モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Summer VII~
- IngaSakimori
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「あなたはわたくしのXR650Rに一度勝っているんですから、400ccのマシンなんか怖がらなくても平気ですわ」 「それはそうかもしれないけどさ……」 #mor_cy_dar
2013-08-31 14:03:12横綱を打ち負かした力士が、なぜ大関との取り組みを恐れるのか。 そんなことを言われているようで、志智としては思わず苦笑せずにはいられない。 #mor_cy_dar
2013-08-31 14:03:26(勝った……俺はたしかに亞璃須のXRに勝ったことがあるけれど……) その記憶は三鳥栖志智(みとす しち)にとっては、夢の中で過ごした幻の一日のようにおぼろげで。 #mor_cy_dar
2013-08-31 14:03:39(今でも……なぜ勝てたのか、わからないや……) そして、指を鳴らせばその瞬間に溶けてしまう催眠術のように、儚いものだった。 #mor_cy_dar
2013-08-31 14:03:48夏休みの日曜日は潮の満ち引きのように、いつの間にかやってくる。 「さて、そろそろいくか」 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:06:03「あ、おにいちゃん。バイクで走るの?」 「ああ」 三鳥栖志智(みとす しち)、そして妹の千歳が住まう狭いアパートでは、生ぬるい湿気と高い温度とは相反して、春の陽気にも似たうららかな空気が流れていた。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:06:16(最近、千歳のやつが機嫌いいからな……) 妹思いではあっても基本的に鈍感な兄は、その理由が━━ただ自分が家へいる時間が長いから、その一点であることには気づいてもいない。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:06:27「そっか~。残念だな~。うん、でもおにいちゃんはバイク大好きだもんね。 たまには乗ってあげないとね」 「たまには、って……バイク便のアルバイトで毎週何日も乗ってるだろ」 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:06:41「お仕事と趣味は話が別ですっ。 だって、お仕事は生活に必要だけど、趣味は私との綱引きだもん」 「つなひ……あ、ああ、よくわからないけど、さ」 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:07:05豊かな胸元もあらわなタンクトップ姿で、えっへんと腕組みしてみせる千歳。その両腕の上にはち切れそうな果実がずっしりとのっている。 どこかのXR650Rに乗っている少女には、決して不可能な構図だった。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:07:16「じゃあ、安全運転でね、おにいちゃん。亞璃須さんとティックくんも一緒なの? 二人にもよろしくね」 「ああ、わかったよ」 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:07:27「ね。お出かけするなら、今日もしてして」 「はいはい」 「えへへ~」 頭を撫でてやると、うっとりと瞳を閉じて幸せそうに千歳は微笑む。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:07:43(いい子だ) この表情をみるたびに、三鳥栖志智は一つの思いを新たにする。 どこの馬も骨とも知れない奴には、絶対に千歳を渡したりしないぞと。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:07:53(……ああ、そうだ。渡しはしないさ。 どっちにも━━な) 玄関へ向けて歩き出した志智の背中に、どっかーん、と言いながら千歳がぶつかってくる。 何だよ、と訊ねると妹は何でも、と応えた。 もう一度、兄は妹の頭を撫でてやった。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:08:09大多磨周遊道路、川野駐車場へ到着すると、すでにゴスロリ姿の亞璃須と吉脇のハイエース、そして早間仁のDR-Z400SMがそろっていた。 そして、なぜかぐったりと肩を落として座り込んでいるティックと、どこかくたびれたようなホンダ・グロムの姿も、また。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:08:48「何かあったのか?」 「本人に聞いた方が早いですわ」 亞璃須の言葉にティックの様子をうかがった志智だったが、白目をむいて完全な放心状態のようだ。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:09:00仕方なく志智が残った早間に視線をむけてみると、 「いや、なんかな? 彼女と付き合う資格は僕にあるから勝負しろ!……って、そこの金髪少年に言われてな」 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:09:11「あ、なるほど、よく分かりました」 「登りだけで125ccをちぎるのは、なんか気が引けたぜ……」 ばつの悪そうな表情で頭をかく早間。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:09:23「ま、そういうわけでこっちのウォーミングアップは終わってるんだがな。 三鳥栖、お前はいらないのか」 「はい、檜原側から走ってきたんで」 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:09:36「しかし、XRの彼女、クソ暑いのにすげえ格好してるよな……まあ、いいんだけどさ。 月夜見第一までのアップダウンで勝負らしいが、それでいいか」 「はい、俺はそれで構いません」 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:10:28思わぬハプニングで出鼻をくじかれた志智の闘争心も、早間と言葉を交わし、、黄色いDR-Z400SMを前にしていると、少しずつ火がついてくる。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:10:34(そうだ……林道ならともかく、ここなら……このバイクなんかに負けない……) それに三鳥栖志智には一人の兄として負けられない理由もある。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:10:50もっとも、その事を思えば絶対的な性能差があることはわかりきっているのに、それでもなお勝負を挑んだティックの行動は、好ましいとは言えないまでも、どこかくすぐったいものだった。 #mor_cy_dar
2013-08-31 23:11:12