四大聖戦:第一戦闘フェイズ【熱砂漠の間】

抗いしは光焔の勇者 @Kouen_Hi 対するは颶風の魔王 @DeathWaltz_doll
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光焔の勇者 @Kouen_Hi

「……解り合わなきゃ解決しないのに、どっちも力づくで決めようとしてどうすんだ!」 風に全身を切られて、鼻血と血涙を流していた光焔。まだ立っている。 「颶風。お前は可哀そうだ。誰の気持ちも分かってやれない  そんなお前の気持ちなんて!今虐げられてる人々が考えてあげるわけないだろ!」

2014-09-29 17:29:08
光焔の勇者 @Kouen_Hi

馬鹿かよ、と呟いて 「……次で決める」 光の球を二つ、光焔の頭上に生んだ。 「距離があるほど威力が増える」 一粒ずつ颶風がいそうなところへ砂煙に向かって光の粒を跳ばした。

2014-09-29 17:29:13
光焔の勇者 @Kouen_Hi

「二千の残弾が打ち止めになるなんてことはない  颶風も僕を早く倒すようにしてくれ。僕は自衛で勝った方が今晩よく眠れる  ……先に僕達が裏切ったなら、人々(あいつら)のために戦うのも馬鹿らしいと思うし」 冷えきった声。颶風へ向けていた言葉の温度はもう無かった。

2014-09-29 17:29:18
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

「…はぁ?馬鹿じゃねーの」 輪唱のように重なる歌声。 それを一度区切って、少女は大嫌いな人間みたいに、不機嫌さを露わにしました。その口調も、普段の少女からは想像もつかない程に粗雑なものです。 「…さっき貴方、私を殺すって言ったじゃない」

2014-09-29 18:23:04
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

「今まさに自分がその力づくに頼ってるのに、私にお説教するの?」 「人々の気持ちがわからない?わかるわけ無いじゃないか、僕は読心術なんて使えない」 「ヒトには私の気持ちがわかるのですか?私と同じくらい、私がわかるのですか?」 「「…わからないくせに、わかってもらおうとするなよ」」

2014-09-29 18:24:50
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

ぱらり、ぱらり。 ひび割れた陶器の肌が欠け落ち、その中から少女の羽よりも更に黒い、何かが漏れ出し炎のように燻りました。 焼けてボロボロになったドレス。そこから覗く関節球体の腕を振り上げて、まるで指揮者のように、少女は風達に指示をします。

2014-09-29 18:25:14
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

先程青年は熱による攻撃を仕掛けてきた、それはつまり、炎系統の魔法を女神から授かったということでしょう。 炎に対する風は、普通に考えれば悪い相性です。けれど、ここには砂がある。 ありったけの砂を巻き上げて壁を作るように、熱を押し潰すように、少女は風をかき回しました。

2014-09-29 18:27:49
光焔の勇者 @Kouen_Hi

「女神様が僕を寄越した。つまり、もう話しあったり解りあう余地が無くなったと判断されたんだろう  度し難い理由も解ったが、もう手遅れだな。度しようがない」 顎に手を当て考えこむ。

2014-09-29 19:40:15
光焔の勇者 @Kouen_Hi

「攻撃力に乏しいだけで、攻撃力がないわけじゃないはず……ただ、この状況とあの風の威力を突破する穴が開くかどうか……」 小さく独り言し、光球を頭上に一つ置いたまま、もう一つを砂の風壁のすぐ前で爆発させた。 周囲が目を刺すかのような光の眩しさになり、温度も暑くなる。

2014-09-29 19:40:19
光焔の勇者 @Kouen_Hi

その爆発の中心を軌道上に、頭上にあった光球を投げ込んだ。 光がまだ舞い散っていて見えないが、穴が出来て壁の中へ行ければ、 砂風の中で再度の攻撃力に乏しい、光熱の爆発があるはずだった。

2014-09-29 19:40:22
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

「…女神はもともと、話し合う気、なんてなかったと思うけど」 ぶわりと僅かに少女の視界が開け、そこから光が差し込みました。 あ。口から言葉が漏れるのと同時、少女は外套を守るために再び身体を丸めます。 原因は少女にはわかりませんが、極端に薄れてしまった砂の壁。

2014-09-29 21:04:42
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

それではその熱を抑える事が出来ず、ひび割れた人形の身体に更なる熱が襲いかかりました。 「……っ」 ボロリと落ちたのは、少女の左手。そこから溢れ出た黒いどろりとした何かに少女は焦り、爆風からも、自分から零れるそれからも外套を庇いました。 外套を抱きしめたまま、震える唇を動かします。

2014-09-29 21:10:29
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

口から落ちる小さなその音は空気の波で増幅し、重なり、反復し、まるでノイズのような不快さを生み出しました。 ピアノの様な、ヴァイオリンの様な美しい音。それら全てをぐちゃぐちゃに混ぜ合わせた歪な音は、音の暴力と言える程に強大に膨れ上がり、青年に叩きつける様に放たれました。

