同居する森と月とエイプリルフール

森「ニャン!(オレと)」 伊「わん!(オレが)」 森「ニャーニャーニャン(犬と猫になっちゃった話だ!)」
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同居する森と月bot @doukyomi5

(猫って水嫌いなのか。飼ったことないからわからないが) 伊月は犬になっても働き者だ。オレは洗濯物を干しているその背中をじっと見る。 (こういうのも久しぶりだな) 最近はオレは就活、伊月は部活の遠征で家にいない日が多く、顔を見るのは一週間のうち何回か、ってことが多かった。

2015-04-01 12:10:47
同居する森と月bot @doukyomi5

一日くらい、ゆっくりしてもいいかな、って気分にもなる。 と、その時オレのスマホが鳴った。LINEの通知が来てる。いつもフットサルをしてる友人から、昼から一時間位遊ぶからやりに来ないか、というお誘いだった。 「にゃーにゃー」 『伊月、フットサルやりに行っていい?』

2015-04-01 12:15:44
同居する森と月bot @doukyomi5

「わん?」 オレがスマホに打ち込んで伊月に示すと、書くものを持ってなかった伊月が眉をひそめて首を傾げる。おそらく、伊月のバスケは止めておいて、オレがフットサルをやりに行くことに難色を示してるのだろう。 『だってオレ尻尾出ないし、耳はフードかぶってたら隠れるだろ?』

2015-04-01 12:20:44
同居する森と月bot @doukyomi5

伊月はくちびるを指さす。 『声?は、風邪気味、いや花粉症だから喋るのタルいって言えば…』 我ながら苦しい。 けれど久々に身体を動かしたい。天気もこんなにいいんだ。外で思いっきり走り回りたい。そういう欲求には勝てない。

2015-04-01 12:25:40
同居する森と月bot @doukyomi5

残念ながらダメだった。 耳の隠れるフード付きパーカーと尻尾収納のゆったりしたパンツ、顔にはマスクで、格好は多少怪しくともなんとかなった。 だが、ボールを見てたら両手でじゃれついてごろごろしたくなる。どこまでも転がして追いかけたくなる。他人にパスなどもってのほか。

2015-04-01 13:50:42
同居する森と月bot @doukyomi5

ボールに対する人間離れした反応と執着を勝手に示したオレの身体と、なにより動きまわると被っていたパーカーが頭から落ちてしまう。 普段のオレなら、猫耳くらい、「罰ゲーム中でつけてんだ」くらいの言い訳はすぐに立つが、今は肝心の会話ができない。 フットサルどころではなかった。

2015-04-01 13:55:41
同居する森と月bot @doukyomi5

心配してついてきた伊月と一緒に帰り道をトボトボ歩く。そんなにがっかりしてる風に見えたのか、アパートの狭い階段を登ってる時に、仕方ないですよ、という風に伊月が頭をオレの肩にこすりつけてきた。ふわふわの耳の毛が頬にふれてくすぐったい。 動物っぽい慰め方だなあ、とぼんやり感じる。

2015-04-01 14:00:57
同居する森と月bot @doukyomi5

TVを見る気にもならず、勉強をする気も今一乗らず、オレは窓際で薄いカーテン越しのひなたぼっこを楽しんでいた。ちらりと覗く外には、満開になった桜が見える。 ちょっと思ったんだが、伊月は犬になって活動的になったみたいだが、オレは猫になって怠惰になった気がする。

2015-04-01 14:15:42
同居する森と月bot @doukyomi5

何もせずに、ただ麗らかな日差しを浴びてるのが気持ちいい。 (あー、寝ちゃいそー…) 昼寝って贅沢だよな。普段はできないし。 うつらうつらしてると、人の気配がした。 『寝るならベッドかソファが良くないですか?』 隣りに座った伊月が、そう書いたメモ帳のページを掲げる。

2015-04-01 14:20:40
同居する森と月bot @doukyomi5

硬いフローリングに直で寝てしまうのを心配したんだろう。 だけど無粋だ。 オレは笑顔で伊月の手からメモ帳とペンを奪い取る。 「わん?」 「んー…、 なー……」 目をぱちくりさせた伊月の肩を抱いて無理やり横にする。 おまえも一緒に寝るの。

2015-04-01 14:25:42
同居する森と月bot @doukyomi5

「わ、ふぁ、ふ、」 水仕事をしたからか、伊月の両手も身体も冷えている。オレより伊月が冷たいことはめったにないから、温めてやりたくて力いっぱい抱きしめた。 嗅覚も動物並になってるのかもしれない。普段より強く伊月のにおいがする。洗剤の匂いと、シャンプーの匂いと、肌のにおい。

2015-04-01 14:30:40
同居する森と月bot @doukyomi5

髪の毛をくんくん嗅ぐと、照れたのか伊月の身体が硬直してブワっと体温が上がる。尻尾が忙しく振られる。 あー、すごくかわいい。 恥ずかしがって避けようとするのを、腕に力を入れて封じ込める。 「!」 柔らかそうな毛並みの耳が目のすぐ下にあったので、耳の端っこを甘咬みしてみた。

