不知火に落ち度はない その3

@yamoto 氏の #不知火に落ち度はない をまとめました。 以下本家より抜粋 【不知火に落ち度はない】 続きを読む
29
yamoto @yamoto

雨が降っていた。 現在俺は大本営での会議を終え、軍用車で帰投中だった。 カーラジオは台風の接近を告げており、これから出撃する艦娘達の不安をさぞ煽る事だろう。 『今日の深海棲艦指数は34。海辺の行動は──』 この分じゃ出撃はなさそうか。少し安心した。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 18:06:51
yamoto @yamoto

大本営会議は、あの道化じみた元帥様秘書の独壇場。 口を挟む者など誰もいない。ご自慢の無敵艦隊で今日も明日も戦果を上げ続けることだろう。 それ自体が悪いことではない。その分こちらの被害が減ると考えれば僥倖。 ただ、色々削られるモノがあるのは確かだった。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 18:12:12
yamoto @yamoto

携帯の呼び出しが鳴る。 表示が不知火であったことを確認し、通話ボタンを押す。 「不知火か?」 『現在車の中でしょうか。お疲れさまでした司令。こちらに問題はありません』 「そうだ。引き続き留守を頼む」 『了解です。食事は取られましたか?』 「まだだ」 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 18:22:56
yamoto @yamoto

車のスピードを上げ、カーブを曲がりながら会話を続行する。 『そうですか。それでは先にこちらは頂いてきます』 「ああ待て待て。実は良い店を見つけてな」 『良い店ですか?』 「お前の知らない未知の味わいがあるんだ。どうだ?」 『嫌な予感しかしません』 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 18:29:36
yamoto @yamoto

「おすすめなんだ。今から身支度をしてまっとけ。すぐ帰る」 『……。わかりました』 「じゃ、連絡完了。よろしくな」 あの無愛想な副官に、たまには日頃の感謝をしてやってもいい。 ああいうの、あいつ食ったことなさそうだもんな。 帰還地点まであと3km── #不知火に落ち度はない

2014-07-06 18:32:21
yamoto @yamoto

そんな時だ。 道路の向こう側にこの雨の中、歩いている人の姿を見かけた。 安っぽいビニール傘を差しているあれは── 浜風。 何やってんだあいつ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 18:35:29
yamoto @yamoto

方向からしてどうやら戻る途中のようだ。 エコバッグが下がってることから、外出で買い物でもしていたのだろうか。 一人で。 まだあいつ馴染めてないのか。 俺はため息を吐き、車を浜風の側まで近づけてクラクションを鳴らした。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 18:39:39
yamoto @yamoto

何事かと思い、こちらを振り返る浜風に手を振って見せた。 こっち来い、と。 意図を掴みかねていた浜風は3度目の手招きでやっと理解し。 車のドアを開けて助手席に乗り込んでくる。 「よ。ぼっち専用タクシーだ。お客さん乗ってくだろ?」 「乗っていきます」 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 18:45:04
yamoto @yamoto

「何だってこんな日にわざわざ一人で出てるんだ。非番の奴は居なかったのか?」 「提督のお察し通りです。まだ全然馴染めてなくて」 「そっか。次は2、3人で動けるといいな」 苦笑をする浜風の横顔をちら見しながら、俺はエアコンを強にする。 ──透けていたから。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 18:48:05
yamoto @yamoto

「それで何買ってたんだ?」 「ええと。……ちょっと食材を」 「ほう? できるのか料理」 気まずさを誤魔化すようにして、ラジオのチャンネルを変える。 やっとミュージックチャンネルを拾ったと思えば「レイニーブルー」だ。 神をはり倒したい。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 19:33:46
yamoto @yamoto

「できる、ってほどじゃないですけど。それなりに、まあ」 「へえ。今度食わせてくれよ」 「えっ? ……え?」 驚いたように言うなよ。 人の手料理とか食いたくて仕方ないし。 それに寮生活のはずなのになんで、自室で作って食うのかがわからんからな。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 19:53:00
yamoto @yamoto

「しかし不思議だな。寮にはコンロとかねえだろ」 「ええと……IHって提督知ってます?」 「なるほど。卓上型な。そいや同僚がやってたな、そーいうこと。でも換気扇は?」 「窓を開けて。扇風機で」 浜風。お前、そこまで気合い入ったぼっちだったのか。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 19:59:01
yamoto @yamoto

