筍提督と僻地の泊地 (1)

初の艦雄(かんおす)を目指す副業提督・筍が、艦娘たちと過ごすなんでもない日常を綴る日記。 (初日~艦雄初陣前日)
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筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

覚悟を決めた私は、私の右腕を見つめたまま動かない熊野を見つめ返します。 『……どうした?』 「嘘ではなかったんですのね」 『まさかお前、脈で判断したのか』 「たわいもなくてよ」 『救難艦にでも転職しろよ』 「お断りしますわ」 #僻地の泊地日記

2014-03-22 20:18:02
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「わたくし、これからお買い物に行きますの。散歩だと思って付き合ってくださらない?」 『ああ、構わんが……』 鈴谷は? と続けようとして、私は口を噤みます。鎮まりかけた火種を煽るような真似は避けた方が身のためです。 『サンドイッチでも食うか?』 #僻地の泊地日記

2014-03-22 20:24:38
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

買い物を終え、来た道を戻り、途中のベンチに落ち着きます。結局荷物持ち係となっていた私は、熊野にサンドイッチとジュースを渡しました。 『寮では食わないんだ?』 「そういう気分でしてよ」 『あ、そ。まぁゆっくりしてけ。休みだし』 「言われなくても」 #僻地の泊地日記

2014-03-22 20:36:15
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

彼女は早速、嬉々としてサンドイッチを頬張ります。その横で黙っているのもおかしいのですが、困ったことに話題がありません。迂闊なことは言えませんし、熊野に前々から話そうと思っていたことには、彼女はもちろん鈴谷も絡んでいます。話題に上げようものなら、きっと殺されます。 #僻地の泊地日記

2014-03-22 20:50:29
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

とうとう私は、サンドイッチが咀嚼される音だけが支配する空気を壊す役には回れませんでした。 「提督は、いつから見ていらしたの?」 『ん、何を?』 「工廠裏でのわたくしたちを」 『』 #僻地の泊地日記

2014-03-22 21:04:05
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これを死刑宣告と判断した私は、つい口籠ります。が、熊野が「もう殴ったりしませんわよ?」と言うものですから、仕方なく『キスから』と答えました。 『ずっと見てたわけじゃないんだ。勘弁してくれ』 「抱合もご覧になったのよね?」 『ほうごう……ハグのことか。見た』 #僻地の泊地日記

2014-03-22 21:20:08
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『お前、泣いてたろ?』 「目がよくていらっしゃるのね」 『喋ってたのも分かった。何を話してた?』 「それは……」 『いや、言いたくなかったらいいんだ。ってか、俺にゃ話せんことだろうし』 私の言葉を肯定も否定もしない瞳が、食べかけのサンドイッチを見つめていました。 #僻地の泊地日記

2014-03-22 21:34:49
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「……ちょっと待っていただける?」 『え?』 「そうお答えしました」 『それはアレか、イエスかノーかって話をか』 「ええ」 『キスまでされて?』 「ええ」 #僻地の泊地日記

2014-03-22 21:47:09
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「わたくしを悪い人だと思うかしら?」 『鈴谷の考えは知る術もねえが……俺は、可哀想かなとは思う』 「あら」 『いや、違うな。何て言うか……そう、生殺しみたいだなって』 「それなら、分からないこともありませんわ」 『自覚あんのか』 「……ええ」 #僻地の泊地日記

2014-03-22 22:09:03
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『応えてやらんのか』 「ですから、彼女にはちょっと待ってと……」 『あいつの言葉に、じゃない。あいつの想いにだ』 「らしくないことを仰いますのね」 『それは、ええと、“DT”が省略されてるのかな』 #僻地の泊地日記

2014-03-22 22:19:02
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『まさかいきなりキスされたわけじゃあるまい。告白されたんだろ?』 「ええ、まあ」 『それで、何で泣いた』 「え?」 『告白されて、何で泣いた』 「……」 #僻地の泊地日記

2014-03-22 22:29:34
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再び、いえ、今度は本当の沈黙が訪れます。熊野の横顔というよりは、食べかけのまま彼女の手元で留守になっているサンドイッチに視線を落として、次の言葉をじっと待ちました。 すると、そのサンドイッチが、手が、肩も横顔も震え出したのです。 #僻地の泊地日記

2014-03-22 22:45:14
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『ど、どうした!?』 「…れし……た……」 『何?』 「嬉しかったのよ……」 彼女は泣いていました。 #僻地の泊地日記

