不知火に落ち度はない その18

yamoto @yamoto

「どうなんですか！？ 朝ごはんとか、作って……そういうのなんですか！？」 「あー。……待て待て、冗談です。あいつが朝飯とか作る姿想像できん」 お湯を注ぐという動作は得意みたいだが、あいつがエプロン付けてお料理とか。 「……ホントですか？」 「はい」 #不知火に落ち度はない

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「ただ、そのうち秘書艦を解任することにはなるな」 「え……？」 ぱちくり、と目を瞬かせる浜風。 「不知火の実戦経験時間が最近だいぶ減っててな。ウチの売りは長門型と水雷戦隊なの知ってるだろ？」 「え。ええ。それはそうですけど」 #不知火に落ち度はない

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「俺が預かってるのは珈琲を煎れてくれる優しい秘書じゃないんでね」 ふう、と肺の中の感情ごと、煙を吐き出す。 「提督……そっちの方がいいんですか？」 「ん？ なんだ、秘書やってみたいのか、浜風」 「そうじゃなくって……」 あ、そっちな。 #不知火に落ち度はない

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「連中に対抗できる汎用武器がありゃ、そういう扱いせんでいい、って気持ちはあるわな」 これが血の通わぬ鉄の塊なら、もっと割り切った考えも湧く。 だが、現実問題それは不可能なのだ。 この艦娘ってシステムを考え出した奴ぁ相当なクソッタレだと思う。 #不知火に落ち度はない

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「その……個人的な意見ですけど。別に私はそれでいいです」 「……そういうことをお前みたいな小娘に言わせるのが嫌で……」 それ以上俺は喋れなかった。 口を、口で塞がれていたからだ。 あまりに自然な動きだったからか、俺は反応することが出来なかった。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

唇の触れていた時間はさほどでもなかった。 だが、確実に浜風の匂いは伝わってきてしまったわけで。 ぷあ、と息を吐いて、浜風が身を離す。 「小娘じゃないですよ。女です」 「……お前ね」 イタズラっぽく微笑む浜風。積極的すぎませんか君。 #不知火に落ち度はない

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「提督が考えるほど、私達はヤワじゃありませんよ、バカにしないで下さい」 「……眩しいねえ、そりゃ」 率直な感想を口にするとジト目で睨まれた。 「またそんなことを言う。もう一度しますよ？」 勘弁してください。 #不知火に落ち度はない

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「お前今日は随分積極的だね。何か良いことあったのか？」 「提督の弱気な姿が見えましたね」 ふふーん。 そんな風に笑われてしまった。 いかんなあ。手玉に取られてる感あるぞ。 「二度と見せねえ」 「はいはい。疲れたら見せていいんですからね」 #不知火に落ち度はない

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「ああ。それに良いことならありましたよ。これ、昼間届いたんです」 「お？ なんだ？ 写真？」 差し出されたスマホを受け取り、表示された画像を見る。 そこには、三人の艦娘の姿があり。 『浜風、元気してる？』 ……おいおい、これって。 #不知火に落ち度はない

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「ええ。今は離ればなれになってますけど。着任先で一緒になったそうなんです」 「そっか……お前の仲間なんだな、こいつらは」 「はい」 「皆元気そうな顔してんな。愉快なピースしてるこいつは？」 「谷風です。彼女すばしっこくて」 そんな顔だな、確かに。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「こっちのちっこい長門みたいな目ぇしてるのは？」 「磯風。私達の中では戦闘で先陣を切ります。普段は不器用なんですけどね」 そうだよな。立ち方が明らかに他二人と違う。 こいつは、肉弾戦でも強そうだ。 そして最後だが──青い髪のこいつは……。 #不知火に落ち度はない

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「提督、鼻の下が伸びてますよ」 「伸ばしてねえよ。風評被害するんじゃない」 他二人と比べおっとりしてるように見える。 浜風を含んだ四人の中で最年長らしき雰囲気があった。 「浦風。援護や後方支援が得意なまとめ役ですね」 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

