被曝によるがん死亡リスクの増加についてもうちょっと考えてみた

以前リーフレインさんがまとめて下さったまとめhttp://togetter.com/li/321967 のコメントにも書きましたが、ここでの考えたことでどーも自分の中でも不明確な部分があったので、その間違えが何であったかを考え、更にもう少し先まで考えてみました。  で、MAKIRIN1230氏のブログが修正(というか改竄)後も相変わらず間違っているということが別の形で示されたので、それについてもあわせてまとめました。 続きを読む
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地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

これは、被曝群のある死因によるハザード関数をh1(t)、非被曝群のある死因によるハザード関数をh0(t)として、REID=∫(h1(t|d,e)ーh0(t))S(t|d,e)dt (積分区間は被曝後の潜伏期間後から∞まで、dは被曝線量、eは被曝時年齢)で表されます。

2012-08-07 21:56:30
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

一方、ELR(過剰生涯リスク)はELR=∫h1(t|d,e)S(t|d,e)dt‐∫h0(t)S(t)dtで表されます。少しREIDと異なっています。前者が被曝群における被曝に起因する死亡の比率であるに対し、後者は被曝群における死亡率と、非被曝群における死亡率の差です。

2012-08-07 21:57:21
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

ハザード関数とは、ある瞬間の死亡率で、ある時点での累積死亡率F(t)を時間で微分したものをその時の生存率(1-累積死亡率)で割ったものになります。なお、人年法に基づくLSS研究におけるERR(やEAR)とハザード関数の導出では打ち切りデータの方法が少し違います。

2012-08-07 21:57:40
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

で、当然S(t|d,e)=S(t)は自明ではなく、もし、h1(t|d,e)ーh0(t)>0であるならS(t|d,e)の方がより早く減少していくことになります。

2012-08-07 21:58:20
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

ところが、REIDやELRを推定するためには全ての死因のベースラインでのハザード関数に加え、それらの被曝による増加分を推定しなければいけないこと、更にそれらが生存率にも影響がかかってくるので現時点のデータではよい推定ができないという問題がありそうです。

2012-08-07 21:59:09
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

そのため、とりあえず推定が容易なLARで代用しよう、というのが真相ではないかな、と考えられます。なお、LSS研究が最終的に完了して、充分な疫学データが揃えばそこからREIDもELRも実測値から比較的容易に推定可能になります。尤も数十年後の話ですが。

2012-08-07 22:01:20
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

これらの指標だけでは、生涯でみたときにリスクの総和は全て1になってしまう(そりゃそうです)ので、それぞれのハザード関数の値が被曝により増大していたとしても、他の死因との兼ね合いで必ずしも値が高くなるとは限りません。その意味でリスク評価としては不完全になる場合も考えられます。

2012-08-07 22:02:20
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

ですので、ここで平均余命損失LLE(d,e)=∫S(t)dt-∫S(t|d,e)dtを導き、被曝によりどれくらいの寿命損失が発生しているかを見積もることになります。

2012-08-07 22:02:37
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

これは、被曝群、非被曝群の生存率曲線の曲線下面積の差になり、被曝群でこの面積が小さいということは、被曝群での全人口の積算寿命が小さいということ、つまり被曝群での平均寿命の短縮を評価することが出来ます。

2012-08-07 22:03:00
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

気をつけなければいけないのは、人口は非負整数値で不連続値であるのに対して、S(t)は連続関数を仮定しているので、S(t)→0のあたりの扱いは注意が必要。生存率曲線の右端の部分は(特にハザード関数の推定で誤差が増大するので)なるべくなら扱わないのが望ましいことは生存率解析では常識。

2012-08-07 22:06:10
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

そもそも、なぜがん統計の死亡データが85歳以上はひとまとめになっているか、といえば、死亡者の絶対数が(人口減により)誤差が大きくなるために、正確なハザード関数が得られなくなるからです。

