代数学と幾何学が融合できるのは何かしら公理があるからか?

数学の専門家、@yon_ichiro さんによる連続ツィート。。代数学と幾何学を橋渡しする公理が存在するのか?という問いをうけてのもの。ちょっと話が広すぎたためか深い突っ込みに欠けるかも。 ポイントは・・・うーん、今回は絞りにくいな。「公理って、いわばゲームのルールです」「代数っていうのは演算の構造を考える学問」「幾何っていうのは空間の構造を考える学問」「代数と幾何をつなぐ公理は『あたりまえ』にみえるようなもの」といったところかなあ。
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四一郎 @yon_ichiro

(22)幾何学(geometry)とは、図形そのものだけではなく、[その背後にある/それらが棲んでいる]世界、つまり平面とか空間とかを研究する学問です。これも本当はいいすぎだけどまあいいや。一つ一つの図形の性質は、それらが棲む空間(space)自体の性質の反映だ、と考えるのです。

2012-12-29 00:57:52
四一郎 @yon_ichiro

(23)中学校で習う「三角形の合同定理」の一つ、「AB=DE, AC=DF, ∠A=∠D, ならば、△ABCと△DEFは合同だ」を考えます。これ自体は図をいくつかかけば「そりゃそうだ」と納得してもらえると思います。実際、ユークリッド幾何学では、これは(ほぼ)公理といってよいです。

2012-12-29 01:02:06
四一郎 @yon_ichiro

(24)しかし、これを当たり前だと思うのは、三角形を書くその紙(大地?)がのっぺりと平坦にどこまでも続くと思っているからですよね? 破れてたり凹凸があったりどこかでちょん切れてたりしないから、二辺とその間の角が等しいだけでも三角形どうしが合同だと思えるんですよね?

2012-12-29 01:05:01
四一郎 @yon_ichiro

(25)つまり、この「三角形の合同定理」あるいは「二辺夾角に関する公理」は、三角形のことを語っていながら、同時に、三角形が置かれている平面の性質を語っているのです。今考えている平面は、どこまで遠くへ行ってもその地勢が全然変わらないよ、と。

2012-12-29 01:07:40
四一郎 @yon_ichiro

(今日、すべってるかなぼく……)

2012-12-29 01:08:03
四一郎 @yon_ichiro

(26)ともあれ、幾何学とは、空間の構造の研究のことだと思っていただければいいです。構造とは、まっすぐか曲がっているか、つながっているか切れているか、滑らかかとがっているか、次元はいくらか、など……もちろん、長いか短いか、面積や体積など、も研究対象です。

2012-12-29 01:10:59
四一郎 @yon_ichiro

(27)さて、それではようやく本題に入ります。「代数」と「幾何」をつなげるために、何か公理が設定されるのか? というご質問だったと思うのですが、答えだけなら「YES」で終わりです。数学である以上、何を言うにしても公理に立脚しているはずなので、当然いたるところに公理があります。

2012-12-29 01:13:07
四一郎 @yon_ichiro

(28)ただ、演算のことを考えている「代数」と、図形の性質を研究している「幾何」……本当は、演算の構造と空間の構造を、といいたいところですが……がどうやってつながっているのか、をある程度説明しないと、どんな公理が生きているのかもわからいないですよね。以下、拙い筆をふるってみます。

2012-12-29 01:15:57
四一郎 @yon_ichiro

(29)まずは「三平方の定理(ピタゴラスの定理)」。直角三角形の斜辺の長さを c, ほかの二辺の長さを a, b とすると c^2=a^2+b^2 が成り立つ。あ、c^2 とは c の2乗、c×c のことです。これはもともと、3つの正方形の面積についての定理ですが、

2012-12-29 01:24:12
四一郎 @yon_ichiro

(30)こうやって c^2=a^2+b^2 式に書くと、もう正方形のことは忘れてよくて、代数的な式になっています。そしてこれを元に、座標がわかっている2点の間の距離が計算できるのでした。こうして、2点間の距離という幾何学的対象を、代数の手法を用いて求めることができます。

2012-12-29 01:26:10
四一郎 @yon_ichiro

(30補足)「長さって言ってる時点ですでに幾何に代数を援用してるじゃないか」「そもそも面積をタテ×ヨコで定義している時点で代数じゃん」……まことにその通りでございます。今回の話、一般の人々向けに語るのが本当にむつかしく、あちこち無茶をしておりますがご容赦を。

2012-12-29 01:28:32
四一郎 @yon_ichiro

(31)次に「三大作図不可能問題」。定規とコンパスだけではできないこと3つ。立方体を立方体のままで体積2倍にせよ。与えられた角を三等分せよ。正方形と同じ面積の円を作れ。これ、3つ目だけ異質なんでそれは除いて、前の2つ「立方倍積問題」「角の三等分問題」のことを話します。

2012-12-29 01:33:24
四一郎 @yon_ichiro

(32)この2つの問題を考えるには、まず「定規とコンパスだけでできることは結局何か?」ということを考えつくすんです。するとそれは結局「長さ x, y の2線分が与えられたとき、長さ x+y, x-y, xy, x/y, √x の線分が作れる」という、代数的な特徴づけになります。

2012-12-29 01:35:23
齋藤 晋(Susumu SAITO) @ssm3110

@yon_ichiro x/y, √xの線分の作り方を教えてもらえますか?

