不知火に落ち度はない その11

@yamoto 氏の #不知火に落ち度はない をまとめました。 以下本家より抜粋 【不知火に落ち度はない】 続きを読む
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神通教官と楽しい白兵戦訓練の回

yamoto @yamoto

「提督……失礼いたします」 うだるような暑さの日。 扇風機を全開で当ててる司令室の俺に、涼やかでか細い声がかかる。 見上げると、神通がそこにいた。 「おう、相変わらず涼しそうな格好だな」 「司令官は……暑そうです」 うん。ぶっちゃけ暑い。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 00:42:20
yamoto @yamoto

「何のご用でしょうか。神通きょうか……いえ、神通さん」 「教官だろうが、さんづけどっちでもいいだろに。なあ神通」 「私はどちらでも……構いませんけど」 眉根を寄せて、神通が言う。 一時期神通は不知火への教導を行っていたことがあり、どうも苦手と見える。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 00:48:09
yamoto @yamoto

部活の先輩が怖い現象ってやつなんだろう。 俺も昔の教官に出会ったら、無意識に背筋が伸びるし。 「で。デートのお誘いか?」 「……!? ……提督……そういうことは……」 この手のジョークはやはり苦手と見える。 隣の副官から冷ややか視線のプレゼントあり。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 00:52:39
yamoto @yamoto

「あの……提督は、白兵訓練を……希望すれば誰でもやってくれるって……」 「ああ、希望するなら受けてるぞ。でも、俺以外の奴の方が良くねえか?」 でもいっか。 希望があれば受けると公言してるし。 本音? こんなクッソ暑い司令室を出て日陰の道場で涼みたい。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 00:56:57
yamoto @yamoto

「司令。少し宜しいでしょうか」 「やだ」 全力でお断る。仕事しろっていう話なんだろうけどな。 仕事さっさとしろという恨めしい視線がこちらを睨んでいるが── 「すみません、提督をお借りします」 「……。了解しました」 お? あっさり折れた。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:00:37
yamoto @yamoto

なるほど。教官効果すげーな。 あのドーベルマン不知火が、あっさり子犬不知火になってる。 よっし、神通と楽しく遊んでやって、アイスでも食うとするか。 夕方から仕事をやるから、今は見逃してくれ、不知火。 俺はこきこきと肩を鳴らして、腰を上げる。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:04:54
yamoto @yamoto

「じゃ、行ってくる。なんならお前も一緒に訓練するか?」 「遠慮します。神通教官の邪魔はしたくありませんので」 ん? 何か引っかかる事を言ってるが、まあいい。 「ちなみに神通、お前アイス好き?」 「え?……好きですけど…」 よし。俺の食う理由できた。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:10:48
yamoto @yamoto

「んじゃあとよろしく、不知火」 「……いってらっしゃい。司令」 ドアが閉じる寸前で、不知火はぼそり呟いた。 「不知火は、止めようとしましたからね」 そんな不吉な言葉をもっとちゃんと聞いておけばと、俺は後悔するのだった。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:18:46
yamoto @yamoto

──寒い。 うだるほどの暑さを感じていたはずの時間が、今は懐かしい。 そう、この寒さの原因は目の前の──神通からもたらされたモノである。 「提督。素晴らしい身のこなしですね」 「はは、冗談」 追い詰められてるっつの。 木刀を持った神通、マジ怖い。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:24:12
yamoto @yamoto

状況ははっきり言ってあまり良くない。 こいつが出してる一刀への気迫が、感覚を狂わせている。 おっそろしいもんだな。 木刀が真剣と錯覚するぐらいの使い手とか。 そんなん今まで会ったことねーぞ。 普段の気弱そうなアジアンビューティ神通どこ行った。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:30:40
yamoto @yamoto

「降参してもいい?」 「……。提督は、胸を貸してくださるのでしょう?」 うん。ミスったんだよな。対応。 俺はこいつの戦果を読み違えていたんだ。 報告書に上がったこいつの戦果は中の上。 伸び悩んでる子羊に手を貸そうって思っただけなんだが。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:36:29
yamoto @yamoto

普段からあまり強い意見も言わないし、戦果も芳しくない。 そんな神通を元気づけてやろうと、得意武器を使って良いぞと言い。 さらに遠慮する神通に、心配しなくて良いからと竹刀ではなく、木刀を持たせ。 その上挑発まで行った極めつけの馬鹿がいたんです。 俺な。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:41:40
yamoto @yamoto