2012-08-07 22:06:25
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

ところで、私の描いたグラフhttp://t.co/hQQ8peQ が被曝群では全員が非被曝群よりも早く死ぬというようにMAKIRIN氏が誤解しているというのもなかなかに意味不明。

2012-08-07 22:08:22
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地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

彼には集団のグラフから個人の生死の挙動がわかるのでしょうか?だとすれば幻視ですので、医師の受診をお勧めします。 http://t.co/wPYmAuS http://t.co/KnOlgWF

2012-08-07 22:08:35
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

「グラフの右端の形がどうのこうの」といった批判は全くの的外れです。で、「生存曲線の傾きが0に近づくことが大事」というのも全くの的外れ。批判をするために粗探しをしているのか、それとも本当にわかっていないかは知りませんが。

2012-08-07 22:09:04
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

こういったタイプの関数は対数グラフで見ることが大事で、そう見ると生存率の減少度合いは加齢と共に高まっていくということがわかります(ちなみに放射性物質の場合は対数グラフのときに直線になります)。大事なのはこの点です。http://t.co/2lnZoWm

2012-08-07 22:09:20
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地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

λ>1のワイブル分布とほぼ同じと考えられます。因みに放射性物質の崩壊はワイブル分布の特殊な状況(λ=1、指数分布)のハザード関数になります。

2012-08-07 22:11:38

↑おっと、申し訳ございません、初歩的ミスしていました。
正しくは「これは、p>1のワイブル分布」です。
ワイブル分布は(マニアックですが…)、ハザード関数h(t)が
h(t)=λp{(λt)^(p-1)}
という式で表されるような分布です。
で、放射性物質の崩壊については(p=1、指数分布)でした。

地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

MAKIRIN氏のの論法に従えば、半減期の異なる放射性物質の量も、最初はベクレル数が同じで時間と共に一度差が開くが、最終的に同じになるという論法が成立することになりますね。

2012-08-07 22:11:50
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

対数で見るということの重要性が全くわかっていないことを示したツイート、他にも多数ありますが二つばかり拾っておきました。 http://t.co/4NpIdhE http://t.co/oKDePVs

2012-08-07 22:12:09
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

ちなみに、先ほどの白玉、赤玉、青玉の個数で考えると、REID(またはその近似値としてのLAR) は箱中の青玉の個数の比率、つまり100/1000=10%、ELRは箱中の赤玉+青玉の個数の比率(37%)と最初の赤玉の個数の比率(30%)との差になります。

2012-08-07 22:12:34
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

つまり、もしきちんとこの定義を理解できれば、生涯のがん死亡リスクの値はもともとのブログの記載http://t.co/v1KA0wn でもなければその修正(というか改竄)版であるhttp://t.co/Nnn33Zvでもないことはわかります。

2012-08-07 22:14:24
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

ブログの記載「100mSvで生涯のがん死亡のリスクが約0.5%上乗せになるという説明をしたいのであれば、たとえばICRP publ.103 の名目リスクに基づいて説明すべきです。」も当然間違いです。

2012-08-07 22:15:02
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

なぜなら、ICRPの名目リスク係数は彼のまとめにも書いてある通り、LARに基づき推定されたわけですから。実際の被曝群でのがん死亡率はELRで示された値分上乗せされることになります。リスクの総和が1になるということがいかなる意味かを考えることが大事なわけです。

2012-08-07 22:15:20
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

例えば、もう一度先ほどの赤玉、白玉、青玉の例で考えてみましょう。例えば、がん(赤玉)だけでなくがん以外の疾患(白玉)の死亡リスクも10%上乗せされる、という場合、がんとがん以外の最終の死亡率はどうなるでしょう。

2012-08-08 22:57:31
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

この場合は、1000個から200個無作為に玉を抜き、100個の青玉(被曝によるがん死)、100個の黒玉(被曝によるがん以外の死)を加えるということになります。このとき、赤+青は300*0.8+100=340個、白+黒は660個になります。

2012-08-08 22:57:46