『十二国記』シリーズ、どこから読むべき?丸善ジュンク堂書店と三省堂の書店員さんが語るガチ座談会【前編】

あなたの『十二国記』はどこから?
220

X(Twitter)で2024年1月、『十二国記』がトレンドワードになりました。

『十二国記』といえば、小野不由美さんが1992年に『月の影 影の海』(当時は講談社から刊行。現在は新潮社)を発表して以来、30年以上にわたり続いているファンタジー小説。現実世界と異世界を舞台に繰り広げられる壮大なストーリーで、累計発行部数1280万部(2019年9月時点)を突破している人気シリーズです。

『十二国記』作品紹介

十二国図(公式ホームページより引用)

我々が住む世界と、地球上には存在しない異世界とを舞台に繰り広げられる、壮大なファンタジー。二つの世界は、虚海という広大な海に隔てられ、「蝕」と呼ばれる現象によってのみ繋がっている。異世界では、神々が棲む五山を戴く黄海を、慶、奏、範、柳、雁、恭、才、巧、戴、舜、芳、漣の十二の国々が、幾何学模様のような形で取り囲んでいる。それぞれの国では、天意を受けた霊獣である「麒麟」が王を見出し、「誓約」を交わして玉座に据える。王は、天命のある限り永遠の命を持ち、国を治め、麒麟は宰輔として側に仕える。それぞれの国を舞台に繰り広げられる深遠な人間ドラマは、私たちに「生きる意味」と「信じる強さ」を問いかける大河小説といえる。 また、NHKアニメ化(2002~2003年)でも話題となった。

新潮社『十二国記』公式ホームページより引用

今回のトレンド入りは、『十二国記』を読み始めたXのユーザーが作品を読み進めながらリアルタイムで感想を綴ったことで、同作のファンが大いに盛り上がったことが理由の模様。かくいう筆者(編集部)も、新規ファンのみずみずしい感想を頷きながら読んでいました。

『十二国記』はどの順番で読むのが正解?

さて、先ほど「1992年に『月の影 影の海』を発表して以来」と書きましたが、この一文に「ちょっと待った」と違和感を覚えた『十二国記』ファンもいるのではないでしょうか。

何のこと?と思った方に説明すると、実は『十二国記』シリーズには「どの作品からどういう順番に読めばいい?」という議論が存在します。

今回のようにX上で『十二国記』がトレンドになると、それに続くかたちで「読む順番」についても話題になるケースがしばしば。各書店では同テーマによるフリーペーパーなどが用意され、公式ホームページでは「『十二国記』の歩き方」という書評家による案内ページがあるほどです。

どうしてこのような話題があるかと言うと、『十二国記』シリーズで描かれている内容が、非常に多岐にわたることが理由として考えられます。

たとえば前述の『月の影 影の海』は、公式で「シリーズの本編第一作」と紹介されていますが、実際の刊行順は『魔性の子』のほうが1991年発表と先です。一方で『魔性の子』は、その後のシリーズ本編とは内容が少し離れているため「エピソード0」と位置づけられており、人によって読むタイミングが違うようです。

さらに『十二国記』は、エピソードによって描かれている時代が数百年も異なる場合があるため、刊行順ではなく「作品の世界で起きたエピソード順に読む」といった楽しみ方も存在しています。

『十二国記』エピソードリスト
0『魔性の子』1991年発売
1『月の影 影の海(上下巻)』1992年発売
2『風の海 迷宮の岸』1993年発売
3『東の海神 西の滄海』1994年発売
4『風の万里 黎明の空(上下巻)』1994年発売
5『丕緒の鳥』2013年発売
6『図南の翼』1996年発売
7『華胥の幽夢』2001年発売
8『黄昏の岸 暁の天』2001年発売
9『白銀の墟 玄の月(全4巻)』2019年発行

※数字はエピソード順(新潮文庫版に準じています)

筆者の場合、『月の影 影の海』から刊行順に読み進め、『魔性の子』は2002-2003年のアニメ放送後に読んだ記憶があります。しかし実際のところ、『十二国記』シリーズを楽しむ上で最適な「読む順番」はあるのでしょうか?

