再定義的本格ミステリと本格原理主義

限界研[編]『ポストヒューマニティーズ』所収の、蔓葉信博「科学幻視――新世紀の本格SFミステリ論」を巡る蔓葉信博さんと杉本@むにゅ10号さんのやりとりをまとめました。
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杉本@むにゅ10号 @longfish801

昨日買ってきた限界研[編]『ポストヒューマニティーズ』の、とりあえず蔓葉信博「科学幻視――新世紀の本格SFミステリ論」だけ読んでみた。アシモフ『鋼鉄都市』を出発点に、新本格での作品数増大と変調、そしてSFミステリの五大要素による分析を通して、これからのSFミステリの道筋を示す。

2013-07-28 08:35:24
杉本@むにゅ10号 @longfish801

ポストヒューマニティーズ 科学幻視:科学法則はどこでも同じように働くとする自然の斉一性原理に従い、『鋼鉄都市』で提示される特殊設定、推理に不可欠な独自ルールは作品世界内で普遍的なものとして読者にあらかじめ説明されていた。けれど新本格ではフェアな推理が成立しないタイプが登場する。

2013-07-28 08:36:22
杉本@むにゅ10号 @longfish801

ポストヒューマニティーズ 科学幻視:殊能将之『黒い仏』のような、自然の斉一性が成立せずルールが局所的な「再定義的本格ミステリ」が増加していったという。続いてSFミステリを舞台、ガジェット、トリック、動機、パズル的要素の五つとし、それぞれ「今、ここ」にないSF的なものか確認する。

2013-07-28 08:38:08
杉本@むにゅ10号 @longfish801

ポストヒューマニティーズ 科学幻視:そのうえで五大要素すべてがSF的設定である『鋼鉄都市』のように、シンプルなSF的主題が作品の隅々まで行き渡っているような作品を見直すべきと説く……という内容で、そもそもSFミステリってなによという原理論から状況を整理し未来を模索する手際が良い。

2013-07-28 08:39:13
杉本@むにゅ10号 @longfish801

ポストヒューマニティーズ 科学幻視:ただ、けっきょく、なぜシンプルさに戻るべきなのか根拠がよくわからない……再定義的本格ミステリが突きつけた課題に背を向けていいの? 米澤穂信『折れた竜骨』を読むと、ルールが局所的であってもフェアプレイ可能な方向もあると思う。

2013-07-28 08:40:31
杉本@むにゅ10号 @longfish801

ポストヒューマニティーズ 科学幻視:つまり特殊ルールだけではなく日常の豊かな蓋然性も含めて推理するという作戦。綾辻行人『Another』は、推理行為の基盤は日常における信頼関係にあることを端的に示した。自然の斉一性が成立しない不条理な世界でも、推理する以外に道はないという覚悟。

2013-07-28 08:41:30
杉本@むにゅ10号 @longfish801

ポストヒューマニティーズ 科学幻視:こんなふうにして再定義的本格ミステリが提示した問題は乗り越えられつつあると思う。だから、どうして素朴な原点回帰を求められるのかよくわからん……。

2013-07-28 08:42:30
蔓葉信博🌿 @tsuruba

某ツイートの反論を用意しなきゃいけないことはしごく残念なのですが、仕方のないことです。

2013-07-28 22:42:47
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 これから杉本さんの一連のツイートにコメントします。まず、お読みいただきありがとうございました。ただ、限られた文字数とはいえ、「本格SFミステリ」の用語は保持していた方がよかったかと思います。

2013-07-29 23:19:51
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 あと、ここで殊能さんのその書名を出すのは、僕の冒頭の注意書きが台無しです、これは厳重に抗議したいww!ネタバレですww!