「えーっとな……浜風? 食堂で飯食う分の金額はお前の給金から引かれててだな」 「素直に言うとあの空気が、どうにも。私が居るとあまり空気が良くない感じで」 どうしようか。 なんかイライラとしてきた。 デリケート問題かもしれんが。 アクセルを踏み込む。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 20:08:45
yamoto @yamoto

車が雨道でうなりを上げて走り出す。 BGMはいつしか激しい目のロックへ。 「きゃ…て、提督!? スピード出し過ぎ!?」 「うっせ。うっせ」 「スピード違反で捕まりますよ!?」 知らん。 ドリフトを決めてやる。 雨の中で車体が滑り、浜風の悲鳴が響く。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 20:16:41
yamoto @yamoto

「ああもう! サイドブレーキ引きますよ!」 「はっは! やってみろ!」 やっべ、少し楽しくなってきた。 「やってみろって!? 落ち着いてください!」 「やだね」 ベロを出してやる。 「なんでこんな無茶苦茶するんですか!?」 「腹立ったから!」 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 20:18:48
yamoto @yamoto

右、左、右、左。 うねる道を切り抜けながらアクセルベタ踏みを続ける。 幸い今の時間は対向車が居ない道路だ。 「なんですか!?腹立ったって!?」 「色々!」 タコメーター全開中。 「いいから止めてください!」 「お断りだ!」 袖を捕まれても無視。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 20:24:47
yamoto @yamoto

「……! もう!!」 とうとう浜風も限界を感じたのか、俺を押しのけサイドブレーキを力強く引いた。 その瞬間、車体が横に流れ、雨の道を斜めに車が流れる。 おお。ジェットコースター感すげえ。 「きゃああああ?!!」 やったお前が叫んでどうする。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 20:42:23
yamoto @yamoto

車はそのまま2回転半して、ガードレールギリギリで止まってくれた。 よし、セーフセーフ。 そこでようやっと浜風が俺の腕を掴んでいることに気づいた。 「……浜風?」 「………」 へんじがない。 ただのしかばねのようだ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 20:48:11
yamoto @yamoto

「……てい……とく」 お、生き返ったな。 リターンオブ浜風だ。 かと思ったらゾンビのように手を伸ばし、俺の首根っこを掴んで引き寄せる。 「バカですかバカなんですかバカでしょう貴方!!」 うわ。すごい怒った。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 20:57:58
yamoto @yamoto

「スリリングだったろう?」 「死ぬかと思いました! なんですかあのスピード!」 アクセルベタ踏みすりゃそうなるな。 「やめてって言ってもやめてくれないし!」 涙目で訴えられましても。 「なんで車で回されないとならないんですか!」 それはお前の仕業。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 21:02:13
yamoto @yamoto

「もう! 提督まで私のことバカに……して…!」 腕を掴んでこっちを睨み上げていたはずの浜風の目から、涙がぽろぽろこぼれ出す。 感情が爆発すると、多分こうなるタイプなんだろう。 なるほど、クールぶりたいわけである。 「ひぐっ……っ うっ…」 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 21:09:27
yamoto @yamoto

それからしばらく浜風は泣きやまなかった。 疎外感を感じていた空気、自分の取った対策の無為さ、その他の不満が涙声でぶちまけられる。 俺はその一つ一つに「そうだな」とか「そうかもな」と答えを返し続ける。 浜風の様子は年相応、というよりやや子供に見えた。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 21:14:40
yamoto @yamoto

「……落ち着いたか?」 「はい……」 そうして泣きやんだ後、浜風の鼻声が帰ってくる。 顔を見ないようにしてるがきっと、あの可愛らしい鼻は真っ赤だろう。 ああ、煙草吸いてえ。 こう問題が埋まってたらストレス溜まるわ。 ポケットから煙草を取り出した。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 21:19:16
yamoto @yamoto

「浜風──」 「えい」 ぱっと口から煙草が奪われた。 ありゃ? 戸惑う俺の前で、浜風が煙草を口にくわえてこっちに手を突き出す。 「提督、ライターください」 「お、おう?」 有無を言わせぬ迫力に、思わずライターを差し出してしまった。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 21:24:49
yamoto @yamoto

慣れない手つきでライターを擦り、煙草の先端に火を付ける浜風。 そのまま一気に煙草を吸い込む。 ジジジ、と音を立て先端が燃えていく。 おいバカ。 それはいくら何でも。 「ふぅ──えほっっ!! げほっ! げほ、げほっ!」 ほら、咽せた。 そら咽せるわ。 #不知火に落ち度はない

2014-07-06 21:31:48
1 ・・ 5 次へ