そこで丸善ジュンク堂書店(@junkudo_net三省堂有楽町店(@yrakch_sanseido、2つの大手書店の店員さんに協力してもらい、『十二国記』を語り尽くしてもらう座談会を実施。気になる「どこから読めばいい問題」を始め、『十二国記』シリーズの魅力をたっぷりと語っていただきました。

前後編の2回にわけてお届けします!

今回の座談会メンバー

丸善ジュンク堂書店・北山さん。大学生時にアルバイト先の書店で『十二国記』に出会う。00年以前の講談社X文庫ホワイトハート刊行時代からのファン。

三省堂書店有楽町店・山口さん。同店での『十二国記』担当。大学生時の書店アルバイトに作品と出会い、「気がついたら読んでいた」という。

Togetterオリジナル編集部(ライター&担当編集)。『十二国記』ファンでありシリーズ全巻&アニメ履修済みだが、書店員2人の熱量にタジタジ。

いきなり結論、『十二国記』はどこから読んでも面白い

今日はお集まりくださりありがとうございます。さっそく本題に入りますが、これまで10作15巻を発表している『十二国記』シリーズですが、読む順番に正解はあるのでしょうか?

ないんじゃないですか?(即答)

私もそう思います。

いきなり企画終了してしまいましたが…、話を続けると「どの順番で読んでもOK」ということでしょうか?

そうですね。読む順番に正解がないのが『十二国記』の素敵なところだと思います。

とはいえ、やはりエピソード1にあたる『月の影 影の海』から読み始める方が一番多いんじゃないでしょうか。

『月の影 影の海』は上下巻とボリュームがあるので、興味を持って読み始めたものの完走するのがちょっと大変という声も聞かれます。

小野不由美 著『月の影 影の海』(新潮文庫刊)

エピソード1 月の影 影の海(つきのかげ かげのうみ)上下巻

「お捜し申し上げました」──女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨(さまよ)う陽子は、出会う者に裏切られ、異形(いぎょう)の獣には襲われる。なぜ異邦(ここ)へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤(どとう)のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸(ほとばし)る。シリーズ本編となる衝撃の第一作。

新潮社公式ホームページより引用

何とかリタイアせず下巻まで読んでほしい気持ちはあります。上巻はものすごく辛いところで終わるんですが、それでも下巻まで読めばいろんなことがわかってくる。

それもあってみなさん「ネズミが出るまで待ってを合言葉に応援するんですよね。

※編集部注:「ネズミ」とは『十二国記』シリーズに登場する主要キャラクターの一人、楽俊(らくしゅん)。エピソードによっては彼が登場するタイミングで物語が好転していく傾向にあるため、ファンの間で「ネズミが登場するまで頑張って読んで」が合言葉になっている。

ちなみにお二人は書店員としてお客さんから「どの順番で読めばいい?」と聞かれた場合、どう案内しますか?

2019年にシリーズ最新刊『白銀の墟 玄の月』が発売した時、丸善ジュンク堂書店では「これから読むあなたへ」として2つの例を挙げました。

2019年の新刊発売に際して用意されたガイド
丸善ジュンク堂さんは王道の2パターン

例に挙げた2つの違いは「いつ『魔性の子』を読むか」でしょうか?

そうですね。ただ、これも社内では「(読む順番は)この2つだけじゃないはずなのに、代表として挙げるのはいかがなものか」と紛糾したんですが、「SNSに載せるものなのでとりあえず今回はわかりやすく」ということでこうなりました。

小野不由美 著『魔性の子』(新潮文庫刊)

エピソード0 魔性の子(ましょうのこ)

どこにも、僕のいる場所はない──教育実習のため母校に戻った広瀬は、高里という生徒が気に掛かる。周囲に馴染まぬ姿が過ぎし日の自分に重なった。彼を虐(いじ)めた者が不慮の事故に遭うため、「高里は祟(たた)る」と恐れられていたが、彼を取り巻く謎は、“神隠し”を体験したことに関わっているのか。広瀬が庇おうとするなか、更なる惨劇が……。心に潜む暗部が繙(ひもと)かれる、「十二国記」戦慄の序章。

新潮社公式ホームページより引用

ちなみにこちらの例はどのようにして作ったんですか?