2014-03-22 22:50:47
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「鈴谷は……鈴谷は、わたくしが持ってないもの、たくさん持ってらっしゃるのよ。そういう方を好くのは当然でしょう? お部屋も一緒で、わたくしは幸せ者だと思いましたわ。でも、次第に苦しくなった。彼女、わたくしを、ネームシップを同じくする艦としか思ってないみたいで……」 #僻地の泊地日記

2014-03-22 23:01:45
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「それで苦しいなら、いっそこの関係を壊そうと思いましたの。つまり、想いを伝えることで、成就するにせよお断りされるにせよ、この曖昧な関係から抜け出そう、って」 『だが、お前は伝えられる立場に立ったわけだ』 「予想外もいいところですわ」 #僻地の泊地日記

2014-03-22 23:05:06
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「その理由は、昨日お聞きしましたわ。前々から想ってくださっていたのだけれど、気付かれないようにしていたらしいの。関係が壊れるのが怖かったんですってよ。彼女、賢明で繊細だから……」 そう漏らす熊野も痛いほど繊細です。 #僻地の泊地日記

2014-03-22 23:12:48
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「いざ、想いを伝えられてみて……わたくしが望み、彼女が恐れていた、関係の崩壊。それが急に怖くなってしまって……だから、答えを待ってもらっているのよ。彼女の腕の中で泣いた理由も同じ。……ねえ、提督。提督は、こんなわたくしを、愚かだと思うかしら?」 #僻地の泊地日記

2014-03-22 23:18:13
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くしゃくしゃの顔で答えを求める熊野にかける言葉がありませんでした。 『……正直に言うと、俺はまだ、そういうことが分かる立場にはない』 「そんな……」 『ただ、経験のない人間なりに言わせてもらえるなら、お前は立派だと思う』 #僻地の泊地日記

2014-03-22 23:24:39
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『相手が俺だったとはいえ、お前はちゃんと思ってることを言えた。確かに今までは逃げてたかもしれないけど、昨日の鈴谷がそうだったように、お前も今、自分に素直になれた。充分立派なことじゃないか。むしろ、己の素直さを愚かだと疑うことの方が愚かだ』 #僻地の泊地日記

2014-03-22 23:27:28
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『あとは、そうだなあ……できるだけ早く、鈴谷に答えを言うことが、今のお前にとって大事なことだ』 「わたくしに言えるかしら……?」 『……お前、俺が今正直に言ったことに不快感を覚えたか?』 「いいえ」 『同じだ。お前の正直な心も、鈴谷は受け止めてくれるよ』 #僻地の泊地日記

2014-03-22 23:32:25
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私は、ほんの思い付きでポケットを漁り、偶然あったハンカチを渡しました。 『拭け。拭いて食ったら、すぐ帰るぞ』 「感謝いたしますわ」 DT提督は、ハンカチに救われたような感覚を消し去ろうと必死でした。 #僻地の泊地日記

2014-03-22 23:43:48
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「提督、今度また、サンドイッチを買ってくださらない?」 『そりゃ構わんが』 「こんなしょっぱいサンドイッチ、とても美味とは言えませんわ」 #僻地の泊地日記

2014-03-22 23:45:34
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どうにか泣きやんだ熊野を連れて、鎮守府に帰りました。正門に誰がいたと思いますか? 私の秘書艦ではありません。 『あれ、鈴谷』 「提督じゃ~ん。援助交際でもしてたわけ?」 『ばッ、バカ野郎! 俺は今日も冴えないDTだよ!』 #僻地の泊地日記

2014-03-23 00:04:08
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「鈴谷、どうしてこちらに?」 「熊野の買い物が普段より長かったから、どうしたのかなーと思って」 そう、と肯く熊野を、私は肘でつつきます。充血した眼に負けないほど赤い頬を小さく膨らませてから、熊野は鈴谷に向き合いました。 「鈴谷、後で工廠の裏に来てくださる?」 #僻地の泊地日記

2014-03-23 00:07:38
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『鳳翔さん。今日、俺、仲人になったんだ』 「あら、経験もないのにですか?」 『オブラートの包み方は100点満点だな……』 「ほほ……それで、誰と誰の仲人を?」 『うーん、秘密』 「何故です?」 『なんとなく』 #僻地の泊地日記

2014-03-23 00:53:18
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