この中に浜風はいたわけか。 こいつの帰る場所ってここじゃないのかね。 甘いことだが──ここに浜風が居るのが良い環境とは思えない。 「必要なら、申請出せよ。こっちの鎮守府に行けるよう手配すっから」 「なら、提督もセットでお願いします」 えっ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

いや。待て待てと。 俺この基地から異動するって、お払い箱ってことじゃないですか。 「私の居るところはここだと決めてますから。正確には、貴方のいる場所が私のいる場所です」 と、なかなか赤面度高いことを言うと、俺の腕に柔らかい感触が来る。 え、あの。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「もっと前ならそれも考えましたけどね。提督のせいで、そんな気なくなりました」 ──だから追い払いたいなら責任を取って、一緒に来てくださいね。 耳元で囁かれて、腕が開放される。 その隙に頬に暖かい感触があったが、それは意識しないようにしよう。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「それに今は、みんなが無事で元気にしているだけで、充分心強いですから」 未だに馴染めないで居るはずの浜風は、そう元気に言った。 俺が居る場所が～とかはさておくとして、支えが出来たなら幸いだ。 正直、浜風が居るだけでも戦力としてはありがたいしな。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「だったら相手方にも、なんか送ってやれよ。向こうも心配してるだろ」 「そうですね。こちらでも元気にしてるって送りますか」 そう言うと、浜風はスマホを差し出す俺の手から取り、カメラアプリを起動。 そのままベンチから立ち上がって、自撮りを始めている。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「こうかな……ああ、惜しい。そうじゃなくてこう……」 かしゃり かしゃり かしゃり 構図に納得でもいかないのか、何度も撮り直してる所が微笑ましい。 あー、煙草うめえ。 きっと、向こうでも浜風の元気な写真が見えると喜ぶんだろうな。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「うん。これでよし」 ぴろーん、とメールの送信音が聞こえる。 どこか満足げな浜風の顔に、こちらも少し嬉しくなった。 「おつかれさん。どんな写真送ったんだ？」 「見てみます？」 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「……。浜風 さん？ ナニコレ？」 「上手く取れたと思います」 くすくす、と愉しそうなご様子の浜風さん。 そこにはピースを決める浜風と──何か照れて顔そらしてるような俺の顔映ってるんですけどー！？ その上メールの文面で『つきあってます』っておま。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「おいちょっと待てお前」 うそいくない。 うそいくない。 つきあってませんでしょきみ。 「はい、なんでしょうかあなた」 ちゃうねん。 その呼び方悪意あるだろぜってえ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「ただちに、たーだーちーに訂正文送りなさい浜風」 「お断りします。向こうががっかりするじゃないですか」 ぺろ、と可愛く舌を出してそう答える。 くっそ、今日は浜風悪い子の日だったのか。 見抜けなかった俺の落ち度なのかこれ。 じゃあ挽回するしかあるめえ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「じゃあ仕方ない。ちょーっと痛い目見て貰うしかないな」 格闘戦よーい。目標の凶器を奪取して、無力化する。 が、それすらもお見通しだったらしい。 浜風はそのままスマホをすとん、と。 自分の服の胸元から中に入れやがったわけです。 「これでどうです？」 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

詰んだ。うん、詰んだ。 これで無理矢理奪おうもんなら、追加オーダー入っちゃう。 最近のスマホ薄型で軽いから胸元とかに入っちゃうしね。 しかしどこに入れたかって考えたらそりゃあ、あそこしかあるまいな。 でっけえポケットついてるんだなあ、浜風。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「冗談です。今からちゃんと訂正文は送っておきますから」 「頼むぜホントに」 仲間もそんなサプライズアタック食らって『はあ！？』ってなってるだろうしな。 三十路のオッサンとツーショットですよ。あの真面目な浜風が。 縁交始めたとか危険な誤解うけちゃう。 #不知火に落ち度はない