温室本丸つぶやきまとめ:3
実戦刀のお墨付きを貰った割下は一旦火を止め、炊飯釜の米の準備も注意深く再確認した。何よりも肝要は玉子の数で、新鮮で濃い、良いものを密かに買い求めたのだ。また堀川国広にどんぶり勘定をたしなめられるだろう。しかし価値はあった。玉子液を作って、手筈通り短刀たちが来るのを待つ。
2015-10-23 01:05:06「同田貫くんまだいるの?」「ハァ?いるに決まってんだろ、作らせろ」「あだっ」主が奇声を上げるのも構わず、同田貫正国は少女の頭をぽふと叩いて、三角巾ごしに髪をわしわし揉む。「…そうか!短刀の子達が来るのばっか気にしてたぞ」「むしろうちの総隊長殿の方が早ぇんじゃねえのか」「まさかぁ」
2015-10-23 08:55:46真白い割烹着で真っ先に来た山姥切国広であって、しかし自分が真っ先に作らずに列の整理に努めている。だからその次に来た薬研藤四郎からだ。小鍋のなかに鶏肉と透明になった玉葱の割下を、大鍋から好みの量だけ移し再沸騰させれば、腹のすく匂いが漂った。溶かした玉子をどぱりと注いで、蓋をする。
2015-10-23 09:13:27「たいしょ、これでいいのか?」「たぶん。はい」秋田藤四郎の鍋に肉を多めに分けてやりながら、審神者は蓋をした薬研藤四郎の問いに答えた。透明な蓋はすぐに湯気の体当たりで白く染まって、玉子の煮え方は推測するしかない。「頼りになんねえなあ」「主君苦手ですもんね、玉子綴じ」上手く行かない。
2015-10-23 09:19:33親子丼ね、鍋に玉子がくっつくの。玉子があんまりおいしくない。おかしい。そのわりにはつゆだくになっちゃうの。おかしい。どうしてだろう。作り方通りにやってみるんだけどだめなのよ。そして私は同じ作り方で切国くんに頼んだんだが奴は成功した。あと綴じるだけで任せて成功した。切国さまだった。
2015-10-23 14:52:39あちこちからひっくり返され、木の葉の山とも言えなくなった焦げた残骸の形跡を見るに、どうやら審神者がのんびり仕事をしていた間に相当数の刀剣男士がこの場を訪れ、焼き芋を掘り返して行ったらしい。三日月宗近の取り分である筈の最後のものに、一口だけ歯を立てる。よく熱が通り、甘味が染み渡る。
2015-10-23 20:15:16粗熱が取れて温かい、粘りつく食感を噛んで、嚥下してもまだ喉に甘味を残している。審神者の様子を三日月宗近は穏やかな笑みで見つめていた。「よい食べ振りだ。もう一口いるか」「三日月さんの分なくなるでしょ。ごちそうさまです」「そうか」彼はそこで退いて、皮を剥いでちまちまと食べ出した。
2015-10-23 20:30:37戦場の観測ではどっしり頼りがいのあるように見える、審神者が命懸けで喚び出した天下五剣のひと振りも、芋を小さくかじっては美味いと頷く姿は、随分と子ども染みて見えた。どちらも彼である処で、審神者がこそりと縁側に立て掛けられた竹箒で落ち葉を集め直すのに気づかない様も、和ましいものだ。
2015-10-23 20:38:31春の備えを始めた桜の陰に軽く集めて、木枯らしに吹き飛ばされないように竹箒を被せる。誰かに塵取りを頼むかしたいところだ。審神者は今はもう少し居たいかなと、自身こそ子どもの欲に逆らわず、三日月宗近の側に座り直す。彼はもう一口欲しいのかとでも思ったのか差し出してきて、手振りで辞退した。
2015-10-23 20:45:50「俺が」はくり、小さく食む動作の合間に、三日月宗近はぽつりと思い出を語る。「何れ程昔だったか。せーらー服の娘たちが俺を見に来るくらいの…、まあ昔だ」「21世紀から22世紀終わりくらいまでかな」繰り返すのではなく、詳しく言ってしまうのは、審神者の時に悪い癖の一つだ。彼は鷹揚に笑う。
2015-10-23 21:03:30「まあ、その位か。お主はやはり、推理が得意なようだな」「じゃないって。誤解が継続している…」「ははは」三日月宗近が芋を差し出せば、審神者は不満気な顔で、今度こそはぐりと容赦なく食べた。少し冷めが加速しているが、それでも甘い。「でだ。その娘御達の中にな。芋を喰っているのがいてな」
2015-10-23 21:21:41「芋」短く繰り返して、思考が進まないことを自分で悟る。「芋…」「うむ。それが実に美味そうだった」当時の三日月宗近の居場所は国立博物館だった筈で、審神者は行く機会はなかったが、深く考えずとも飲食不可だが。「すごい叱られてなかった?」「すごい叱られておったな」そりゃそうだ。
