四一郎さんの「0で割る話」の補足

前段のお話「四一郎さんの『0で割る話』」 http://togetter.com/li/414222 の(24番外)に出てきた「実数を一点コンパクト化して~」等のお話。
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四一郎 @yon_ichiro

(20)で、とにかく数の名前はつけられないのははっきりしているので、まあ何でもいいわけですよ。『チーム永世竜王』でもいいんだけど(団長はすでに決定)、あんまり数学と関係ないのはねえ。で、あえて数学的に妥当な名前を探すと……うーん……やっぱり『チーム∞』ってことになりますか。

2012-12-02 16:44:59
四一郎 @yon_ichiro

(21)しかし、このチーム名には注釈が必要です。確かに、x=0の近所には『チーム10000』『チーム1億』『チーム100兆』……などがひしめいていて、というかどんどん迫ってきていて、でも絶対x=0のラインには入ってこない。そんな巨大数チームの究極の姿として『チーム∞』はよさそう?

2012-12-02 16:46:55
四一郎 @yon_ichiro

(22)ところがですね、x=0の近くには、『チーム‐10000』、『チーム‐100億』、『チーム‐50京』とか、そんなのもいるわけです。するとその究極の姿としては『チーム‐∞』? …えー…『チーム∞』とくらべてずいぶんネガティヴな感じ……っていうか、この二つぜんぜん違いそうです。

2012-12-02 16:53:36
四一郎 @yon_ichiro

(易しく書こうとしてかえってハマッテイルかも……でも進む。)

2012-12-02 16:59:18
四一郎 @yon_ichiro

(23)しかし、地理的に見ると、『チーム1000兆』と『チーム‐1載』はものすごく近いところにいるといっていいでしょうね。そのはざまに『チーム∞』だか『チーム‐∞』はある。この世界では、プラスのすごく大きい数と、マイナスのすごく小さい数は、きわめて近いということになる……。

2012-12-02 17:03:01
四一郎 @yon_ichiro

(24)そこで、数学者はとんでもない乱暴な解決を思いつきました(このケースで、ですよ。ほかの場面ではまた違うことを言うでしょう)。曰く、プラスでもマイナスでも、絶対値(符号ぬきの部分)がちょーでかけりゃおんなじようなもんじゃん。正でも負でも統合して、チーム名は『チーム∞』で!

2012-12-02 17:05:58
四一郎 @yon_ichiro

(25)もう少し丁寧に言うと、本来、プラスでどんどん絶対値が大きくなっていくということのシンボルとして+∞が、マイナスでどんどん絶対値が大きくなっていくことのシンボルとして-∞があると、まず思います。そして、この二つが今の文脈ではおんなじようなもんだと思って、∞に統合するのです。

2012-12-02 17:08:30
四一郎 @yon_ichiro

(26)いろいろ言ってきましたが、これで実質的には、われわれがもともとよく知っていた数(本名は〈実数 real numbers〉)アンド、謎のシンボル∞でもって、平面上のすべての点(後に注あり)を『チームa』に割り振ることができました。……いや、(0,0)だけ取り残されているよ?

2012-12-02 17:11:10
四一郎 @yon_ichiro

(ええと、これで実数の一点コンパクト化はできたんだが、ここからどう話を続ければいいのかな……いかんこれではとりあえず歩を突き捨てて普通に同歩と取られて長考するおにいちゃんになってしまう……)

2012-12-02 17:22:38
四一郎 @yon_ichiro

(27)まあ、(0,0)だけはしかたがないんですね。そもそもチームってのが(0,0)を通る直線たちになっているわけで、(0,0)自身はすべてのチームに所属しているということ。特定の名前をつけるわけにはいきませんね。

2012-12-02 17:16:07
四一郎 @yon_ichiro

(28)さて、これで「普通の数&∞」という世界を作ったことになるわけですが、この世界(集合)をここではR^と名づけます。このR^、普通の数の世界にたった一つメンバーを付け加えただけですが、もう、私たちの日頃の計算はできません。3とか5とかも、もはや数ではなくて、チーム名なので。

2012-12-02 17:29:02
四一郎 @yon_ichiro

(29)しかし、この世界は図形的な〈形〉は持っています。まるいんです。『チーム∞』も認めれば、『チームa』がaの値が変化して行くにつれてその場所をくるくる回転して変えていき、180度まわったところで同じチームに戻ってくるのがわかります。

2012-12-02 17:32:01
四一郎 @yon_ichiro

(30)たとえば、R^の中でa=0から値を変えていくと、0→10→100→…1000億とか→…→∞→…→-1兆→…→-100→-10→0、みたいな感じで、くるりと回って戻ってくる。これを数学では、「R^は円と同相である」といいます。おんなじ形だね、ってことです。

