牧眞司の文学あれこれ その6

牧眞司の文学あれこれ その5(http://togetter.com/li/559538)からの続きです。
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牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

まあ、「これはSFでない」という言いかたは悩ましく、言っている本人は「そこに価値判断は含んでいない」(「SFでない=劣ってる」とみなしてはいない)のつもりでも、その論調が揶揄的であれば、無神経のそしりは免れない。

2014-02-06 11:52:16
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

往々にして「これは科学的にありえないからSFではない」という論調があるが、これなどは無神経になりやすいケース。

2014-02-06 11:52:31
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

些末な部分の科学性について突きまわす読みかたは、ぼくの感覚では「SFかどうか」なんてこと以前に、小説に接する態度として本末転倒にしか思えない。

2014-02-06 12:04:56
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

作品内部の整合性が通っていない小説はダメ(読者の不信を停止できない)だが、科学的事実性ということだけなら、ちょっと補えば説明がついてしまうことがある。作家によっては「その説明はできるが、物語のバランスを崩してしまうからあえて踏みこまない」と判断する場合もあるだろう。

2014-02-06 12:06:31
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

そうした小説全体の流れみたいなものを読まず(読めず)に、部分だけを拡大してとやかく言うひとは、読者としての器量がないなあと思う。

2014-02-06 12:06:45
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

まあ、読者の器量のなさということでは、科学的事実性をとやかく突きまわすひとだけでなく、主人公に感情移入ができないとか、政治的に正しくない記述があるとか、そういうひともいるわけだが。

2014-02-06 12:08:03
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

まあ、読者の器量があるように創作者のセンスもあって、もっともらしく仕立てようと気張るあまり、よけいな説明や描写をおこない、それがピント外れや過誤を含んでいて台なしになっていることもよくある。

2014-02-06 12:24:59
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

たとえばSFの設定やガジェットの場合、伏線として必要だったり修辞性をめざす場合は別にして、下手に理屈をこねるのではなく「そうなっているのだ」とさりげなく示したほうが効果的だったりする。

2014-02-06 12:31:57
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

瀬名秀明『新生』(河出書房新社)読了。これは小松左京へのオマージュ連作というレベルではなく、偉大な先輩作家のテーマとヴィジョンに、独自の技術アイデアと深い哲理の考察によって新しい生命を吹きこんだコラボレーション。

2014-02-09 17:20:08
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

多くのSF読者が高く評価している「ゴルディアスの結び目」や『虚無回廊』など小松左京の中後期作品を、ぼくはそれほど評価していなかったのだけど、『新生』が投げかけた光によってちょっと考え直している。

2014-02-09 17:20:38
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ぼくがずっと気になっているのは、人間というミクロシステムと宇宙というマクロシステムを直接結びつける根拠――文学的隠喩/情緒的短絡を超えた水準で――がありうるか、なのだが。

2014-02-09 17:21:44
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

「人間のなかにも生命という宇宙がある」と言葉でいうのは簡単だし、それだけでセンス・オヴ・ワンダーを喚起させるには充分なのだけど、けっきょくは“見立て”にすぎないのではないか。それがぼくがかつて感じた不満であって、ある種のSFに対する疑問(全面的に評価できない)と結びついている。

2014-02-09 17:27:21
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

その不満や疑問を解消する糸口を、瀬名秀明作品は示しているのではないか。と、現時点では考えていて、これはもっと煮詰めなければならない。ちょっと意外に思われるかもしれないけれど、スタニスワフ・レムの作品と対照することで肯定的な方向が見えてくる気がする。

2014-02-09 17:30:53
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

下永聖高『オニキス』(ハヤカワ文庫JA)読了。第1回ハヤカワSFコンテスト最終候補となった表題作を含む短篇集。これまで刊行された同コンテスト最終候補作のなかで、ぼくはこれが一番面白かった。まあ、長篇だとよほど実力がないと間延びするので、新人賞では短篇のほうが良く見えるのだけど。

2014-02-10 10:09:31
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

「オニキス」もそうだけど、共通する設定を用いた「三千世界」も、終盤であっけなく転調するのが面白い。登場人物をそう扱うのかとちょっと吃驚するのだが、この躊躇なさは素晴らしい。フィリップ・K・ディックの初期短篇で情緒性が希薄な急展開のアイデアストーリーがあるが、あれに似ている。

2014-02-10 10:09:58
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『オニキス』の解説は藤田直哉さん。ロジックの組み立てや引用の駆使など手際のよいまとめに感服するが(こういう解説はぼくには書けない)、文章表現と視点の置きかたにちょっと気になるところが。

2014-02-10 10:57:18
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

まあ、文章は個人的なことだし、そもそもぼくはひとさまの文章をとやかく言える立場じゃない。一方、視点の置きかたについては、SFに何を託すかに関わるのでけっこう考えこんでしまった。

2014-02-10 10:57:32
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

藤田さんの解説では、下永作品の特質のひとつに「普遍性への希求」をあげる。それを具体的に検証しているのだが、結論を引用すると →

2014-02-10 10:57:48
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

→ 〔彼(下永)の「集合的無意識」という言葉が象徴しているのは、科学・技術が人間の存在の確からしさを奪い続けていく中で、それでも人間でありたい、確固とした存在の充実感を得たいという叫びである。〕 →

2014-02-10 10:58:02
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

→ ぼくはこういう読みかたをまったくしていなかったので、虚を突かれた感じだ。藤田さんの指摘のとおりであるとしても、下永作品はそこからさらに一歩引き、わりと冷静な境地で動いていると思うのだが。

2014-02-10 10:58:14
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ぼくは藤田さんが間違っていると言いたいのではない。同じ作品を読んでも感じかたがこれほど違うのは、小説観やSF観の根本的な差異によるのだろう。そして、それは昨日ツイートした、ぼくの小松左京作品評価(人間と宇宙のつながり)とも関連してくる。

2014-02-10 11:00:19
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ぼくの考えを整理するうえで、藤田直哉さんの『オニキス』解説の一部分を足がかりとさせてもらおう。藤田さんは 下永作品の「普遍性」を説明する過程でノースロップ・フライの論を援用している。 →

2014-02-10 11:18:08
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

→ 〔(フライの論では)「神話→ロマンス→悲劇→喜劇→アイロニー」とジャンルは進歩するとされる。主人公が神のように偉大な時代から、矮小な存在へと、時代の進行とともに変化してきたというのだ。そして「SF」は「アイロニー」に属する。 →

2014-02-10 11:18:21
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

→ しかし、フライはここで不思議なことを言う。アイロニーにまで発展したジャンルは神話に戻るというのだ。その説を裏書きするように、『スター・ウォーズ』などのような、SF的意匠を用いた神話的な作品が流行した。〕 →

2014-02-10 11:18:32
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

→ 〔(略)人間が自分を、神や英雄に喩えることができなくなり、宇宙の中であまりに矮小な存在であると、科学などによって否応なく認識させられてしまうことに耐えられなくなると、フィクションの中で、その無意味さを埋めるもの=神話を求めてしまうのではないか。〕 →

2014-02-10 11:18:43
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