四一郎さんの「0で割る話」

何か面白くて、残しておきたくなったのでまとめました。 (24番外)を読んで、自分は「いろいろ知っていない」人間なのだなあと(^^; 0って奥が深くて怖いっすね。
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四一郎 @yon_ichiro

(1)さて、数日前TL上で話題になった「0で割る話」、について少々書いてみます。この問題はずっと昔からあると思っています。そして、純粋に算数・数学の枠に収まる問題ではないようにも感じています。

2012-11-27 23:45:13
四一郎 @yon_ichiro

(2)まずは私の妻の体験談から。小学生のころ、やはり先生に「2÷0は0だ」と言われたのだそうです。そこで妻は反論します。「2÷1=2、2÷0.1=20、2÷0.01=200、2÷0.001=2000、……と、割る数が0に近づくにつれて割り算の結果は大きくなっていく、」(続く)

2012-11-27 23:47:04
四一郎 @yon_ichiro

(3)「なのに2÷0がいきなり0ではおかしいと思う。」あとでも述べますが、演算の連続性を欲すれば当然こういう考えになりますし、実際、演算の連続性は欲しいです。で、その先生の答えが「でも、0だと決まっているんだ。」もうどこからどう突っ込んでいいかわかりませんが。

2012-11-27 23:48:33
四一郎 @yon_ichiro

(4)妻にこの話を聞いたのは10年くらい前ですが、それから私は気にし続けていて、折りあるごとに中学生や高校生に、小学校で「0で割ること」をどう教わったかを訊いています。結果は「割れないと言われた」「0だと言われた」「そんな話は聞いたことがない」「忘れた」が拮抗しています。

2012-11-27 23:51:10
四一郎 @yon_ichiro

(5)で、長年いろいろな人に話を聞いているうちに、私はこの「0で割る話」には、純粋な数学的誤解のほかに、学校空間での教員と児童の関係の問題と、「答えがない」「考えない」と言うことに対する誤解がある、という考えになってきました。

2012-11-27 23:53:50
四一郎 @yon_ichiro

(6)学校空間での教員と児童(生徒)の関係性については、誰しも一家言ありますよね。ここでは省略。そういえば小6のころに「カンペキってのは壁のようにきれいで整っていることです」と先生に言われ、『故事成語事典』を読んだばかりの四一郎少年は戦いましたが、もちろん負けました。

2012-11-27 23:56:54
四一郎 @yon_ichiro

(7)で、次の「答えがない」「考えない」ということに対する誤解の話。いきなりですが、詰将棋というパズルがあります。互いに最善を尽くした場合、たった一通りだけ一方が勝ちになる手順がある、それを見つけよ、そして、それが確かに勝ちであることと、それ以外に勝ち手順がないことを(続く)

2012-11-27 23:59:15
四一郎 @yon_ichiro

(8)証明せよ、というパズルで、何百年も前からすばらしい作品が多数作られています。で、そんな中にも、パズルとして成立していないもの、失敗作がどうしてもあるわけですが、その一つが「不詰」、一方が勝ちになる手順がまったく存在しない、という場合です。

2012-11-28 00:00:54
四一郎 @yon_ichiro

(9)「不詰」というのは、一方がどんなに手段を尽くしても、他方に正しく応対されると勝てない、ということですが、この証明はなかなか厄介です。人間業とは思えないような妙防があったりするからで、これを発見しないと「不詰」の証明はできない。でも、そこはがんばって証明するわけです。

2012-11-28 00:03:57
四一郎 @yon_ichiro

(10)で、その「不詰」の証明がされた詰将棋、に対して「でも詰む手順があるかもしれないじゃん」とか「がんばりが足りないんじゃないの?」とか言うのっておかしいですよね。あるいは「でも銀が横に行けたら詰む」とかも変ですよね。しかし、これと似たことが数学に対して言われることがあります。

2012-11-28 00:05:57
四一郎 @yon_ichiro

(11)これは本当は「0で割る話」とはちょっと違うんですが、関連性から先に話しますが、数学には「…することは不可能である」というタイプの定理がいくつもあります。有名なのは「定規とコンパスだけでは角の三等分はできない」とか「5次以上の方程式に解の公式は存在しない」とか。

2012-11-28 00:07:48
四一郎 @yon_ichiro

(11番外)気がさすので、さっきの命題を正確に。「定規とコンパスを、作図のルールに従って用いるのみでは、一般に与えられた角を三等分することはできない」、「加減乗除と累乗根演算のみを許す限り、n≧5のときは、複素係数n次方程式に対し、一般的な解の公式は存在しない」