2019年に『白銀の墟 玄の月』が発売されるとき、やはり読む順番が気になるポイントだよね、ということで社内の『十二国記』好きと作りました。

当時、私は本部の文庫担当だったんですが、恥ずかしながら「『十二国記』は全人類が読んでいるはずなんだから、特別なことをする必要なんてない」と思っていたんです。ですから上司に「新刊が出るのに何もやらないのはダメでしょ」って言われ、ポカーンとしまして(苦笑)。

さてどうしようと思っていたら「丸善 津田沼店がスゴい小冊子を作っている」と聞いて、それを土台にペーパーを作ることにしました。さらに新潮社さんの『十二国記』公式サイトにジュンク堂書店 福岡店のスタッフがコメントを寄せているのを見つけるなど、全国の店舗が自発的にやっていた『十二国記』の応援を、最終的に本部でまとめたという形です。

どの書店員さんも熱量が高いですね。三省堂さんはいかがでしたか?

うちの店でも店内にいる『十二国記』ファンを集めて議論したら白熱しまして…(笑)。軽い気持ちでXでまとめたものを投稿したのですが、ものすごい勢いで拡散されてビックリした思い出があります。

三省堂有楽町店さんは多彩なバリエーションを用意

三省堂さんのも充実した内容ですね。しかも店内に『十二国記』ファンが複数いるとは…。

18年ぶりに最新刊『白銀の墟 玄の月』が発売されると聞いて私は大興奮してたんですが、そのとき店内に同じように興奮している人が6人ぐらいいて…。身近に『十二国記』ファンがこんなにいたんだって知りました(笑)。

それで結託して、「ご新規さんを新刊発売前に引き込みたい」と思ってペーパーを作成しました。最終的に読み順リストも含めて6枚くらい作ってます。Xで拡散していただいた読み順リストはけっこう後の方に作ったものでした。

たくさん読み方のパターンが載っているのがいいですね。『十二国記』には多岐にわたる読み方がある、ということがよくわかります。

ありがとうございます。ただ、やはり一番の問題は「エピソード0の『魔性の子』をいつ読むか?」ですよね。実は社内だと「エピソード1『月の影 影の海』から読み始めるほうがいい」っていう意見が大多数だったんです。

でも『魔性の子』から読む意見もほしいなと思っていたところ、社内に一人だけいまして。「全巻読むぞ!」という方には、0→1→3→2→4(以下、ナンバリング順)をオススメしています。

シリーズを全巻読破する前提なら、先に『魔性の子』を読んでも後で本編シリーズで答え合わせできる楽しみがありますね。

あと、ホラージャンルが好きな方には、『魔性の子』から読むのもオススメだと思います。

たとえば弊社には「ファンタジーはあまり読まないけど、小野不由美先生の『屍鬼』『残穢』といったホラー小説は好き」というスタッフがいまして、「『魔性の子』から読めば小野不由美先生のホラーとして読めるので入りやすい」と言っていました。

私はホラーが苦手なので、『十二国記』でホラーっぽい描写が出てくるとドキドキしながら読むんですが(笑)。

※編集部注:『十二国記』はときどき残酷な描写が出てくることがある。

私もです(笑)。ちなみに私の読み方は、1→3『東の海神 西の滄海』→6『図南の翼』の順番で読み、その後は2『風の海 迷宮の岸』から7『華胥の幽夢』まで順に。そして0『魔性の子』→8『黄昏の岸 暁の天』と続けました。

読む順リストにも書きましたが、登場人物が無理なく入っているのがこの順番ではないかと提案させていただきました。

1→3→2→4→6という方もいますね。3『東の海神 西の滄海』を早めに持ってくる方が多い印象です。

小野不由美 著『風の海 迷宮の岸』(新潮文庫刊)

エピソード2 風の海 迷宮の岸(かぜのうみ めいきゅうのきし)

幼(いとけな)き麒麟に迫り来る決断の時──神獣である麒麟が王を選び玉座に据える十二国。その一つ戴国(たいこく)麒麟の泰麒(たいき)は、天地を揺るがす〈蝕(しょく)〉で蓬莱(ほうらい)に流され、人の子として育った。十年の時を経て故国(くに)へと戻されるも、役割を理解できぬ麒麟の葛藤が始まる。我こそはと名乗りを挙げる者たちを前に、この国の命運を担うべき「王」を選ぶことはできるのだろうか。

