ニンジャスレイヤー二次創作【テンダー・ホワイト・ドラゴン・アンド・ブルタル・レッド・ブラック・ドラゴン】#6
(静かな殺気を宿した白装束のニンジャは、同じ白色のメンポを懐から取り出して装着した。中央には、赤と青、二種の鮮やかな原色で描かれた神秘的トモエ図形。その図形を挟んで左右に、ミンチョ・フォントで丁寧にカンジが刻み込まれている。向かって左側に「跆」。右側に「拳」。)
2016-05-18 23:29:09(ニンジャスレイヤーは油断なく、ゆっくりと歩を進める。試合フィールド中央、タタミの色分けにより示された試合開始位置へ。向かい合うニンジャの眼光が、つい3日前に会ったばかりのペク・ミナの瞳とオーバーラップする。夫への揺るぎない信頼と愛情を思い出す。彼女の依頼は既に完遂した。だが。)
2016-05-18 23:34:33(白装束と白銀の髪のニンジャは、両腕をピタリと身体につけてオジギした。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ペクヨンです。――貴方を、殺す」赤黒のニンジャは、両の掌をピタリと合わせてオジギした。「ドーモ、ペクヨン=サン。ニンジャスレイヤーです。――ニンジャ、殺すべし。慈悲はない」)
2016-05-18 23:37:26厳粛なるアイサツが終了した。オジギ姿勢を戻して直立不動姿勢となった両者の視線が、ほんのわずかな瞬間、交錯した。テコンドー・コートの試合開始距離はタタミ1枚程度。一歩踏み込めば拳が届く距離――だがその一歩の距離こそが、蹴り技の、すなわちテコンドーの間合いを形成するのだ。
2016-05-18 23:41:43アイサツ終了後コンマ2秒、ニンジャスレイヤーが先手を取る!「イヤーッ!」ノーモーション・ポン・パンチ! 右の拳でペクヨンの鳩尾を打ち抜かんとする! 一歩の距離をどう詰めたのか? その秘密は、静止状態から一瞬で素早く大きく前に踏み出すジュー・ジツの歩法、オクリ・アシ・ステップだ!
2016-05-18 23:45:24「イヤーッ!」だがペクヨンは、視界の下から飛んできたニンジャスレイヤーの拳を、身体の外側へと捌いた。右腕による巧みなマワシ・ウケ、即ちワンハンド・サークルガード! ――右腕? 然り。ペクヨンは右手右足を前に出したサウスポースタイルの構えを取っている!
2016-05-18 23:48:44ニンジャスレイヤーは、相手がオーソドックススタイルで構えることを前提にポン・パンチを放った。ペク・ファランは、TKグランプリの試合でも、ドージョーでの指導でも、サウスポーで構えたことは一度もなかったからだ。だが――ニンジャスレイヤーは思い返す。一昨日のドージョー取材の最後の場面。
2016-05-18 23:51:57色紙を渡した際、彼は左手でサインを書いた。心理的警戒の緩んだ一瞬に表れる本質。そして、TKグランプリの試合は全てヤオチョ・フィクスド・ファイトであり手加減をしていたと、当の本人が言っていたではないか。そう、ペクヨンの利き手・利き足は左! サウスポースタイルが本来の構えなのだ!
2016-05-18 23:55:19左右の構えの違いにより、ニンジャスレイヤーの距離感にショウジ紙一枚分のズレが生じた。ポン・パンチを捌かれたのはそのためだ。身体の右側面を相手にさらす形。「イヤーッ!」「グワーッ!」立て直すより早く、ペクヨンの左膝がニンジャスレイヤーの脇腹に食い込む! 重い衝撃がレバーを揺らす!
2016-05-19 00:01:25すかさずペクヨンはニンジャスレイヤーの後頭部を掴み、右肘で顔面破壊を狙う!「イヤーッ!」躱せない! ニンジャスレイヤーは咄嗟に顎を引き、肘に対して頭突きをぶつけるように動いた!「イヤーッ!」ガゴッ! 硬い骨と骨が激突する異音!「グワーッ!」「ヌウーッ!?」ペクヨンの右肘にも痛み!
