【ミイラレ!第十八話:町の神様たちのこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。昔話とか今後の対策とか。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/882965
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「砕かれた殺生石の破片は、それこそ日本の各地に飛散した」引き継いで説明を始めたのはイナメ。「その破片から多くの怪異たちが生じたの。『犬神』、『牛蒡種』、そして『オサキ』。この中にナナのご先祖様がいたってわけ」神は笑みをこぼす。「なかなか歴史的でしょ」51 #4215tk

2015-10-09 22:03:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「へぇ……」四季は感心の声とともにナナを見やる。なるほど、こっくりさんにも相応の歴史があるのか。『ま、そんなとこだ。いつかは俺もご先祖みたいにビッグな妖怪にだな』「だからってなんでもかんでも怪異を食べるんじゃありません。綺麗だった毛皮がもう真っ黒じゃない」52 #4215tk

2015-10-09 22:06:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

イナメの言葉にナナが渋い顔をする。なにか言いかけた彼女に、かぶせるようにして割って入る咳払い。怜である。「世間話はそのくらいにして。イナメ様」「様いらない」「……イナメ、さん。今日は」「あ、ちょっと待って」イナメが制止する。「立ち話もなんだね。話は中で聞こう」53 #4215tk

2015-10-09 22:09:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そう言って彼女が指差したのは社殿の方。つられてそちらを見た四季は目を丸くした。入り口の扉がわずかに開き、こちらを伺う目に気づいたからである。覗き込んでいた誰かも見られたことに気づいたのか、すっと闇の奥へと消えていった。「……まったく、ヒルメってば」54 #4215tk

2015-10-09 22:12:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

イナメが苦笑を浮かべる。「気になるなら素直に出て来ればいいのに。少しゆっくり行こうか」「どうしてですか?」「おめかしの時間くらいはあげたいからね。出不精なのよ、あの人」そう言って、彼女は楚々とした足取りで社殿へと向かっていく。四季と怜は慌ててそのあとを追った。55 #4215tk

2015-10-09 22:15:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

…………「社殿って初めて入ったけど、中はこんな風になってるもんなの……?」案内され、社殿の中に足を踏み入れた四季はあたりを見回し目を丸くする。どうみても外見とは合わない広さ。そもそも社殿を開けて普通に玄関口があるものだろうか。「そんなわけないでしょ」56 #4215tk

2015-10-09 22:18:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

冷静に呟いたのは怜だ。「ここはもうあのお二人の結界の中。普通の人間だったら立ち入ることなんてできないところだよ……まあ、でも」と、彼女は天井を仰ぐ。「御前様の結界と比べると段違いの規模だね」『喧しい。いくら妾とて現役の神には勝てんわ』吐き捨てるように朽縄御前。57 #4215tk

2015-10-09 22:21:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

今彼らがいるのは畳敷きの居間。イナメは用があるからと、彼らをここに案内してどこかへ消えた。なんとなく居心地の悪い思いを感じながら、四季は部屋の中を見回す。なぜ最新の家電が普通に置いてあるのだろう……と、不意に横手の襖が開く。そして眩い光が部屋を照らした。58 #4215tk

2015-10-09 22:24:36
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は思わず目を瞑り、手を目の前に翳す。そうでもしなければとてもではないが耐えられないほどの光量。後ろで朽縄御前が小さく呻いた。「……あっ、やべ。光量間違えた……」光の中、聞き慣れぬ声。それをきっかけに部屋の中の光が収まっていき、やがて元に戻る。59 #4215tk

2015-10-10 19:06:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

おそるおそる目を開くと、立っていたのは黒髪の女性。凛とした風貌の持ち主ではあるものの、その顔にはどこかバツの悪げな表情が浮かんでいる。「んん……大儀である。人の子らよ。我が天照大神である」それでも彼女が言葉を紡ぎだすと、部屋の空気が引き締まるようだった。60 #4215tk

2015-10-10 19:09:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「此度は如何な用で我が社に……あーだめだ。やめやめ。調子狂う」が、その雰囲気は数秒ともたなかった。突如として弛緩した空気の中を歩いてきた女神が、軽い調子で四季の隣に腰を下ろす。彼は思わずびくりと震えた。「そんな怖がらなくてもいいって。取って食いやしないよ」61 #4215tk

2015-10-10 19:12:27
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

呆れたように言った女神が、同じく目を丸くしている怜へ目を向ける。「君の方もあんまり硬くなんなくていいからね。イナメも言ってたと思うけどさ。ああ、あとあたしのことはヒルメでいい。気張るの面倒だからさ」一転してだらだらとした口調。二人は唖然と彼女を見る。62 #4215tk

