牧眞司の文学あれこれ その6
ディミトリ・フェルフルスト『残念な日々』(新潮社)を読んだ。いやあ、これはいいね、面白いねえ。ロクデナシの一家(父と叔父たち、その面倒を見ているお祖母ちゃん)と暮らす少年の物語で、中場利一『岸和田少年愚連隊』のような悪童ものだが、ウィットがさらに絶妙でシニカル。
2014-01-19 15:05:14NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいは小川一水『天冥の標Ⅶ 新世界ハーブC』(ハヤカワ文庫JA)を取りあげています。 http://t.co/zlXEZo9LnX
2014-01-21 19:23:54書評のさわり―― この巻は、極限下の宇宙サバイバルSFでもあり、数手先を読みあう政治サスペンスであり、エクストラビターな恋愛小説である。いずれにしてもかなりヘヴィだ。 http://t.co/zlXEZo9LnX
2014-01-21 19:24:06最後に、名作の新訳・再刊・文庫化について、ぼくが読んだ範囲で年間ベスト級以上の作品を評価順に並べておこう。とくに上位の二冊は世界文学オールタイムベスト級の傑作。また、3位は二篇が収録されているが、このうち「小さなバイク」は無類の面白さで、これ単独ならばベスト1にしたいほどだ。
2014-01-22 22:17:001『消しゴム』アラン・ロブ=グリエ(光文社古典新訳文庫)新訳 * 2『青い花』レーモン・クノー(水声社)新訳 * 3『物の時代 小さなバイク』ジョルジュ・ペレック(文遊社)再刊 4『かくれんぼ・毒の園』フョードル・ソログープ(岩波文庫)再編集 *
2014-01-22 22:17:385『絶望』ウラジミール・ナボコフ(光文社古典新訳文庫)新訳 6『ご遺体』イーヴリン・ウォー(光文社古典新訳文庫)新訳 7『ピサへの道 七つのゴシック物語1』イサク・ディネセン(白水uブックス)再刊 8『緋文字』ナサニエル・ホーソーン(光文社古典新訳文庫)新訳
2014-01-22 22:19:02小野寺整『テキスト9』(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)読了。第一回ハヤカワSFコンテスト最終候補作。要約しようがない、メタメタな語りの仕掛けがあってあらすじを紹介してもしかたのない作品。
2014-01-24 19:48:02レムの『泰平ヨンの航星日記』のなかに論理パラドックス遊戯というか屁理屈を楽しむような挿話があるけれど、『テキスト9』はあれをもっと長くややこしく展開して、設定面や道具立てについてもっとSFらしさを強めたかんじ。ちょっと大変だが、円城塔作品が好きなひとは喜ぶかも。
2014-01-24 19:48:24月村了衛『機龍警察 未亡旅団』(ハヤカワ・ミステリワールド)読了。パワードスーツ装備の特捜部が活躍する近未来警察シリーズの最新刊。ありがちなドンパチやサイバーパンク調ではなく、抑制の効いた人間ドラマとキメ細かな伏線による、シブいエンターテイメント。
2014-01-24 20:22:33『機龍警察 未亡旅団』では、女性だけを構成員とするチェチェンのテロリスト集団が日本を標的とする。しかも未成年メンバーが連発で自爆テロを仕掛けるという壮絶な手口。国際情勢(表も裏も含めた)が書きこまれ、それが特捜部メンバーの過去にもつながり、いくつもの葛藤が物語を覆う。
2014-01-24 20:24:37ただ、ぼくの好みからすると、感情的な方向に振れてすぎている。とはいえ、その感情が物語の運びにきわめて有効に機能しているのも確かだ。凡庸な作者では力業で押しきってしまいそうな局面でも、登場人物の感情が行動原理として働くため、滑らかに読めるし、いっそう盛りあがる。ほんとうに巧い。
2014-01-24 20:25:16もっと大人のエンタメっぽいです。ハードボイルドですが、組織のロジックも働いていて、そのなかでアウトサイダー的な振る舞いをする人物がいる。そのメリハリが巧いです。 RT @reman0607 お恥ずかしながらまだ読んでないシリーズです パトレイバー的な作風ですかね?