新潮社公式ホームページより引用


小野不由美 著『東の海神 西の滄海』(新潮文庫刊)

エピソード3 東の海神 西の滄海(ひがしのわだつみ にしのそうかい)

国が欲しいか。ならば一国をやる。延王(えんおう)尚隆(しょうりゅう)と延麒(えんき)六太(ろくた)が誓約を交わし、雁国に新王が即位して二十年。先王の圧政で荒廃した国は平穏を取り戻しつつある。そんな折、尚隆の政策に異を唱える者が、六太を拉致し謀反を起こす。望みは国家の平和か玉座の簒奪(さんだつ)か──二人の男の理想は、はたしてどちらが民を安寧(やすらぎ)に導くのか。そして、血の穢(けが)れを忌み嫌う麒麟を巻き込んだ争乱の行方は。

新潮社公式ホームページより引用

1で尚隆と六太ががっつり出てくるので、2人が中心のエピソードである3『東の海神 西の滄海』を早めに読んでほしいんですよね。そして2『風の海 迷宮の岸』で麒麟と王の関係性を知ってもらう。

※編集部注:尚隆(しょうりゅう)と六太(ろくた)は雁国を収める王と麒麟。共に蓬莱(日本)の生まれ。

4『風の万里 黎明の空』はいつ読んでもいいけれど、珠晶のことを知っておくと6『図南の翼』が楽しめるので、6の前に読んでおくのがいいと思います。

小野不由美 著『風の万里 黎明の空』(新潮文庫刊)

エピソード4 風の万里 黎明の空(かぜのばんり れいめいのそら)

人は、自分の悲しみのために涙する。陽子は、慶国の玉座に就きながらも役割を果たせず、女王ゆえ信頼を得られぬ己に苦悩していた。祥瓊(しょうけい)は、芳国(ほうこく)国王である父が簒奪者(さんだつしゃ)に殺され、平穏な暮らしを失くし哭(な)いていた。そして鈴は、蓬莱(ほうらい)から辿り着いた才国(さいこく)で、苦行を強いられ泣いていた。それぞれの苦難(くるしみ)を負う少女たちは、葛藤と嫉妬と羨望を抱きながらも幸福(しあわせ)を信じて歩き出すのだが──。

新潮社公式ホームページより引用


小野不由美 著『図南の翼』(新潮文庫刊)

エピソード6 図南の翼(となんのつばさ)

国を統(す)べるのは、あたししかいない! 恭国(きょうこく)は先王が斃(たお)れて27年、王不在のまま治安は乱れ、妖魔まで徘徊(はいかい)していた。首都連檣(れんしょう)に住む少女珠晶(しゅしょう)は豪商の父のもと、なに不自由ない暮らしを与えられ、闊達な娘に育つ。だが、混迷深まる国を憂える珠晶はついに決断する。「大人が行かないのなら、あたしが蓬山(ほうざん)を目指す」と――12歳の少女は、神獣麒麟により王として選ばれるのか。

新潮社公式ホームページより引用

『白銀の墟 玄の月』4冊が出る前は、個人的に『魔性の子』はどこで読んでもいいという位置づけだったんですよね。

ですが今は、少なくとも『白銀の墟 玄の月』の前に『魔性の子』を読んでおいてほしいなと思います。泰麒(たいき)に関わってくることなので。

短編集である5『丕緒の鳥』と7『華胥の幽夢』をどこで読むか問題もありますしね。短編だけどただの短編じゃないから。

 

小野不由美 著『丕緒の鳥』(新潮文庫刊)

エピソード5 丕緒の鳥(ひしょのとり)

「希望」を信じて、男は覚悟する。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「大射(たいしゃ)」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒(ひしょ)は、国の理想を表す任の重さに苦慮していた。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか──表題作「丕緒の鳥」ほか、己の役割を全うすべく煩悶し、一途に走る名も無き男たちの清廉なる生き様を描く全4編収録。