2015-10-23 21:35:48「お主の昔はどうだ」「え?」話題をこちらに求められ、審神者はきょとんとして三日月宗近を見た。作務衣の端で口を拭いながら、彼は無邪気に「うむ。俺が話したからな。お主の昔も聞きたい」とはっきりと繰りかえす。なるほど、そういう話運びかと感心もするが、審神者の表情は一瞬こわばった。
2015-10-23 21:44:51「…あー。おばあちゃんがね」「うむ」頷く役が代わって、三日月宗近は話せ話せとばかりに芋を齧って頷くのみだ。「……今の私くらいか、な?まあ17歳ね。2162年の11月、東京に修学旅行に出た時に博物館に行ったのね」彼は頷くのみなので、ぴんと指を伸ばして数を示す。「一人が歴史好きでね」
2015-10-23 21:50:54悪く言ってしまえばオタクである。「セーラー服のグループのうちの一人は余り興味がなかったのだが、優秀なナビによってどんどんはまっていったのですよ。しかし、途中で腹が減った。そこで」「買っていた芋を喰ったと」オチを言い当てられて、要するにちょっとした偶然、微かな関係についての話だ。
2015-10-23 21:56:56「これは上手くはぐらかされたか」少なくとも昔のこと、確かに祖母から聞いた昔話だ。何のことやらと審神者は目を伏せた。口の中の甘さはとうに冷めていたが、舌で舐めると暖かさが蘇る。「まあ、おばあちゃんももう亡くなったろうから。…ひょっとしたら人違いかな、でもね。覚えていてくれて嬉しい」
2015-10-23 22:05:04別れた時にはもう祖母は70を数えていて、そしてもう何年も経った。「会いたいか」「うーん。いや。今はみんながいるからね」住めば都だよ、と彼女は枯れ桜の根本の使い込まれた竹箒を見つめた。「おじいちゃんは会いたいって言ったら、ほんとに会わせてくれそうだよね」三日月宗近の片鱗は見ている。
2015-10-23 22:10:08「…」少女の横顔を見つめる三日月宗近の月の瞳が、視界の外で口を開きかけ、閉じる。祖母の洋服の裾ではなく、被るのに調度良い白い布が廊下から現れて、審神者は「切国くん」と立ち上がったからだ。三日月宗近は食べきった芋をぺろり舐めて、皮も足元に隠す。近侍は確実に食べていないので、正しい。
2015-10-23 22:21:16「主、ここにいたのか」今そばにいるかみさまは審神者にそう言って、ファイルに挟んだ書類を一枚示した。「やり残してた?」「その態度、態とじゃないな。ならいい。急ぎじゃないみたいだからな」「ああ、いや今やる。折角持ってきてくれたもの、有難う切国くん」ファイルとペンを受け取り、目を通す。
2015-10-23 22:30:12「なあ切国よ」「何だ、三日月宗近」読み込む集中で一瞬意識が途切れた。「何を言っているんだか」「どしたの?」顔を上げると、渋面を作っている山姥切国広の顔が直ぐ側にある。「三日月宗近に、365わる9と」「小数点切り上げで41日。…どうしたの、おじいちゃん」計算が早いな、ずれた返事。
2015-10-23 22:36:48何か集中を書類に注いでいる間に珍事があったらしいが、聞く前に口元を白い指で擦られる。「芋が」「何の話かな」「写しとはいえ、俺の目は誤魔化せないな」いや違うから!ふたくちだけ!三日月宗近は暫く瞳を細めていたが、やがていつもの微笑みに戻り、そのやりとりを見やってくる。「三日月さん!」
2015-10-23 22:44:58”担当さん”からメールが届いた。本丸での酒造はありか、という秘匿本丸での行為に対する確認。私は念のため思いつく限りのその辺りの記録を見てから、いいですよ、と返信する。「そうなのですね、酒造なさるのですね……すごいな、そう設計したのって実質わたしですけど、その暇を分けて欲しいな…」
2015-10-24 13:08:14ちょっと仕事が増えたので、休憩を切り上げてタスクを確認した。初年度は成功するかは不明だが、貯蔵タンクの調達が急務だろう。いくつかの通常の本丸も似たような業務用の備品を欲しているという報告を以前に読んだので、これを機に会議を持って流通経路の設置を提案したい。つまりは根回しが必要だ。
2015-10-24 13:14:46@tkhime_TL いつもの温室本丸のところの山姥切国広です。止まってる方の別の主の話の山姥切国広はまた機会があれば。
2015-10-24 21:33:51