2016-05-19 00:05:01頭部とレバーの痛みに耐え、ニンジャスレイヤーは素早くペクヨンの右腕を取った! イポン背負いからのサブミッションを狙う!「イヤーッ!」「イヤーッ!」だがペクヨンは投げられる勢いを利用して自ら高く跳躍。腕のクラッチを振り払って空中回転着地した。
2016-05-19 00:08:41(ヌウーッ……!)ニンジャスレイヤーは内心で呻く。膝蹴りも肘打ちも、本来テコンドーには存在せぬワザである。初撃のポン・パンチが有効打とならずとも、一気にワン・インチ距離まで入り込めば己の優位に運ぶと考えていた。ウカツであった。ニンジャのイクサは「ナンデモアリ」なのだ。
2016-05-19 00:12:34ペクヨンは再びサウスポースタイルで構える。小刻みで不規則な跳ね足。気づいたときには距離はタタミ1枚。即ち、テコンドーの間合い!「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」左フラミンゴでの右上段・中段・上段、すかさず足を踏み替えて左上段回し蹴り!「グワーッ!」テンプルに痛打!
2016-05-19 00:18:12ペクヨンの猛攻が続く!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」左右のチャギ・キックが、恐るべきスピードとリーチで、加えて変則的にタイミングをずらして襲いかかる! ニンジャスレイヤーのカラテをもってしても全ては受けきれぬ!
2016-05-19 00:21:09「イヤーッ!」「グワーッ!」左の跳び後ろ回し蹴りがニンジャスレイヤーの顎へ! 耐えて反撃!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」左チョップ突き、右ミドルキック、いずれも躱される! 胸と胸が正対しないサウスポー相手の戦いで生じる、ショウジ紙一枚の距離感のズレ!
2016-05-19 00:24:13「イヤーッ!」ペクヨンの右ロー!「イヤーッ!」左膝を上げガード!「ッイヤーッ!」すぐさま右ハイ、ではなくフェイントからの二段蹴り! 真下から左足を跳ね上げる!「グワーッ!」両腕ガードの隙間から顎をかち上げられ、のけぞるニンジャスレイヤー! さらにペクヨンの左中段後ろ回し蹴り!
2016-05-19 00:27:27「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは後方に倒れかかった自分の動きを利用し、唸りを上げるペクヨンの左脚をブリッジ回避! 通り過ぎた瞬間に起き上がる! ペクヨンはメイアルーア・ジ・コンパッソめいてそのままもう一回転、さらに加速を付けた後ろ回し蹴りを上段へ!「イヤーッ!」
2016-05-19 00:30:29スピードはあれど単純な軌道の蹴り。ドウグ社製ブレーサーであれば受け止められる。相手のリズムを崩してワン・インチ距離へ――だがインパクトの直前、カタナの鋭さで飛来したペクヨンの左脚は突如、鞭めいてしなやかに曲がった。ニンジャスレイヤーが頭の横に挙げた右腕と、首筋を巻き込むように。
2016-05-19 00:33:14「イヤーッ!」「グワーッ!」首の後ろに引っ掛けられたペクヨンの左踵によって、ニンジャスレイヤーは力任せに地面へと引き倒され、うつ伏せに叩きつけられた! モータル相手の試合では見せるまでもなかった、テコンドーの妙技! コロチャギ・フックキックだ!
2016-05-19 00:37:53ペクヨンは即座にニンジャスレイヤーの頚椎を踏み砕かんとする!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ズドム! タタミが足裏の形に陥没した。間一髪、ワーム・ムーブメントで回避したニンジャスレイヤーは、そのまま転がって起き上がった。ペクヨンは追わない。距離が開くのはペクヨンに有利だからだ。
2016-05-19 00:41:28踏みつけの衝撃音が低い残響となって、消える。ひとときの静寂がドージョーを満たす。両者の距離はタタミ3枚。最初の肘打ちで傷ついた額から、一筋の血が眉間を流れ落ちる。ニンジャスレイヤーはペクヨンの動きにいつでも反応できるよう身構えたまま、呼吸を整える。「スゥーッ……ハァーッ……!」
2016-05-19 00:44:40額を流れ落ちる血液が、赤い蒸気となって空中に溶けた。ニンジャスレイヤーの右目にセンコめいた真紅の光点が宿る。歴史の闇に秘匿された暗殺拳チャドー、その根幹を成す呼吸法により、ナラク・ニンジャの有する超常の力の一端がニンジャスレイヤーの肉体を通して現出するのだ。
2016-05-19 00:47:44ニンジャスレイヤーのアトモスフィアの変化を、急激なカラテの充実を、ペクヨンは阻止しなかった。何故なら。「コォーッ……!」ペクヨンもまた同時に、特殊な呼吸法によってその肉体に何らかの変化を呼び起こしていたからだ。銀白色の両目はかすかに発光し、呼気が真冬のように白く煙っていた。
2016-05-19 00:52:40