2012-12-29 01:52:56
四一郎 @yon_ichiro

@ssm3110 一言で言うと「三角形の相似を使います」。たとえば、AB=1+x の線分AB上に AC=1 となる点 C をとり、ABを直径とする円をかき、Cを通りABに垂直な直線と円との交点をD,Eとする。するとCD=√x になっています。x/y も似たような感じでいけるはず。

2012-12-29 02:18:35
四一郎 @yon_ichiro

(33)一方、立方倍積問題は「2の3乗根を作図できるか?」、角の三等分は「与えられた3次方程式を解けるか?」という問題に帰着します。で、これが両方とも、加減乗除&平方根ではできない。なぜできないか、というと、これは「体の拡大」という代数学の理論をちょっとだけ使うのです。

2012-12-29 01:38:27
四一郎 @yon_ichiro

(34)以上2つ例を挙げましたが、このように、幾何の問題が代数の道具を用いて解決できるのです。逆に、代数の問題を幾何的に解釈して解決できることももちろんあるのですが、すみません、ツイッター上でうまく説明できる例を思いつきません。あえていえば、代数幾何学って全部そうなのかも。

2012-12-29 01:41:35
四一郎 @yon_ichiro

(35)で、代数と幾何の橋渡しとなるべき公理は何か、ということですが、今の2つの例でいうと、実数に対する公理と、線分の長さや長方形の面積に関する公理、ということになります。前者は今の場合は「ルートの数も数と認めようね」というだけですが、これは以前詳しく話したので今は省略。

2012-12-29 01:46:04
四一郎 @yon_ichiro

(36)かえって難しいのは長さや面積の公理。いや、内容は簡単です:「線分AB上に点Cがあるとき、長さはAC+CB=ABを満たす」とか「長方形の面積はタテ×ヨコとする」とか「図形FをF1とF2に切り離したとき、面積はF=F1+F2を満たす」とか。あたりまえでしょ?

2012-12-29 01:47:53
四一郎 @yon_ichiro

(37)ですけど、こういうのが実は、代数と幾何をつなぐ公理たちなんです。確かに一つの文章の中に、数式(代数的要素)と図形(幾何的要素)が混在しているでしょう? こんなまったく当たり前にみえること、これを認めないと代数と幾何はつながらない

2012-12-29 01:49:38
四一郎 @yon_ichiro

(38)大学の数学科に来ない限り、普通はこんなところに公理ー約束事ーゲームのルールが挟まっているとは習わないでしょう。しかし、ここをはっきりさせないと、決して数学の名に値する議論にならない。その理由は主に2つ、1つは「論理的厳密性のため」。これは抽象学問たる数学では決定的に大切。

2012-12-29 01:52:15
四一郎 @yon_ichiro

(39)もう1つ、こちらの大切さがなかなか世間にアピールされないのですが、「直観に訴えずすべてを抽象論理化することによって、さらなる世界の拡張が望める」! 平面上の長さや面積について、今述べた公理たちを疑う人はいないと思うんです。それこそ「直観的に明らかだ」といわれてしまいます。

2012-12-29 01:55:43
四一郎 @yon_ichiro

(40)しかし数学者たちは、「平面上の線分」の世界にとどまらないのです。3次元、4次元、もっと高次元で、線分、面、3次元図形、4次元図形、…を考えたい。高次元の世界の構造をつかみたい。……あ、そういう高次元の話、物理や化学にも役立つし、多変数解析とかって実はこのお話なんだよ……。

2012-12-29 01:58:21
四一郎 @yon_ichiro

(41)しかし、たとえば4次元空間とかについての直観が利く人って、そんなにはいない。いや、いますよもちろん、たぶん。だけど、その人が考えたすばらしいアイディアを、私のような凡人に説明してもらうには、やはり公理から出発した論証が必要です。そのとき、さっき述べたアホみたいに明らかな

2012-12-29 02:01:01
四一郎 @yon_ichiro

(42)低次元での長さや面積の公理、これを一歩一歩、高次元バージョンにしていく。もはや「図より明らか」とは到底いえないシロモノになってしまうのですが、低次元のときの類推から、まあ認めてもよさそうという気になる。その公理、つまり基本的《事実》を組み合わせて、数学者は先に進むのです。

2012-12-29 02:03:47