2015-04-01 14:35:42
同居する森と月bot @doukyomi5

「ん、ンン、」 子犬がなくみたいな、鼻にかかった声。何回か耳を舐めたり噛んだりしてると、力の入ってた身体からくたくた力が抜けていく。ふっと耳に息を吹きかけたら、ビクっと体を震わせて、しがみつくように両手を伸ばしてきた。 (か、可愛いぃ…)

2015-04-01 14:40:40
同居する森と月bot @doukyomi5

もう!耳と尻尾付きってだけで可愛いのに! めろめろになりかけたところで、パーカーの裾を引かれた。頬の染まった伊月がなにかオレに訴えかけてきてる。 「ンニャ?」 紙とペンを持たない伊月は、くちびるを読ませることでオレに言葉を伝えようとしてるみたいだ。

2015-04-01 14:45:42
同居する森と月bot @doukyomi5

(おれも、みみ、さ、わって、いいですか、かな?) 笑って頷くと、伊月の顔が嬉しそうに輝く。指を伸ばして、オレの髪と猫耳に触れる。毛並みを整えるみたいに指先で撫でられた。 (くすぐって) 伊月がオレに触る時は、遠慮してるのか気を遣ってるのか、いつも優しすぎる。

2015-04-01 14:50:39
同居する森と月bot @doukyomi5

優しすぎて物足りないくらいだ。オレは壊れ物じゃないんだし、伊月より背もデカい年上の男だ。もっと遠慮なく触れたって構わないのに。 でも、優しく慈しむようにオレの髪と耳を撫でてくれるのは無条件に気持ちいい。 もういいよ、とジェスチャーで告げたものの、伊月はただにこにこ笑ってる。

2015-04-01 14:55:39
同居する森と月bot @doukyomi5

さっきの意趣返しかもしれない、身を起こしてオレの耳にくちびるを寄せた。 (最近、オレばっか甘やかしてもらってる気がする…) 特に付け根をなでられるのが気持いい。喉をぐるぐる鳴らしながら全身の力を抜く。日差しもあったかくて、無性に眠くなる。

2015-04-01 15:01:15
同居する森と月bot @doukyomi5

今眠るのは勿体ないと思うのに、午後の日差しと、オレの髪を撫でる一定の指先のリズムに眠気を誘われて、つい目を閉じてしまった。 オレだって伊月に甘えて欲しいし、頼ってほしいと思ってるのに、気づけば逆のほうが多い。伊月に頼りにされるような、ちゃんとした男になりたいのにな。

2015-04-01 15:05:41
同居する森と月bot @doukyomi5

(まあ、頼りがいは社会的・経済的基盤からだよな) そのためにも、就活頑張らないと。 眠くない、と頑張っていた自分がとろとろ小さくなっていく。 ゆっくりゆっくり溶けていく気配の中、まぶたと頬に、かすかにあったかいなにかが触れた。

2015-04-01 15:10:42
同居する森と月bot @doukyomi5

一時間、いや二時間くらい眠ってたのか。 いつの間にか薄手のタオルケットがかけられ、頭の下にクッションを敷いた状態でオレは目が覚めた。十分位寝たり起きたりを繰り返して、ようやくまぶたをこじ開けた所、間近に伊月の顔がある。一緒に寝てたらしい。

2015-04-01 17:05:39
同居する森と月bot @doukyomi5

(髪、伸びたな) 久々にじっくり顔を見た。 至近距離で見てもきれいな顔だ。ちょっと前までは少年っぽい潔癖さみたいな、硬くて近寄りがたいなにかがあったけど、最近雰囲気に柔らかさや艶が出てきたのは、オレがいるからだって自惚れていいのかな。

2015-04-01 17:10:44
同居する森と月bot @doukyomi5

男にこんなこと言うのもなんだけど、どんどん綺麗になってきてる、伊月。ちょっと心配になるくらい。 日が傾いてきてる。 町内会の、子供に帰宅を呼びかけるアナウンス。近くの家のカレーの匂い。夕方の、郷愁の空気。

2015-04-01 17:20:44
同居する森と月bot @doukyomi5

こういう瞬間に、意味もなく幸せだなって思う。 帰る家があって、そこには伊月がいる。人をちゃんと好きになって、その相手からも確かに好かれてるって信じることができるのは、ホントは途轍もなく難しいことで、幸せなことなんじゃないかって最近考える。 晩御飯、何にしようかな?

2015-04-01 17:25:40
同居する森と月bot @doukyomi5

カレーでもいいな。最近作ってなかったし。えーと、米は……。 「ニャッ!」 「キャン?!」 身を起こしたオレに起こされたのか、伊月が驚いたように声を上げた。眠そうに二度瞬いた伊月に向かって、オレは走り書きした紙を掲げた。 『やべ、冷蔵庫なんも入ってない』

2015-04-01 17:30:41
同居する森と月bot @doukyomi5

二人共家で食事を摂る機会が減ってたから、食材を買い込まないようにしてたのを忘れてた。冷蔵庫は見事に空だ。 近所のスーパーに買い物に行く。晩飯はカレーにしよう、というになった。伊月と買い物だって多分年末ぶりだ。 オレは一緒に買い物すんの好きだけどね、新婚さんみたいで。

2015-04-01 18:40:40