ドゥームズデイ・ディヴァイス #3
「……なあ、こういう下準備が回りくどいと思うかも知れねえが」五重塔の窓から外を見下ろすニンジャスレイヤーに、渋面を作ったディテクティヴが言葉をかける。「正面突破でどうにかなる相手じゃねえんだからな。もう分かってると思うがよ……」「承知している」ニンジャスレイヤーは言った。 24
2012-04-19 15:45:41「ああそうだ、今頃ナンシー=サンはフジサン上空あたりじゃねえか?」とディテクティヴ。「ちと緊張するぜ、直接の対面は」「今更、何を」ニンジャスレイヤーは苦笑した。彼はガイオン地表の街並みを見下ろす。壮麗な建築物の数々、地域ごとに厳しく高度を制限されたビルディング……。 25
2012-04-19 16:03:31……その目が見開かれる。彼のニンジャ視力は人の流れの乱れを捉えた。「ガンドー=サン」「何だ?」「まだ、かかるか」「ああ、悪いが、もう少しそこでそうやって観光しててくれよ……おい、何だってんだよ?」ニンジャスレイヤーはディテクティヴを促し、その方角を指差した。26
2012-04-19 16:06:42「どこだ。あれは」「あれか?やけに……なんだありゃ?」ディテクティヴは目を細め、覆面マフラーを目のすぐ下まで引き上げた。ニンジャ視力は彼のほうが達者だ。「あの建物はマグロアンドドラゴン社屋……煙?いや、オイオイオイ……」「ニンジャだな」「待てよ、待て、ありゃ多分ヤバイ」 27
2012-04-19 16:17:55「捨て置けぬ」ニンジャスレイヤーは言った。「オヌシのほうが私よりもはっきりと見えよう。あの……虐殺!」ディテクティヴは苦しげに言う「オイオイ、大事の前の小事ってな……」「ああ。そんな言葉もある」ニンジャスレイヤーはディテクティヴをまっすぐ見た。「そんな言葉もある」「ああ……」28
2012-04-19 16:22:20ディテクティヴは額の黒い痕に掌をあてた。「ああ……ああ。仕方ねえ。大事の前の小事。行けよ。ありゃあ……『捨て置け』ってわけにはよ……」「そうだ」ニンジャスレイヤーは頷いた。「ここは任せる」「うまくやれよ」とディテクティヴ。ニンジャスレイヤーの返事は無い。窓から飛んだのだ。 29
2012-04-19 16:30:48……(((フジキド)))色つきの風めいて建物から建物へ跳び移るニンジャスレイヤーは、ニューロンの奥底の身じろぎを感ずる。ナラク!(((またもキンボシ!この運気、まさしくワシの度量の賜物よのう)))「あのジツは何だ?」(((グググ……ダイコク・ニンジャ……))) 30
2012-04-19 16:45:49「ダイコク?」(((おお、おお、涎が止まらぬわ……フジキド、他にもおるぞ。あからさまにソウルを垂れ流す下郎めが……あれは、あれはアカラ・ニンジャ!キンボシ!所詮この堕落時代のカラテなどたかが知れておる!ジツの持ち腐れぞ!二匹とも必ず狩り仕留めよ!)))「ジツの説明をせよ!」 31
2012-04-19 16:56:05(((ダイコク・ニンジャは旧いニンジャ……ケイトー・ニンジャが彼奴を罠に嵌め、熱した鉛のセントーに落として滅ぼした。奴のジツはアンコクトン……大地の精髄を使役する……グググ……光ささぬ闇……ググググ……アカラ・ニンジャは)))……ニンジャスレイヤーは着地した。死の只中に。 32
2012-04-19 17:18:18「おう、おう、おう」デスドレインが猫背になり、前方の人だかりに手をかざした。「なンか、おっぱじまってンの?」「そのようだな」「そのようだな、じゃねェーッての!」デスドレインは首を曲げてランペイジを見た。「つまンねぇじゃねえかよ、これじゃあよ」「……やる、だけだ」 35
2012-04-19 17:43:06「やる、か」デスドレインが恍惚じみて笑った。「いいじゃねえか、いいじゃねえか。じゃあイイや。お前はどうする!アズール!」少女は無感情な目でデスドレインを見返す。逃げる怖れが無い事がはっきりしたので、今はもう首輪はつけていない。「お前、留守番か?来るかァ?」「行く」「へへへ!」36
2012-04-19 17:48:31アッパーガイオンの街並みに、この三人は異様に過ぎる。フードを目深に被った痩せの男、鉄輪と革のベルトが縦横に交差する拘束着めいた服。隣に立つのは金属の覆面で顔全面を覆い、筋肉質の上半身をさらけ出した男。腕はサイバネティクス……狂ったサイズの。そして少女。袖を毟り取ったドレス。37
