スパイスを探しに#3

冒険者の二人がスパイスを取りにあるダンジョンを訪れたときの話です。そこには不思議な老人がいて…… #1はこちら http://togetter.com/li/798275 #2はこちら http://togetter.com/li/801267 #4はこちら http://togetter.com/li/809985 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

――スパイスを探しに#3

2015-04-11 14:54:42
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(前回までのあらすじ:暴走したスパイス工場へ仕事で潜入を開始した赤錆鎧の騎士ミェルヒと画家のエンジェ。二人は草の生える坑道の奥で、謎の老人と出会う。通行料を払い老人と共に深層へと辿りつくと、そこは芋虫の巣だった)

2015-04-11 14:57:42
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ミェルヒは広いドーム状の空間に躍り出た。あちこちに機械があり、それらは糸で絡め取られていた。床は全面草原のようになっている……ただ、上層とは生えている草の種類が違う。赤い胡椒のような実をつけている。村の役場で見た、スパイスの特徴と一致する。ここに生えているらしい。 65

2015-04-11 15:05:03
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勢いよくドームの下に飛び出したが、ミェルヒはまず様子を見ることにした。一人で勇み足を踏んでも良いことは無い。老人に目くばせする。老人は、分かったとばかりに頷いた。やがて重機のランプが灯り、白い糸の向こう側で仄かに光った。僅かな振動。低く唸るような駆動音。 66

2015-04-11 15:08:43
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天井にレールでぶら下がっているクレーンが、重い音を立てて動き出した。糸がブチブチと切れて、スパイスの生えた草原に落ちていく。糸にしがみついていた牛ほどの芋虫が、振り落とされて地面に落下する。ミェルヒは素早く落下地点に移動した。衝撃で気絶している間に止めを刺すのだ。 67

2015-04-11 15:10:52
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しかし落下した芋虫は気絶しなかったようだ。半透明の皮膚を極彩色に点滅させて、ミェルヒを威嚇する。しかし、そんなことで怯むミェルヒではない。強靭な糸が吐きだされる前に素早く後ろに回り込む。そしてバシネットのスイッチを操作する。ゴオオと兜の発火装置が唸りを上げる! 68

2015-04-11 15:19:15
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そのとき、エンジェの叫ぶ声!「危ない、ミェルヒ!」 ミェルヒは攻撃を中断し後ろへ逃げる。その空間を貫く糸! 糸はスパイスの穂先を切断し、辺りに漂った。糸がどれほどの強度か分からない。ただ、自分の四肢を危険に晒してまでミェルヒはそれを試す気は無かった。 69

2015-04-11 15:22:13
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「クレーンのタイミングに合わせるのじゃ!」 老人の声。上を見るミェルヒ。ワイヤーで吊られたクレーンが、白い糸を引きちぎり大きく揺れた。「そこじゃ!」 クレーンは落下した芋虫めがけて鋭いフックを振りかぶる! 芋虫はそれに気付き、体の周辺に漂わせた糸を動かす。 70

2015-04-11 15:25:11
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精神力で制御された糸は、勢いをつけて落下してくるクレーンのフックに巻きついてその威力を殺そうとする。このタイミングなのだろう。ミェルヒは一気に踏み込み、中断していた発火装置を再起動させる。ゴオオと唸りを上げ、次の瞬間業火を噴出する! 芋虫は爆炎に包まれる! 71

2015-04-11 15:29:27
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芋虫はギチギチと甲殻を軋ませていたが、しばらく炙られているとそのまま抵抗も出来ずに焼け死んでしまった。スパイスに延焼しないよう、消火の魔法を発動させるミェルヒ。兜のモードを切り替えてシリンダーを起動させ、放った火を吸収する。「一匹終わり。あと何匹だ……?」 72

2015-04-11 15:33:30
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騒ぎを聞きつけて、何匹もの芋虫が集まってくる。老人は再びクレーンを巻き戻し、次の攻撃に備える。「各個撃破だ」 ミェルヒはそう言ってエンジェに合図をする。エンジェは自分が何をすべきか分かったようだ。魔法の絵筆を振って、破片の呪文を構築する。「イヒヒ、がんばるよー」 73