2014-01-24 20:29:49色川武大『恐婚』(文春文庫)を読んだ。このところ「他人の問題」をいろいろと考えているぼくだが、この小説はかなり突き抜けていて面白い。規範的な恋愛とか制度的な家族とかから逸脱しているのだが、アナーキーとか主義主張とかではなく、なすがままでテキトーなのだ。
2014-01-25 20:43:02主人公は中年フリーライター。離婚した妻となんとなく同居しつづけ、入院先で知り合った介添婦も家に引き入れ、さらにその娘まで居着かせてしまう。すべて肉体関係があるのだがいわゆるハーレム状態ではなく、互いにあまり執着がない。わざわざ追い出すこともないから留め置いているだけ。
2014-01-25 20:44:15コニー・ウィリス『混沌(カオス)ホテル』(ハヤカワ文庫SF)読了。「ザ・ベスト・オブ・ コニー・ウィリス」2分冊のうち、これはユーモア篇。面白いわ、これ。どの作品も知的でセンスが良く、すまし顔でピリっと辛辣。なにより揺るぎない良識が根底にあって、笑いながら溜飲がさがりまくります。
2014-01-26 18:45:10ウィリスはコメディ(ただしベタやボケはあまりなくウイットというかエスプリというか)を繰りだしながら、世間にはびこっているダメなあれこれを皮肉っている。
2014-01-26 18:46:17俎上にあがるのは、陰謀論、トンデモやニューエイジ、権威的な宗教、教条的なフェミニズム、些末で恣意的なアカデミズム、など。マジメに批判するのではなく、「ふうっ」「やれやれ」と肩をすくめるかんじ。
2014-01-26 18:47:19ウィリス『混沌(カオス)ホテル』収録の「まれびとこぞりて」、エイリアン対策委員会の中核メンバーの“ひとの話に耳を貸さない”ぶりもイヤだが(というかアホだが)、アルタイル人の“不機嫌な伯母さん”みたいな態度にもうわーっとなる。
2014-01-26 19:38:38たとえ地球の不利益になったとしいても、このままお帰りいただいたほうがよかったんじゃないかな。ぼくだったらそうする。
2014-01-26 19:39:22『混沌(カオス)ホテル』で、ぼくが一番面白かったのが、「魂はみずからの社会を選ぶ――侵略と撃退:エミリー・ディキンスンの詩二篇の執筆年代再考:ウェルズ的視点」。これは火星人の襲来が実際にあった時間線の話か、それとも事実性などおかまいなしの象牙の塔の住人が書いたという設定なのか。
2014-01-26 19:59:48いずれにせよ、「ぼくの考えた凄い文学解釈」のドヤ顔の文章(アカデミックな書法に則っているのだが、その空疎なフォーミュラがまたイタい)が抱腹絶倒。と言っても、バカな学者がグダグダな理論を振り回しているのではなく、細部なそれらしい論理が通っている。うっかり感心してしまいそう。
2014-01-26 20:00:09NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいは恩田陸『雪月花黙示録』(角川書店)を取りあげています。 http://t.co/bAZGPxvMlw
2014-01-28 17:49:17書評のさわり―― キャラにせよクリシェにせよネタにせよ、通常の小説観に照らせば軽薄で下手(げて)と見なされるのだが、恩田陸はそれらを異様な世界設定とマッチさせて効果をあげてしまう。 http://t.co/bAZGPxvMlw
2014-01-28 17:49:42ジーン・ウルフ『ピース』(国書刊行会)読了。これは傑作! 邦訳されたウルフの本のなかでいちばんわかりやすい。もちろん、ここでいう「わかる」とはパズルがすっきり解けるとかトリックが完全に明かされるのとは違う。自分が小説を読む、その関心の向きに作品世界が広がりゆく感じ。
2014-01-30 16:53:46これは記憶の小説であって、想起・忘却・連想・混同が継ぎ目なく行き来する。意識は働いているものの、それは固定した主体ではなく、それまでの体験や見聞きしたもの(過去の作品や誰かの言葉)によって織りなされた(そしていま書きつづけるうちに織りなされつつある)動的な自分だ。
2014-01-30 16:54:26