不知火に落ち度はない その11

@yamoto 氏の #不知火に落ち度はない をまとめました。 以下本家より抜粋 【不知火に落ち度はない】 続きを読む
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yamoto @yamoto

幸いにして、柄の握りは柔らかくしてある流派なのだろう。 簡単にすっぽ抜け、次いで背中をぽんっと、叩いてみる。 「あっ!?」 残心前の身体はバランスを崩しやすい。 そのまま出した足に引っかかって、前のめりに転ぶ神通が居た。 これ一本でいいよな。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:49:42
yamoto @yamoto

「……まんまとひっかかってくれて感謝する」 だからこんな危ない木刀は、手元に置いておきましょうね。 「今の……何をしたんです?」 「柔術応用編。詳細は内緒で」 理解不能な技を受けたせいか、声に結構な屈辱がある。 普段良い子だけに罪悪感すげえ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:55:25
yamoto @yamoto

と、いうわけで無事終わってなによりです。 「神通、言ったこと撤回するわ。むっちゃ危ないんで、以後竹刀でやろう」 「提督は凄いですね……」 手を差し伸べると、そっと手を伸ばしてくる神通。 さっきまでのドSな色はない。 ゆっくり引き起こしてやる。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 02:58:00
yamoto @yamoto

「凄くねっつの。必死だったつの。この木刀と竹刀さっさと入れ替えてくれ」 「はい……分かりました」 俺から木刀を受け取ると、そのまま俺の『右側』を通り過ぎていく神通。 それは──俺の物理的な『死角』の位置。 「提督。もう一つ試させてください──」 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 03:13:24
yamoto @yamoto

ぞくり。全身が総毛立つ。 それは小さいながらも、艶を帯びた声。 古来、剣術においての大原則。 油断大敵を──突く行為。 「提督はここから──どう捌きますか」 おい、バカやめろ。 そういうの絶対良くないから。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 03:16:59
yamoto @yamoto

床を蹴る音が聞こえる。 殺意が向けられる。 凍てつくような感覚と共に、風切りの音が聞こえる。 ばかもん。 不意打ちを訓練でするなっつの。 だってな── #不知火に落ち度はない

2014-07-24 03:21:32
yamoto @yamoto

身体が『自動的に』処理を開始する。 床を蹴る音と殺意により、位置を算出。 木刀の軌道予測完了。 一気に踏み込み木刀を無力化。 鳩尾への肘。 顎に突き上げ掌底。 腹に足刀。 一巡の動きは1秒に満たない。 足先に重く柔らかい感触が残った。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 03:32:29
yamoto @yamoto

「死角から来られると、手加減できねえんだよ」 深々ため息をつき、死角のほうをようやっと振り返る。 木刀を取り落とし、くの字に折れ曲がった神通が床に伏していた。 顎は腫れ、口は半開きになり。 ごぼえ、と口から胃液と食物の混ざったモノが吐き出された。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 03:38:34
yamoto @yamoto

えっとですね。 これですね。 神通意識ないのに吐いてますよね。 よーしクールになれ、俺。 スペルはK O O L だ。 「神通ー!!?」 無理に決まってんだろ。 痙攣してんだろ。 下手すりゃ神通死んじゃう。 衛生兵ー!! 衛生へーい!! #不知火に落ち度はない

2014-07-24 03:48:04
yamoto @yamoto

「……あ……れ?」 「お、目ぇ覚ましたか」 それから1時間後。 救護室のベッドの隣で一服してた俺は、声を聞いてようやっと安堵できた。 灰皿は例によって水を張ったバケツ。 ほんとこいつは役に立つよな。 大勢にもっとバケツの可能性を認めて欲しいわ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:07:22
yamoto @yamoto

「えーっとな神通、すまん」 「あ……いえ、提督。私こそ……」 起き上がろうとする神通を、手で留める。 「寝てろ。今起き上がると色々危ない」 「……はい、では……お言葉に甘えます」 ダメージを与えた俺が言うのも何だが。 今動くだけで地獄のはずである。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:12:31
yamoto @yamoto

「なんつーか。お前凄かったんだな」 「……提督が……それを仰います?」 「仰います。木刀と真剣と見間違えるぐらいの気迫とか、俺見たことありません」 そう言うと、神通の口元に笑みが浮かんだ。 ちょっとは嬉しいらしい。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:14:20
yamoto @yamoto

