫び返す!「タイム!イズ!マネー!」「アイエエエエ!?許してください!ヤメテ」「ザッケンナコラー!じゃあ利息分、カネを二倍にして15分後にアバッ」 41
2011-12-12 16:59:28ボスが膝をついた。……顔が無い。口の高さを真横に切断された形だ。切断面からは下の歯と舌が見えており、即死だった。死体はそのままうつ伏せに倒れた。「アイエエエアバッ!」チュン、と金属めいた音が鳴り、悲鳴を上げかけた出っ歯ヤクザの額が真横に切断され、脳味噌がこぼれて死んだ。 42
2011-12-12 17:05:57「な……え?」「え……」「ボス?」「え……」手下ヤクザ達が異変に気づき、下手人とおぼしきカソック男を凝視した。カソックの下から二本の長い鎖が伸び、床には円形のギザギザ刃を生やしたバズソーが二つ、ゴトリと転がった。刃は血塗れだ。「え……」「ザ……?」「ザッケンナコラー!」 43
2011-12-12 17:16:17手下達が一斉にチャカ・ガンを抜く!「アイエエエ!」悲鳴を上げ、失禁しながら床に伏せる客達!ただ一人、ソバ巻きフォークで口を塞がれた編笠男を除いては!彼は目を見開きカソック男を凝視!カソック男がヤクザ達を睨み渡す、「黙ってりゃ、つけあがりやがって」床のバズソー刃が回転を再開! 44
2011-12-12 17:22:30「スッゾオラー!」手下達が一斉にチャカ・ガンの引き金を引く!カソック男は横回転しながら一瞬にして身を沈め弾丸を回避!チュイイイイイ!鎖つきバズソーが宙を飛び、旋回!チュン!チュン!チュン!チュン!チュン!一瞬にして五人がバラバラに切断され、クズ肉となって床にぶちまけられる! 45
2011-12-12 17:28:25「ダ……ダッテメッコラー!?」残る手下ヤクザの一人が誰何するヤクザスラングを吐いた。カソック男はそちらを睨んだ。帽子が傾き、包帯が乱雑に巻きつけられた異相がわずかに覗く!「俺は!」打ち振る二つの鎖!「ジェノサイドだ!」襲いかかる回転刃!「イヤーッ!」「アバババ、アババーッ!」46
2011-12-12 17:45:41……ぶちまけられた料理や酒瓶、割れ砕けた皿、四肢、血飛沫……ヤクザは全員無残な死を遂げ、罪のない市民の死体も幾つか混じっていた。凄惨な血の池と化した店内を、ジェノサイドはピシャピシャと液体を蹴散らしながら歩く。カウンターに残されたズブロッカ瓶を掴み、一口呷ってから懐にしまう。47
2011-12-12 17:50:33「ヒ……」先程ジェノサイドにしなだれかかったオイランが、床で腰を抜かし、出口へ向かうジェノサイドを見上げた。ガタガタと震え、口を歪めて首を振る。サイバーサングラスには依然「危険な香りの男が好き」と表示されていたが、オイランは尻餅をついたまま後ずさるばかりだ。 48
2011-12-12 17:54:50「……」それを柱の陰から目で追うのは、先程の編笠男である。もぐもぐと口を動かし、ソバを咀嚼している。「アバッ」床に転がるヤクザの一人に息があり、腕を上げチャカ・ガンをジェノサイドの背中に定めようとする。編笠男は素早く近づき、瀕死ヤクザの脊髄にフォークを刺してカイシャクした。 49
2011-12-12 18:02:08