2014-09-29 21:11:11
光焔の勇者 @Kouen_Hi

光が静まるのを眺めて感傷を映さない表情。 「何も言うまい」 それから少しして、暴風凶音が直撃する。 右腕と右腿がもげ、全身が弦楽器の弓に深く切られたように血を吹く。 「……これからだな」 左膝を立てて体勢を整えて、左手を構える。 光球を10個順番に生み出し、空中に浮かべた。

2014-09-29 23:23:30
光焔の勇者 @Kouen_Hi

「これ全部爆発させたら、勝負あった」 自嘲するような笑みを浮かべた。 「まあ、それが出来たらなんだが」 息と共に血を吐き出す。 「……僕が人々(みんな)の正義に疑問をもたずに戦えたら、眠り心地もよかったんだけど」

2014-09-29 23:23:44
光焔の勇者 @Kouen_Hi

「おやすみ。苦しかったよ」 光焔は左手を素早く右肩に添え、静かに横に倒れた。光球が霧散するように、範囲を広げ散っていく。 颶風の砂嵐までも包むように光の粒が、周囲一帯を包んで、光焔の死を演出した。 光に満ちた静かな空間で、紛れ込んだ硝子金属の投げ小剣が颶風の首を狩るべく飛んでいた

2014-09-29 23:24:13
光焔の勇者 @Kouen_Hi

狙撃の結果が出る頃に左膝で起き上がり、血を吐き出す。 「正々堂々戦ったら優しい人になることもない」 何かを堪える表情。荒く息と血反吐を吐き、 「僕ももう少しで終わりか  優しさを封印して勇者になったつもりだったから、悲しさしかないな」 首の裂け目から流れる多量の血を左手で拭った。

2014-09-29 23:24:42
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

「「私の大事な身体」」 「「大切な身体」」 「「よくも、よくも」」 ドロドロと、メラメラと、炎のように、水のように陶器の端々から漏れ出す黒。 それは少女がずっと人形の内に閉じ込めていた、愚かな彼女の本当の姿でした。 美しい人形とは裏腹に、酷く醜い黒い塊。

2014-09-30 07:28:46
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

人々に見捨てられ、堕してしまったものの成れの果て。 こんな姿を見られたら、きっと、たいそう嫌われてしまうことでしょう。優しい、あの仲間達にも嫌われてしまうと思うと、少女の胸は痛みました。 でも、それでも、彼女は彼らと交わした約束だけは守りたいと思いました。

2014-09-30 07:29:31
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

「…何あれ、倒れた?足でも切った?」 倒れる勇者、拡散する光。人の死というものをよく知らない少女はその状況に困惑し、とにかく吹き飛ばさなくては、と風を煽ります。 紛れた硝子ナイフには気づかず、風によって軌道を僅かに変えたナイフは彼女の夕焼けの瞳に突き刺さりました。

2014-09-30 07:30:08
颶風の魔王 @DeathWaltz_doll

「…なん、の…まねかしら」 ゆらり。ゆらり。少女の怒りに比例するように、溢れ出す黒が辺りに揺らめきます。 「「貴方は音を、舐めすぎだわ」」 巻き起こる風に全てを叩きつける様に、彼女は更なる音を生み出しました。 純粋な、音の攻撃。耳がおかしくなる程の轟音を。

2014-09-30 07:30:53
光焔の勇者 @Kouen_Hi

「ライト・ナイト。夜の朧気な光」 光球が一つだけ生み出され、広がり、そして颶風の体を全方位から包み焼き滅ぼそうとしました。 「ライト・ナイト。女神様の騎士」 光焔の勇者は、残る生命力全てを魔力として、包囲し攻めかかる光の粒らに全て分け与えました。

2014-09-30 12:42:29
光焔の勇者 @Kouen_Hi

そして、生命維持に必要な最低限の魔力を残した、光焔の勇者は 「ごめんな。やっぱり墓参りには行けそうにないや」 音の攻撃に、鼓膜から吹き出す血に、 「最後の攻撃だ、僕のスペルは自律しろ」

2014-09-30 12:43:03
光焔の勇者 @Kouen_Hi

左胸の傷がより深く心臓まで達し 首筋の傷が脈を刈り取り その他の傷も深くなり 「……颶風。今度は本当の、死だ」 うつ伏せに倒れて、その光焔の勇者は、本当に死にました。

2014-09-30 12:43:26
光焔の勇者 @Kouen_Hi

自律化した光熱の弾丸達は颶風を狙い全方位からそれぞれ直線の軌道で突進しました。 千の弾丸は速度は以前より3倍速く、熱の温度はやや高く、明るさは昼の太陽が反射した水面のように。 そして、硝子金属の小剣は瞳に刺さったままそれらの輝きを乱反射しました。 結末となる、勇者と魔王の邂逅。

2014-09-30 12:43:38