2012-12-02 17:36:00
四一郎 @yon_ichiro

(31)さんざんいろいろ考えた挙句、円なんていうファミリアなものが出てきてしまい、懐かしいと思う人もいる一方で、苦労して損したと思う人もいるでしょう。しかしこれは、実数で、1次元でやったからです。複素数を使ったり、次元を高くしたりすると、普通には思いつけないような愉快な

2012-12-02 17:38:12
四一郎 @yon_ichiro

(32)図形が出来上がります。そういう図形のことを一般に、射影空間といいます。数学理論の実にいろいろなところで出てくる対象です。いま作った「2次元平面上の(0,0)を通る直線たちをチームと思ったときのチーム名の集まり」は、実1次元射影空間、または実射影直線という正式名があります。

2012-12-02 17:40:13
四一郎 @yon_ichiro

(33)射影空間はさまざまな数学理論の舞台になるのですが、なぜ数学者が愛用するかというと、そもそもの材料が数だからです。数は計算ができるし、近いとか遠いとかもわかりやすい。もちろん、数としてはヘンなものを混ぜちゃったのでそのままでの計算はできませんが、お里に遡って研究できる。

2012-12-02 17:42:23
四一郎 @yon_ichiro

(34)……とまあ、このくらいあれこれ考えると、「0で割ったときも答えがほしいよね」「答えないなんて負けたみたいで夢がないよ」「0で割ったら無限大なんじゃないの?」といったお声に、数学的に対応できるのではないかと、私は考えるわけです。

2012-12-02 17:45:04
四一郎 @yon_ichiro

(35)あ、ご存知の方はご存知のとおり、本当は実射影直線を作るためだけならば「割り算」を実行する必要はないです。y÷xの「値」ではなくて、x:yという「比」でチームわけをすればよい。これだと『チーム∞』はたとえば『チーム0:1』でOK.……『チーム0:800』でもいいわけですが。

2012-12-02 17:48:09
四一郎 @yon_ichiro

(36)まとめると「0でない実数cに対してc÷0を考えることは、普通の数の意味ではできない。しかしそれを考えて普通の数の世界に付け加えることはできて、それで円と同じような世界ができる。ただし、普通の意味で計算はできなくなっている。」といったところでしょうか。はい。

2012-12-02 17:57:13
四一郎 @yon_ichiro

(37)なお、ここでは+∞と-∞をいっしょくたにして考えましたが、もちろん、そう思わず区別する場合も多いです。関数の値の動向を調べたりするときとか。そのときにやりたいことに合わせて、考え方を変えて、世界のフレームをそのつど一番便利なものにするんですね、数学。

2012-12-02 18:01:30
四一郎 @yon_ichiro

(38)中学や高校で勉強中の人向けに言うと、直線の方程式を「y=ax+bの場合」と「x=pの場合」に分ける面倒くささや、tan のグラフが切れ切れで上方かなたへ消えたと思っていたら下方からまた現れる奇妙さ、などが、今までの話と関係あることがわかると思います。

2012-12-02 18:06:05
四一郎 @yon_ichiro

(39)最近知り合いに「2÷(とても0に近い正数)は絶対値の大きい正数、2÷(とても0に近い負数)は絶対値の大きい負数、なんだから平均を取って2÷0=0でいいのでは?」と言われました。平均を取る、というのは実はそんなにありえない発想ではありませんが、それでも答え0は

2012-12-02 18:09:53
四一郎 @yon_ichiro

(40)よろしくない。前回ツイートした意味においてもまずいですが、今回の話でも、『チーム0』は『チーム∞』から一番遠いところにいて、到底似ているとはいえない。今の文脈では、幾何学的に「+∞と-∞を足して2で割る」より「+∞とー∞はいっしょくたにする」方が、処置としていい感じです。

2012-12-02 18:14:07
四一郎 @yon_ichiro

(41)あと、∞を数として認められない、ということを説明するだけならば簡単です。数の世界であれば「a+b=a+cならばb=cだ」って推論したいですよね。ところで∞+3とか∞+5とかって何でしょう。∞を「それ以上ない大きな数」っぽく考えると、どちらの答えも∞、としかいいようがない。

2012-12-02 18:19:42
四一郎 @yon_ichiro

(42)続き。ということは、∞+3=∞+5、としかいいようがない。それでこれが数の世界のことだとすると、3=5って結論せざるを得ません。それは困る。というわけで、∞は普通の意味では数ではない。ここで「いや、リーマン球面上の一次分数変換では」とか言い出す人はただのプロなので無視。

2012-12-02 18:23:28