なお、とどめを刺した言葉にも当然心当たりがある。 「お前みたいな小娘の剣先にやられる提督じゃありません。 胸貸してやっから、全力でかかってきなさい」 俺の馬鹿。 俺の馬鹿。 こんな使い手相手に何挑発してんだ。 いくら穏和な神通でもキレるわこれ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:43:38
yamoto @yamoto

「あーっとな……あれはとりあえずキャン……」 ヒュン、と風切り音が一つ。 上体を反らした俺の鼻先を掠めていく木刀。 「セルで──」 次は腹。無駄のない動きで薙ぐ。 床をその前に蹴って回避。 突き。 回避は通じない。 大きく横に飛んで逃げる。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:53:07
yamoto @yamoto

「提督は口ばかりのお方とは違うのですね」 残身を終え、体勢をすぐに戻した神通が言う。 感激しました。そう言いたげに目が輝いてる。 俺も感激したよ。お前みたいな綺麗な殺気って初めてだわ。 しかも全部急所狙い。一発でも避けるの失敗したら死ぬぞコレ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:54:58
yamoto @yamoto

「口ばかり提督ですよ俺。だから竹刀に変え──」 すぐに間合いが詰められる。 剣道の一足飛びじゃない。 あれより緩やかで、予備動作がほとんど無い摺り足の歩法だ。 これ、いつ移動したかわからんから、常に距離を目で測っておかんといかんのだよな。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 01:59:40
yamoto @yamoto

そしてそのまま、袈裟懸け。 鎖骨をへし折る気満点の切り下ろしを、一歩先んじて動いて避ける。 追撃の横薙ぎの攻撃もきっちり肋骨狙いである。 前に抜けて避ける。 さっきからこの詰め将棋じみた回避の連続である。 相手はほとんど消耗してない。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:10:17
yamoto @yamoto

そりゃそうだ。間合いが違う。 ちなみにこっちの消耗は桁違いだ。 剣先の速度は拳より圧倒的に速い。 動いた瞬間に即逃げないと命中する。 当たったら、ざっくり切られてしまう。 木刀なのでそんなことはないはずだが──殺気がそう思わせる。 おっかねえ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:15:55
yamoto @yamoto

竹刀ならまだやりようはある。 あれは当たっても少し腫れる程度で済むはずだ。 木刀はいかん。 こいつレベルになると骨がひしゃげ、皮が破れる。 頭にでもあたりゃ即おだぶつ。 しかも、珍しく神通は怒ってるときたもんだ。 目が笑ってないんだもの。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:18:41
yamoto @yamoto

「私だけが攻撃していて心苦しい……ですけど」 嘘つけ神通。お前むっちゃ楽しそうじゃん。 本気出せて良い気分ですって顔にでてんじゃん。 んー。骨の一本でも覚悟した方がいいか。 じゃないと、神通から木刀奪うとかまず無理だぞ。 これ一応訓練だしな。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:24:22
yamoto @yamoto

「……白刃取り、なさるつもりですか?」 「だって木刀持ってるしなあ」 「提督がそれでやれと、仰ったじゃありませんか」 困ったように笑う。 あー、不知火の言ってた理由が分かったわ。 神通、案外ドS。 普段そういうのおくびにも出さないあたり、タチ悪い。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:26:50
yamoto @yamoto

体勢を変える。 両手を開けて、キャッチしてやるぞと言わんばかりのポーズ。 神通は笑った。 構えを上段にし、それを無為と嘲るように。 うん、知ってる。 映画の中の技は所詮映画の中にしかないしな。 こいつのスピードじゃ、手を愉快に叩いて頭をかち割られる。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:37:14
yamoto @yamoto

そして、神通が動く。 流水の如くよどみなく、静かに。 狙いは確実に頭。 俺が狙う白刃取りとやらをやる前に潰す気なのだろう。 だからこそ、この技は使える。 神通が怒ってなきゃ多分バレてるよなこれ。 俺も神通の動きを真似て、摺り足で動くなんてな。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:40:58
yamoto @yamoto

「……え」 気づいたときにはもう遅い。 神通からすれば俺が一瞬大きくなり、そして消えた、という情報が残ったのだろう。 予備動作を一切殺した歩法で、神通の真横まで移動したのだから。 無為に振り下ろされた木刀の根本をつかみ、一気に引き抜く。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:44:01
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