2013-07-29 23:22:05
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 で、ここでおかしいことがひとつ。僕の論を読めば想像はつくと思うのですが『折れた竜骨』は、決して「再定義的本格ミステリ」ではなく、普通の「本格SFミステリ」のひとつと考えるべき作品だからです。

2013-07-30 00:09:12
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 また、そもそもこの挑発的な「なので、「再定義的本格ミステリが突きつけた課題に背を向けていいの?」というのも、実は意味が分かりません。僕の論を踏まえ挑発的に言うならば、「再定義的本格ミステリ」とは、本格ミステリの課題から「背を向けた」作品群だからです。

2013-07-30 00:10:30
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 背を向けた作品から背を向けるのですから、それは正面を向いていることになります。

2013-07-30 00:11:01
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 それと「つまり特殊ルールだけではなく日常の豊かな蓋然性も含めて推理するという作戦」とありますが、僕の論では「現実世界の論理」のなかに蓋然性を含めた推理も入ります。別に除けているわけではありません。ただ、蓋然性だけでは届きえない地点があるといいたいのです。

2013-07-30 00:13:37
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 人々の解釈で物事を定義しているといっても「世界の側の仕組み」そのものを改変することはできない。人がどのようにコミュニケーションで結論を出そうと、たとえば過去起こったことは改変できない。人ができるのはその分析、解釈の幅を調整する程度でしかないのです。

2013-07-30 00:18:02
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 本格ミステリでは常人の解釈を悠々と超える「世界の側の論理」を武器にした名探偵の推理に感動するものではないでしょうか。そして、この「世界の側の論理」の現れが、「手がかり」です。これが解釈でどうにでもなるような作品だったとしたら、それはもはや本格ではない。

2013-07-30 00:21:02
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 ちなみに『Another』も、普通(?)の「本格SFミステリ」です。

2013-07-30 00:21:58
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 原点回帰の理由は、再定義的本格ミステリは、僕もしくは本格原理主義者的に言えば、それは本格ミステリではないからです。多くのミステリ作家は本格SFミステリを書き得ず、本格としては微妙な再定義的本格SFミステリばかり書いてきた、ということが僕の論だからです。

2013-07-30 00:25:32
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 ちなみに、原点回帰だけが正解の道とは限らないと思いますが、蓋然性云々はSFミステリの形式的要素とはほぼ関係がないので、反論としてはどこをつついているのか、非常に不明瞭と思わざるを得ません。

2013-07-30 00:28:42
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 そして数あるミステリの小ジャンルのなかで「世界の側の仕組み」に創作としてかつ科学的なやり方で手を入れられる最も規模の大きいジャンルが「SF本格ミステリ」なのです。ホラー系や幻想系なども検討の余地はありますが、科学的なやり方という点において非常に弱い。

2013-07-30 00:33:16
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 なぜなら読者と共有しうるルールが設定し「きれない」からです。論理の余詰めがどうしても生じてしまう。現実から乖離したひとつの超常現象を許容するなら、他の超常現象を除く理由はなくなります。ホラー系の本格ミステリはこのあたりが非常に本格みすてりとしてあやうい。

2013-07-30 00:34:53
蔓葉信博🌿 @tsuruba

@longfish801 『折れた竜骨』や『Another』もクレバーなやり方でうまく回避していますが、それはファンタジー本格ミステリ、ホラー本格ミステリとして、「世界の側の仕組み」にまで手が入っているとはいいがたい。そこが本論で述べている「本格SFミステリ」との違いです。

2013-07-30 00:38:15
蔓葉信博🌿 @tsuruba

ファボられてみつかるミスもある……タイプミスや用語のブレがありますが、ご寛恕いただきだい…… 基本「本格SFミステリ」で。

2013-07-30 01:18:38
杉本@むにゅ10号 @longfish801

@tsuruba お返事ありがとうございます。と、とりあえず『黒い仏』のことはスミマセン(冷汗三斗)。そもそもの疑問だった「なぜ原点回帰が結論なの?」については“本格としては微妙な再定義的本格SFミステリばかり”になってきたから、ということで了解しました。

2013-07-30 21:10:24
杉本@むにゅ10号 @longfish801

@tsuruba また『折れた竜骨』『Another』が読者に対しフェアであろうとしている点で、本格SFミステリに該当するのも同意です。ただ『折れた竜骨』『Another』が、自然の斉一性が成立しない世界での謎解きを描いていることは、否定できないのではないでしょうか。

2013-07-30 21:11:23