新潮社公式ホームページより引用


小野不由美 著『華胥の幽夢』(新潮文庫刊)

エピソード7 華胥の幽夢(かしょのゆめ)

王は夢を叶えてくれるはず。だが。才国(さいこく)の宝重である華胥華朶(かしょかだ)を枕辺に眠れば、理想の国を夢に見せてくれるという。しかし采麟(さいりん)は病に伏した。麒麟が斃(たお)れることは国の終焉を意味するが、才国の命運は──「華胥」。雪深い戴国(たいこく)の王・驍宗(ぎょうそう)が、泰麒(たいき)を旅立たせ、見せた世界は──「冬栄」。そして、景王(けいおう)陽子が楽俊(らくしゅん)への手紙に認(したた)めた希(ねが)いとは──「書簡」ほか、王の理想(ゆめ)を描く全5編。

新潮社公式ホームページより引用

短編集は1冊単位じゃなく、短編単位で読む順を決めたいぐらいです(笑)。あんまり読書は慣れていないけれど興味があるので読んでみたい、という方には、『図南の翼』でしょうか。1『月の影 影の海』から読んでほしい気持ちはあるけど、いきなり上下巻はハードルが高いと思うので。

どれか一冊だけ読んだみたいという方には、『図南の翼』がいいと思います。案外『東の海神 西の滄海』から入ってもいいけれど。やはり世界観の一番の基礎となるところではあるので、1から読んでもらいたいところではありますね。

書店員から見た『十二国記』30年を振り返る

『十二国記』は出版社やレーベルを変えながら現在まで30年以上にわたって続くロングシリーズです。お二人共に書店員としてその経緯や売れ行きを見守って来られたと思いますが、どんな思い出がありますか?

講談社X文庫ホワイトハートは完全に中高生女子向けのシリーズ(今でいうラノベ)ですが、1996年発売の『図南の翼』で書評家の北上次郎さんが「十二国記は最高に面白い」と大絶賛されたんですよね。

その後、男性読者にも入りやすいよう2000年からは一般向けの講談社文庫でも刊行スタートし、『華胥の幽夢』までが出ています。ただ、講談社文庫版は山田章博さんのイラストがないので『十二国記』ファンとしては物足りなさがありました。

わかります。その後、2008年に新潮社の雑誌『yom yom』(08年3月号)に突然『十二国記』の書き下ろし短編(『丕緒の鳥』)が載ったときは驚きましたよね!?

これまで講談社から出版されていたシリーズの新作短編が、新潮社の文芸誌で発表されたという異例の展開でした。

当時は私、情報を事前にまったく知らなくて…。あの日は突然、『yom yom』最新号について問い合わせがたくさん来たんですよ。

「何が起こったんですか?」ってお客様に聞いたら、「『十二国記』の書き下ろしが載っているんですよ」って。雑誌担当のスタッフも困惑しているし、どうして『十二国記』が新潮社で? って、驚きしかなかったです。

わかります。うちも配本を増やしていなかったんですよね。あの『yom yom』は争奪戦だったと思います。

まだSNSがそんなに広まっていない時期で、情報も得られず。でも、「今後はどうも新潮社さんから動きがありそうだな」と思った出来事でしたね。そして『十二国記』がいよいよ新潮文庫から出ることになった時はもう、大歓喜で!

当時いたジュンク堂書店 池袋本店に書道をやっているスタッフがいたので、大きな紙に激しめの書体で「祝『十二国記』新潮社より刊行! ありがとう新潮社、ありがとう小野主上!」って書いてもらい、売り場に貼り出しました(笑)。

※編集部注:小野不由美先生はファンの間でしばしば「主上(作中では王への敬称)」と呼ばれている。

2001年の『黄昏の岸 暁の天』以来となる12年ぶりの新作でしたから無理もないですよ(笑)。

小野不由美 著『黄昏の岸 暁の天』(新潮文庫刊)

エピソード8 黄昏の岸 暁の天(たそがれのきし あかつきのそら)