2015-04-11 15:36:06
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エンジェの絵筆の先に魔力の結晶が発生し、意志の力で射出された。生き物に当てる際は視線による暗示が必要だが、無機物に対しては無条件に効果を発揮する。魔力の破片はドームの奥、錆びた資材缶にあたってそれを崩した。音と動きに反応して、殺到する芋虫の何匹かがそちらへと向かう。 74

2015-04-11 15:38:03
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「おじいさん、クレーン頼む!」 ミェルヒに向かってくる芋虫は三匹に減った。彼は囲まれないよう注意しながらクレーンの下に移動した。「まかしとけ!」クレーンは再び稼働し振り子運動を開始する。上手くいくはずだった。しかし、芋虫の一匹がゲートの陰に隠れる老人に気付いた! 75

2015-04-11 15:40:52
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運の悪いことに、老人はクレーンの操縦に集中していた。硬く鋭い糸が老人に向かって殺到する! 「おじいちゃん、逃げて!」 エンジェはゲートの反対側の陰に隠れて叫ぶ。老人が振り向いたとき……白いワイヤーのような糸が、彼の目の前にあった。 76

2015-04-11 15:43:10
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「おじいさん、危な……」 ミェルヒは火炎で糸を焼き切ろうと思った。しかし、それよりもはやく糸は老人を絡み取った。ドームの入口、ゲート付近に大量の糸が殺到する。エンジェは命からがら逃げ出し、ミェルヒの元へと辿りついた。「ミェルヒ、おじいさんが……」 彼の姿は見えない。 77

2015-04-12 18:44:58
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老人は白い糸に包まれていた。次の瞬間、破裂音! 爆竹が破裂したような音が響き渡り、老人のいた場所に絡みついていた白い糸を弾き飛ばした。後には、紙吹雪が舞っていた。老人の姿は無い。白い糸は行き場を失いその場に漂っていたが、芋虫たちはミェルヒ達を見つける。 78

2015-04-12 18:47:11
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「おじいちゃん、どこへ……」 「分からない。魔法を使ったように見えたけど……それより僕らが危ない!」 糸の群れはミェルヒとエンジェめがけて空中に伸びていた。先程破片で誘導した芋虫も気付きつつある。「エンジェ、奥に逃げよう。ここだと囲まれる」機械の陰に隠れ奥の通路を目指す。 79

2015-04-12 18:49:22
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このまま戦いを続けるのは危険だった。戦力的には十分だが、老人を失ったと言う精神的動揺が戦況を悪くする。攻撃を再開するには一旦態勢を整える必要がある。二人は背の高いスパイスの草に身を隠して進んだ。 80

2015-04-12 18:51:38
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ドーム状の広い空間には、四方にゲートがあり通路へ繋がっていた。芋虫を避けて、そのうちの一つへとミェルヒ達は逃げ込む。ゲートは開いていた。「どうしよう、逃げ出さないと……」 「帰還の呪文を使おう。今回の依頼は失敗だ」 ミェルヒは鎧に内蔵されたシリンダーを起動させる。 81

2015-04-12 18:55:07
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押し寄せる芋虫。伸びる白い糸。しかし、いくらシリンダーを起動させてもカチカチと空回りするだけで帰還の魔法が構築されない! 「どうしたんだ……強い、魔法の影響下にあるかもしれない。より強い魔法が場を支配しているんだ」 「逃げよう!」 エンジェがミェルヒの腕を引く。 82

2015-04-12 18:58:25
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通路の奥には重機が格納されていた。天井に搬入用のレールが設置されていて、中は重機でひしめいている。隙間に入れば芋虫の太い胴体では入ってこれないだろう。糸も、視界が悪いので正確に二人を追うことはできないだろう。それを二人は確認し、重機の隙間へと入って行った。 83

2015-04-12 19:00:49
減衰世界 @decay_world

「この先はどこに繋がっているんだろう」 エンジェが不安そうに話す。ミェルヒはこういった坑道型ダンジョンの特徴をよく知っていた。「災害用に避難室があるはずだ。脱出路を備えている場合も多い。落盤や火災で生き埋めになるのを防ぐためだ」 二人はさらに奥へと進む。糸は追ってこない。 84

2015-04-12 19:03:53