2015-10-10 19:15:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『仮にもこの国を代表する神ともあろうものが、そのような態度でおってよいのか?』渋い顔で呟いたのは蛇神。ヒルメはやや口の端を歪めたのみだ。「そういう格式張ったのは、本社にいる『あたし』に全部任せちゃってるよ。そうでもないと肩が凝って仕方がない」63 #4215tk

2015-10-10 19:18:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

言いながらも、彼女の視線は四季に注がれている。見られた部分が熱くなるような錯覚すら覚え、彼は思わず身を引いた。「あの、なにか……?」「んー?いやいや、イナメが言ってた通りの子だなと思って。こう、自然と目を惹かれるんだよね。君、普段の生活大変だろ」64 #4215tk

2015-10-10 19:21:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

思わず面食らう四季を見て、ヒルメが微笑を浮かべた。「まあ、数日前のことは君に感謝しなきゃならないだろうな。あのままだと面倒なことになってただろうし」「え……あ、トリルのことですか」「そう。ここ一応あたしの管轄だから、怪異が暴れたら対処しなきゃなんなくてさ」65 #4215tk

2015-10-10 19:24:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

女神はやや困ったように眉を下げた。「仮にもあたしも神。真っ向から戦ってもあの悪魔相手には立ち回れる。けど」「けど?」「……霊気がねー。まずこの土地からもらわなきゃいけないから、相当に影響出ちゃうんじゃないかってひやひやしてたんだ。うん、何事もなくてよかった」66 #4215tk

2015-10-10 19:27:32
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ヒルメの言葉に四季は胆を冷やす。あのときは思い至らなかったものの、やはり大事につながる一歩手前だったのだ。なんとかできてよかった。「ま、それはそれとして。なんか用があるんだよね」「あ、はい!実は」勢い込んで話し出そうとする怜を、ヒルメは片手で制した。67 #4215tk

2015-10-10 19:30:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「うんうん、聞いてあげるよ。神様だからね。けど」と、彼女は背後を見やる。そこにやってきたのはイナメ。手に持ったのは盆に載せられたおにぎりとお茶。「ちょうどそろそろお昼時。ご飯くらい食べてきな。イナメのご飯は美味しいよ?」四季と怜は思わず顔を見合わせた。68 #4215tk

2015-10-10 19:33:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……「ごちそうさまでした」満腹感と満足感で溜息をついた四季は、ゆっくりと頭を下げる。怜も同様に。「あら、もういいの?まだ足りないんじゃない?」首を傾げて聞いてくるイナメに、彼らは笑って首を振る。彼女のおにぎりは格別に美味かった。が、これ以上は食べられまい。69 #4215tk

2015-10-11 20:18:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「美味しいだろ、イナメのご飯は。仮にも豊穣の神様だからね」「仮にも、は余計です。晩御飯少なくするよ?」「あ、それは困る」緩いやりとりを繰り広げる神様たち。ひと段落つくのを待ってから、ようやく怜が口を開いた。「……ヒルメさん、イナメさん。今日の用なんですが」70 #4215tk

2015-10-11 20:21:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

今度は神様たちも口を挟もうとせず、怜の言葉の先を促す。「この町に潜んでいる怪異について、お願いがあるんです」「怪異か」ヒルメがやや眉をひそめる。「特定の怪異、って考えていいんだよね」「ええ。一年前、学生三人を斬り刻んだ怪異をご存知ですか」「無論」71 #4215tk

2015-10-11 20:24:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

間髪入れずにヒルメは答える。「あれは最近の怪異が起こした変事にしては最大級だ。我々が見逃すはずもなし」「では、もう正体も?」「近年に発生した、通り魔タイプの怪異だったみたいね」イナメが言う。そこで四季は眉をひそめた。「だった?なぜ過去形なんですか?」72 #4215tk

2015-10-11 20:27:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「すでに手打ちにしたからだ。君らの言う怪異はもはや存在しない」ヒルメの言葉に、二人は目を丸くする。「あたしの金烏にイナメの御狐衆が、件の怪異を討伐している。消滅には我々も立ち会った。……変事の犠牲になった人の子らには悪いことをしてしまったけどね」73 #4215tk

2015-10-11 20:30:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ヒルメの表情が沈痛なものとなる。四季は思わず怜と目を見合わせていた。先輩たちの不安は杞憂に終わった。そう見ていいのだろうか?「……とはいえ、ねえ。どうもキナ臭いのよ最近」イナメの溜息に、二人の意識は引き戻される。「何か起こってるんですか?」74 #4215tk

2015-10-11 20:33:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜の言葉に、ヒルメが重々しく頷いた。「近年、怪異の数が緩やかではあるが増えてきていてね。ああ、先に言っておくと君のせいではないよ四季くん。君がこの町に来るよりも前から起こっていたことだし……何より、この町に限ったことじゃないんだ」四季は小さく目を見張る。75 #4215tk

2015-10-11 20:36:02