王と麒麟が還らぬ国。その命運は!? 驍宗(ぎょうそう)が玉座に就いて半年、戴国(たいこく)は疾風(はやて)の勢いで再興に向かう。しかし反乱鎮圧に赴(おもむ)いた王は戻らず、届いた凶報に衝撃を受けた泰麒(たいき)も忽然(こつぜん)と姿を消した。王と麒麟を失い、荒廃へと向かう国を案じる将軍は、命を賭(と)して慶国(けいこく)を訪れ、援助を求める。戴国を救いたい──景王陽子の願いに諸国の麒麟たちが集う。はたして泰麒の行方は。

新潮社公式ホームページより引用

『丕緒の鳥』が発売になったとき、私は丸善 ラゾーナ川崎店にいたんです。お向かいには飲食店があって、そのお隣はインド雑貨店があるような広いショッピングモール。

私が店頭に『丕緒の鳥』を山積みにして、嬉しさのあまり「十二国記12年ぶりの新刊でーす!」って声を出してアピールしていたら、お向かいのおにぎり屋さんが「やっと新刊出たのね!」とやってきて、最初に買いに来てくれました。

しかも2冊目のお客さんはインド雑貨店のスタッフさん。テナントの方たちと一緒に喜んだことは本当にいい思い出です。

前作から18年ぶりとなる最新刊『白銀の墟 玄の月』の第一、第二巻が発売された2019年10月12日、日本はあいにくの台風襲来に「触がきた」などと話題となりました。

店舗の営業が危ぶまれるほどの台風でしたからね。

三省堂有楽町店さんの気合の入った『十二国記』コーナー

私も当日はジュンク堂書店 名古屋店へ応援に行くつもりだったのですが、あいにくの触(台風)で新幹線が止まってしまい、断念せざるを得ませんでした。ただの風雨なら万難を排して行ったのですが…。

名古屋店は台風直撃のためあえなく延期に

新刊が出ると、お客さんも待ってたんだろうなっていうのがよくわかるんですよね。若いお母さんと小さい男の子が買いに来て、その子が『白銀の墟 玄の月』の泰麒のポスターを見て喜んでいました。きっと家でもお母さんが泰麒のことを話しているんだろうな、ってほっこりしましたね。

『白銀の墟 玄の月』は18年ぶりの新刊で、2019年10月に一・二巻、11月に三・四巻が出るということで、どちらも文庫の新刊とは思えないような数を仕入れて、それをできる限り山にしました。その山も昼には崩れて、さらに追加してっていうわんこそば状態で…。

最終的には「レジにあります!」ってアナウンスしていましたね。(店に搬入された)新刊の詰まった段ボール箱を開けただけで泣きそうになったのは初めての経験でした。「私、この日のために書店員になったんだ」って思いました。

小野不由美 著『白銀の墟 玄の月』(新潮文庫刊)

白銀の墟 玄の月(しろがねのおか くろのつき)

戴国(たいこく)に麒麟が還る。王は何処へ──。乍(さく)驍宗(ぎょうそう)が登極から半年で消息を絶ち、泰麒(たいき)も姿を消した。王不在から六年の歳月、人々は極寒と貧しさを凌ぎ生きた。案じる将軍李斎(りさい)が慶国(けいこく)景王(けいおう)、雁国(えんこく)延王(えんおう)の助力を得て、泰麒を連れ戻すことが叶う。今、故国(くに)に戻った麒麟は無垢に願う、「王は、御無事」と。──白雉(はくち)は落ちていない。一縷の望みを携え、無窮の旅が始まる!

新潮社公式ホームページより引用

それはうらやましいです…! 私はあのとき、本部でインターネット販売の担当をしていたので、目の前の山積みが溶けていく様は見られなかったのが残念です。

丸善ジュンク堂書店には当時提携していたインターネットストアがあったんですが、新潮社さんから配分された冊数を入力したら、発売より前に予約でいっぱいになってしまったんです。即重版が決まって、数日後にまたこれだけ入りますとなっても、予定していた注文数にすぐ達してしまう。

どれだけ入荷しても予約時点で足りないなんて、さすが『十二国記』だなと震えましたね。

後編記事はこちら!↓

記事中の画像付きツイートは許諾を得て使用しています。
220
書いた人
大曲智子

エンタメ系ライター。雑誌Web書籍などで活動中。