「つわけで次回から白兵戦はご遠慮下さい。やるなら竹刀でお願いします」 「……そう仰られなくても……大丈夫です」 もう次からはやるつもり、ありませんから。 神通はそう言った。 ふむ。理由があるのか? とりあえず煙草を吸って、次の言葉を待つことにした。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:20:52
yamoto @yamoto

「……元々、訓練が目的ではありませんでしたので……」 「えーっと。マジで?」 はい。そう神通は頷いた。 そうして神通は事情を話し始めた。 なんでも、近頃陽炎らの様子がおかしかったらしい。 元教官であり、面倒見の良い神通はそこで話を聞き出した。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:23:37
yamoto @yamoto

曰く、不知火の様子がおかしい。 曰く、あの提督が最近不知火に手を出した。 曰く、口では言えぬことをやっている。 などというデタラメを神通に吹き込んだらしい。 とんでもない話である。 そして義侠心の強い神通は、真偽を確かめることとした。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:25:23
yamoto @yamoto

ただし、相手は提督である。 まともに話を聞き出そうとしても、階級は自分たちより明らかに上である。 場合によっては権力を盾に逃げるかも知れない。 そう思った神通は、訓練にかこつけて俺をたたきのめすつもりだったそうな。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:27:45
yamoto @yamoto

「ただ、竹刀を使うつもりだったのは……間違いありませんよ」 しかし、俺は煽って木刀を渡したわけだ。 神通にしてみればチャンスだったろう。 その気になれば事故死すら狙えるシチュエーションに早変わりしたのだし。 ただ計算外だったのは── #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:29:35
yamoto @yamoto

「提督があそこまで、鍛錬をされてるとは……思いませんでした」 「昔取った杵柄リサイクルです。おおむね評価は司令室で煙草吸ってるおっさんであってます」 それでなくとも、日々の激務で弱ってるんだしな。 しかし疑問点があるとすればあれだな。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:36:03
yamoto @yamoto

「ンなまどろっこしいことせんでも、不知火に聞けば良かったろうに」 「提督が口で言えぬことをしていたら……きっと聞くに聞けないでしょうから」 言われてみればそうか。 神通の判断は間違ってない。 こいつ教官としても優秀なのなー。 不知火達は、幸せだなあ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:40:19
yamoto @yamoto

「で、疑念は晴れたってことでいいのかね。内容を話したということは」 「……降参の意図のつもりでしたが……でも、今のお言葉で充分かも知れません」 そりゃよかった。 これから毎日狙いますとか言われたら、流石の俺も心折れちゃう。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:45:49
yamoto @yamoto

「教官殿もおつかれさんだな。やっぱ生徒はかわいいもんかい?」 「それはもちろん……一人一人大事ですよ」 ってことは、あれか。戦績があんま芳しくない理由も見えてきたぞ。 「お前、生徒に手柄やりたくて、わざと中途半端にやってたとか?」 「………」 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:48:49
yamoto @yamoto

そこは失念してたが、思い出してみればそうだ。 神通が居るとき、陽炎のMVP率が高かったのを思い出した。 あれは教官効果じゃなく──単に勝ちを生徒に譲っていたのである。 「あのなー。そいうのよくないと思うぞ」 甘やかしすぎだ。いくらなんでも。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 04:53:16
yamoto @yamoto

「……以後気をつけます」 「そうしろ。正当な評価が出せないし、お前が損するぞ」 「私は別に……損とは思って居ませんが……」 「自分の実力を勘違いした陽炎が、怪我したら、って話だよ」 その言葉に、神通は頷いた。 どうやら意図をわかって貰えて何よりである。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 05:01:19
yamoto @yamoto

「じゃ、今日はそのベッド貸し切りだから休め」 「……はい。ありがとうございます……」 「あと、これ」 「……?」 俺が差し出したものを見て、不思議そうな顔をする神通。 「……あの、提督。これは一体?」 まあ、俺の上着だからしょうがないんだけど。 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 05:08:00
yamoto @yamoto

「お前の上着な。今洗濯中」 こないだの浜風と同じ話である。 吐いたものがべっとりついて、えらいことになってたのだ。 前回の反省を活かし、一度水洗いの後、洗濯機で回してる真っ最中だ。 「………え」 #不知火に落ち度はない

2014-07-24 05:11:18