アメーバの仲間「粘菌」はカレー粉がお嫌い?食べようとチャレンジする姿になぜだか愛嬌を感じる

絶対、脳あるでしょ
61

飼育している粘菌にカレー粉を与えてみた様子を映した動画がX(Twitter)で話題になっている。

勢いよく近付いたかと思うと、ピタッと停止
ジリジリと近づいてみるも…
何もせずに退散

動画を投稿したのは、普段から粘菌を親子で飼育し生態を観察して楽しんでいるという、マメホコリ工房 片岡祥三(@kataoka5233)さん。

片岡さんによると、粘菌(変形菌)は陸上に進出したアメーバの仲間で、朽ち木や枯れ葉などを分解するバクテリアやカビ、キノコなどを食べる生きものだそう。朽ち木や枯れ葉などがある環境の庭や公園・山・キャンプ場など、どこにでも存在している身近な生きものなんだとか。

今回、イタモジホコリという粘菌にカレー粉を与える様子を9時間分撮影した動画を再生速度を上げて投稿したが、実際は1時間に1cmほどの移動スピードだったそうだ。

動画の粘菌はカレー粉めがけて寄ってきたかと思えば一旦停止し、再度カレー粉めがけて移動。近くまで来たものの、食べられないと判断したのか一目散に撤退していく姿が映っていた。近寄ろうとしたりためらったりと、まるで神経系があるような動きに驚かされる。

動画を観たXユーザーからは、「まるで誰かが『逃げろ!』と号令をかけたかのよう」「絶対脳みそある」など、粘菌の情報伝達や判断の仕組みに関心を寄せる声が集まっていた。

「与えてみたシリーズ」とあるように、これまで粘菌にさまざまなものを与えて観察してきた片岡さん。粘菌の反応について詳しい話を聞いた。

愛嬌のある反応に知性を感じる

粘菌はカレー粉にどんな反応を示すと考えていましたか?

皆さんは「粘菌がカレーなんか食べるはずないでしょ?」と思われるかもしれません。しかし、検証を重ねていると「こんなもの食べるの?」というようなものを食べ予想を裏切られることがたくさんありました。やってみないとわからないので、先入観を持たずに試してみるということを続けています。

カレーについては、食べないだろうと予想していました。結果は食べなかったのですが、その動きや行動がとても面白かったんです。

カレー粉ですから匂いも強くそれに反応したんだろうと思いますが、粘菌は少し近づくものの立ち止まってしまいます。しばらくすると更に近づきますが、これはダメだという判断をして一目散に逃げました。その逃げ足が速いこと。この行動がとても愛嬌があり、知性を感じてしまいます。

さらに24時間後にまたアタックし少しカレー粉の山を登りった時には「チャレンジャーだな」と思いながら再び撮影を開始しました。

カレー粉はターメリックやコリアンダー、ブラックペッパーやクミンなど、いろんなスパイスを混ぜています。ほとんどのスパイスは苦手なようですが、そのなかでも食べたいものがあるのかもしれませんね。なんだか行動が人間的で好感が持てるんです。

これまでの「与えてみたシリーズ」でも、粘菌はコーヒー豆やブラックペッパーに対して回避行動を取っている。これらの食材に共通点はあるのだろうか?

粘菌はどのような点で食べる・食べないを判断しているとお考えですか?

粘菌による食べる食べないの判断は、これまでの検証を見てもとても難しいです。

例えば、一回触れて離れた対象でも、24時間後にまたアタックして覆うこともあります。また、食べようと覆ってみても結果として食べられなかったということもあります。

粘菌は匂いを感じ取る能力があると知られているため、ものを食べる判断要素の一つは匂いだと思いますが、基本的には触れてから「食べられる・食べられない」の判断をしているようです。

また、粘菌の種によって食性が違います。針葉樹に出るタイプ、広葉樹に出るタイプ、土壌性のタイプなど、生息環境が違うので当然ともいえます。

まだまだ食性も謎な生きものです。なにせ初めて与えた牡蠣にがっつきましたから、不思議です。

粘菌の飼育・観察を続けている理由を教えてください。

 「与えてみたシリーズ」は、原木キノコ農家さんからの「栽培きのこが変形体に食べられて困っているのですが、駆除する方法はないでしょうか?」という相談をきっかけに始めました。

我が家は親子で粘菌を飼育して可愛がっているもので、うちの子たち(粘菌)が迷惑をかけて申し訳ないという気持ちに…(笑)。駆除するのはかわいそうなので、住み分けを考えるために好きなものと嫌いなもの、忌避する食べ物や成分を長男と次男とでいろいろ調べ出しました。

もう一つの始めた理由は、何を食べているかわからない種を飼育維持するためです。飼育を始めて10年が経ちましたが、毎日親子でタッパー60個くらいの十数種類の変形体を飼育してお世話をしています。

この粘菌という生きものは、まだまだ研究が進んでいなくて未知の能力が眠っているのではと感じます。知性のはじまりだとする研究もなされていますが、まさしくそのような行動をよく見かけます。目の前で起こった事象や行動を考察するのですが、説明がつかない。ここになにかあるなと思わせてくれます。そんな生きものが身近なところに住んでいて、我が家に刺激を与えてくれています。こんな面白いヘンテコな生きものを知らないなんてもったいないなと思っています。

また、最近では子実体(※)を探してSNSで発信する愛好家も増えてきました。森の宝石と呼ばれる色とりどりの子実体の美しさに魅せられる人もどんどん増えています。

世界に約1000種、日本では約600種ほどが見つかっていますが、まだまだ日本で見つかっていない種や新種もいると思います。そういう意味ではただ見つけるだけはなく、新しい種を見つけると学術的な貢献にもなります。

遊びながら楽しみながら学術的な貢献にもなるという、一石三鳥も四鳥にもなり得る存在だと思っています。そんな愛らしい存在に興味を持っていただければと思います。

(※)胞子が形成される部分が集合した、キノコのような形のもの。

不可思議なことがたくさん起こるのが粘菌の世界

生態がまだ明らかになっていない粘菌。ただ今回の動画を観るに、どうにも独自の情報伝達回路を持っていると考えずにはいられない。

片岡さん親子が10年に渡って観察を続けるのもうなずける、未知の魅力を持つ粘菌の姿だった。

記事中の画像付きツイートは許諾を得て使用しています。
61
書いた人
中野ようす

野生のフリーライター。本とお笑いを摂取し日陰で眠り、たまには濡れた犬の匂いが嗅ぎたい。Twitter:@nakano_books