2012-11-28 00:11:24
四一郎 @yon_ichiro

(12)で、このタイプの定理を説明すると、…いや私自身はそういう目にあったことはなくて伝聞なんですが…「いつかできるかもしれないじゃないか」「それはがんばりが足らないんだ、あきらめてどうする!」「定規とコンパス以外の器具を使えば、ほらできるよ!」みたいなことが言われるのです。

2012-11-28 00:13:25
四一郎 @yon_ichiro

(13)数学でいう「できない」とは、「これまで誰も成功したことがない」という意味ではありません。「どんな手段を尽くしてもできない、ということを論理的に証明した」ということです。まさに、詰将棋の「不詰」の証明と同じことです。「できない」はあきらめているのではなくて、(続く)

2012-11-28 00:15:32
四一郎 @yon_ichiro

(14)極めて積極的で誇りに満ちた主張なのです。だから、(12)みたいなことを言われるのは完全にお門違い(でもそうはっきり言うといろいろ怒られるのでやんわりと)(でもそんなの無理だけどー)。野崎昭弘先生の名著『不完全性定理』は、不可能を証明しうる人間の叡智への賛歌でもあります。

2012-11-28 00:18:54
四一郎 @yon_ichiro

(15)さて、やっと「0で割る話」に戻ります。数学的見地から言うと、この話の答えは「割り算 a÷b は、b=0 のときは、定義しない」ということになります。この、『定義しない』てのもわかりにくいんだろうなあ。『考えない』ということもあるんですが余計わかりにくいのかもしれない。

2012-11-28 00:24:40
四一郎 @yon_ichiro

(16)ひらたくいえば、「0で割るということは数学の理論体系の中ではやりません」、もっと思い切って言えば「0で割ってはいけません」ということ。しかし、禁止されるとムカつきますよね。どうして、って訊きたくなりますよね。……その理由はあとにしまして、(つづく)

2012-11-28 00:27:10
四一郎 @yon_ichiro

(17)この「0で割った答えを決めない」「0で割った答えと言うものはない」というのが、誤解を招いていると思うんです。「決めないって、決めればいいじゃん」「答えがないって、問題なんだから答えはあるはずだろ」「もしかして答え知らないんじゃない?」など、現場ではきっといろいろあるはず。

2012-11-28 00:29:46
四一郎 @yon_ichiro

(18)あとで述べますが、数学で「0で割った答えを定義しない」ことには、理論全体を考慮した積極的な理由があるのです。しかしそれをよくわかっていないために、自信を持って「定めない」と言えなかったり、「あるはず」と勝手に思い込んでいる「答え」を「0」ということにしてしまうのでは、と。

2012-11-28 00:32:50
四一郎 @yon_ichiro

(19)「答えがない」ということを主張するのが大変だ、ということは、さっき言った「不詰の詰将棋」を「不詰」だと主張することの大変さ、と同じだと思います。詰まなさそう、ではだめで、すべての手順を読み切って断言しなければならない。それなりに勉強しなければできないことです。

2012-11-28 00:36:19
四一郎 @yon_ichiro

(20)もっとも、「0で割ることは定義しない」ことの数学的理由はそんなに難しくありません。これはすでにあちこちで言われているとおりです。一口に割り算と言っても、3つくらいの意味がありますが、どこから考えても「0で割った結果ってのは決めようがないなあ」と初等的に思えます。

2012-11-28 00:38:05
四一郎 @yon_ichiro

(21)「あ」2÷0とは、2kgの小麦粉を0人で等分する、ということです。しかし、なにしろ0人ですからねえ。「1人あたりの小麦粉の量」っていうのがないですね。ですから、2÷0は定められません。

2012-11-28 00:39:33
四一郎 @yon_ichiro

(22)「い」2÷0とは、2kgの小麦粉を0kgずつの小袋に小分けする、ということです。それでいくつ袋が必要か、ということですが、なにしろ0kgですから、いくら袋を用意しても2kgの小麦粉がなくなる日は絶対にやってきません。ですから、2÷0は定められません。

2012-11-28 00:41:08
四一郎 @yon_ichiro

(23)「う」2÷0とは、「0を何倍したら2になりますか?」というクイズの答えです。しかし、0って何と掛け合わせても0が答えになるんですよね。2には決してなりません。つまり、2÷0の答えとして資格を持つ数は、存在しません。

2012-11-28 00:42:55
四一郎 @yon_ichiro

(24)ところで、この話をややこしくする要因の一つに「無限」とか「無限大」とか言われるものがあります。2÷0=無限大、みたいな。しかし、これは「無限大などという数はない」「無限大という概念が存在するとしても、それは数といえるものではない」というのが答えになります。

2012-11-28 00:45:22