2012-04-19 17:56:35「オゲェーッ」デスドレインが汚らしくゲップした。人だかりの先には目的のマグロアンドドラゴン社屋ビルだ。三人は排水施設を遡るようにして、アッパーガイオンへ出た。この地域にはランペイジの土地勘がある。すぐに、到着した。「タリィなァー、あれ」やがて銃声。そして窓ガラスが割れる音。 38
2012-04-19 18:14:02「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」人だかりがてんでに悲鳴をあげた。「御用!御用!」三人の前方の脇道からケビーシ・ワゴンが現れ、ハッチバックを開いてケビーシ達を吐き出した。彼らは手に手に武装を構え、人だかりを押しのけるように社屋ビルへ向かって行く。デスドレインは欠伸した。 39
2012-04-19 18:20:02「御用!御用!」「イヤーッ!」KRAAAASH!デスドレインは振り返り、腹を抱えて爆笑した。「バハハハハハ!」ランペイジが後方から走ってきた別のケビーシ・ワゴンに、いきなり振り向きざまのパンチを叩き込んだのだ。圧縮されたスクラップが軋みながら滑って行く! 40
2012-04-19 18:29:20乗り手は悲鳴をあげる間もなく全員死亡!人だかりの何人かがたまたま振り向いてそれを目撃し、悲鳴を上げて失禁した。「アイエエエエエ!?」「やるかァ!」デスドレインが両手を前に突き出す。人だかりが空へ跳ね飛んだ。黒い液体が間欠泉めいて市民の足元から噴き上がったのだ。41
2012-04-19 18:33:59「アバーッ!アババーッ!?」宙へ飛ばされた十人弱はそのまま触手めいて地面から生えた暗黒物質に絡め取られ、もがき苦しんだ。最前列で社屋側に盾を構えていたケビーシ・ガード達が悲鳴に後方を振り返り、呆然とした。「……ナンデ?」「何だ……?」「上だ、上!」とデスドレイン。 42
2012-04-19 18:38:43ナムサン……それは暗黒の植物めいて、身動きの取れぬ市民の口をこじ開け、体内へ潜り込み、次々に内部から破裂させた!「「「アバーッ!」」」ケビーシ達の頭上から血と肉が降り注ぐ!「イヤーッ!」KRAAAASHHH!ランペイジが飛び出し、前方にあったもう一台のワゴンを殴る!圧縮粉砕!43
2012-04-19 18:44:20ワゴンは潰れながらケビーシ達のもとへ吹き飛び、質量によって彼らを圧殺!「「「アバーッ!?」」」ナムアミダブツ!状況を理解できぬまま散り散りに逃げようとする人々めがけ、頭上の暗黒物質群が重々しい殺戮のフートンと化して覆いかぶさる!「「「アバーッ!?」」」 44
2012-04-19 18:49:04「たまんねえ!たまんなくなってきたぜ!ヘヘヘハハハハ!」デスドレインが哄笑する。「女ァ!女いねえの?女を犯して殺して犯してェよ!生きてる女いねェの?」彼は死体を蹴飛ばし、フラフラとカフェテリアの中へ歩き進む。ランペイジをふと見た。「なァ、これでイイじゃねえか!やっぱりよォ?」45
2012-04-19 18:53:46鉄仮面がデスドレインを向いた。このストリートに彼ら以外、生きている者が無い。一瞬の静寂。ランペイジのくぐもった声が答える。「行っていろ。先に」隣の建物に向き直る。「ヘッ!壊したがりかァ?つれねえンだ!へへへ!来いアズール!」少女が潰れたスニーカーで死体を踏み分け、駆けてくる。46
2012-04-19 19:07:23「イヤーッ!」二人が入ってゆくマグロアンドドラゴン社屋を横目に、ランペイジは赤レンガ作りの銀行建物の角を殴りつけた。KRAAAASH!さらに一撃。KRAAAASH!三階の窓のブラインドが開き、振動に慌てた市民が下を見下ろし、目を剥いて、どうやらガラス越しに悲鳴を上げた様子だ。47
2012-04-19 19:14:49「イヤーッ!」KRAAAAAASH!決定的な崩壊!衝撃が建物を這い登り、土煙と共に沈み始める!「ア、アイエエエエ!?」出口近くにいたとおぼしき中年夫婦が路上へ飛び出そうとする。「イヤーッ!」ランペイジは立ちはだかり、拳を叩き込んだ。悲鳴すら無く、二人は消し飛んだ。 48
2012-04-19 19:21:27