『十二国記』に人生を学んだので恩を返したい――丸善ジュンク堂書店と三省堂の書店員さんが語るガチ座談会【後編】

人生に大切なことは『十二国記』が教えてくれる
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丸善ジュンク堂書店(@junkudo_net三省堂有楽町店(@yrakch_sanseido、『十二国記』を愛してやまない書店員たちによる異例の座談会。前編では『十二国記』を布教する上でシリーズをどの順番から読めばいいのか話し合いましたが、後編ではあらためて作品の魅力について触れていきます。

『十二国記』は小野不由美さんによるファンタジー小説シリーズで、その歴史は30年以上におよびます。作品に大きく影響を受けた人は少なくなく、前編でも触れたように書店員も例外ではありません。

全国に散らばる書店員が結集してフリーペーパーを作ったり、シリーズの読む順番で議論を繰り広げたり…。人は推しのためにものすごい行動力を発揮することがありますが、『十二国記』もまさにこうした衝動に駆られるほどの魅力がある作品なのでしょう。

実際のところ『十二国記』ファンは作品のどんなところに魅力を感じているのか、書店員お二人に聞いてみました。この記事が新規の方にとって『十二国記』を読み始める際のしるべに、ファンの方にとっては作品の魅力を再発見するきっかけになれば幸いです。

『十二国記』作品紹介

我々が住む世界と、地球上には存在しない異世界とを舞台に繰り広げられる、壮大なファンタジー。二つの世界は、虚海という広大な海に隔てられ、「蝕」と呼ばれる現象によってのみ繋がっている。異世界では、神々が棲む五山を戴く黄海を、慶、奏、範、柳、雁、恭、才、巧、戴、舜、芳、漣の十二の国々が、幾何学模様のような形で取り囲んでいる。それぞれの国では、天意を受けた霊獣である「麒麟」が王を見出し、「誓約」を交わして玉座に据える。王は、天命のある限り永遠の命を持ち、国を治め、麒麟は宰輔として側に仕える。それぞれの国を舞台に繰り広げられる深遠な人間ドラマは、私たちに「生きる意味」と「信じる強さ」を問いかける大河小説といえる。 また、NHKアニメ化(2002~2003年)でも話題となった。

新潮社『十二国記』公式ホームページより引用

前編記事はこちら↓

今回の座談会メンバー

丸善ジュンク堂書店・北山さん。大学生時にアルバイト先の書店で『十二国記』に出会う。00年以前の講談社X文庫ホワイトハート刊行時代からのファン。

三省堂書店有楽町店・山口さん。同店での『十二国記』担当。大学生時の書店アルバイトに作品と出会い、「気がついたら読んでいた」という。

Togetterオリジナル編集部(ライター&担当編集)。『十二国記』ファンでありシリーズ全巻&アニメ履修済みだが、書店員2人の熱量にタジタジ。

『十二国記』はキャラ推しよりも箱推しの感覚が近い?

お二人が『十二国記』を読み始めたきっかけは何だったのでしょう?

私は大学生のときに書店でバイトしていたんですけど、バイトの先輩たちの間で『十二国記』がとても流行っていたんです。それで私のところに『月の影 影の海』が回ってきたのですが、「読むなら絶対に下巻まで読んでね」と。読み始めたら確かに上巻がツラくて。

「また裏切られるの?」と思いながら読み進め、下巻に入ると「このネズミすごい優しい…癒やされる…今度は信じていい?」と。気づいたらどっぷりハマっていましたね。すぐに当時出ていたシリーズ全巻を買いました。

※編集部注:「ネズミ」とは『十二国記』シリーズに登場する主要キャラクターの一人、楽俊(らくしゅん)。彼が登場するタイミングで物語が好転していく傾向にあるため、ファンの間で「ネズミが出るまで頑張って」と言われる。

私はきっかけを覚えていなくて、気がついたら読んでいたんですよ。大学生の頃に書店でアルバイトをしていたので、北山さんと同じように、社員の人から「ファンタジーが好きなら読んでみなよ」と薦めてくれたんじゃないかと思うんですけど…。だからきっと運命だったんだと思っています(笑)。

当時はちょうどアニメ『十二国記』(2002-2003年放送)もやっていたし、講談社X文庫ホワイトハート版と講談社文庫版が出ていた時期だったので、「どっちを買えばいいのかな」って悩んだ記憶があります。

『十二国記』エピソードリスト
0「魔性の子」1991年発売
1「月の影 影の海(上下巻)」1992年発売
2「風の海 迷宮の岸」1993年発売
3「東の海神 西の滄海」1994年発売
4「風の万里 黎明の空(上下巻)」1994年発売
5「丕緒の鳥」2013年発売
6「図南の翼」1996年発売
7「華胥の幽夢」2001年発売
8「黄昏の岸 暁の天」2001年発売
9「白銀の墟 玄の月(全4巻)」2019年発行

※数字はエピソード順(新潮文庫版に準じています)

どれも好きだとは思うのですが、あえて好きな一冊や好きなキャラクターを選ぶとしたら? 

私は珠晶(しゅしょう)が好きです。エピソード6『図南の翼』での啖呵を切る場面なんていいですよね。

12歳で王位を目指した珠晶は、生意気な女の子と取られることもありますが、覚悟を持って行動している。何かあると珠晶のように「私だって覚悟してやればできるよ」と思い浮かべながら頑張ることにしています。

小野不由美 著『図南の翼』(新潮文庫刊)

『図南の翼』のメインキャラクター、珠晶。先王が倒れて空位のまま27年が経ち、治安が乱れていく恭国(きょうこく)の出身。若干12歳でありながら、麒麟に会って王に選ばれるため、世界の中心に位置する蓬山(ほうざん)を目指す決意をする。

私は『十二国記』に限っては、推しのキャラクターというのはいなくて。本当にどのキャラも推しなんですよ。

わかります、「箱推し」ですよね。選べって言われると困ってしまう。

ただ、それでもあえて1人を選ぶなら泰麒(たいき)ですね。幼くいたいけな頃から好きなんですけれど、その後『黄昏の岸 暁の天』や『魔性の子』を読んで虜になりました。あのかわいかった泰麒がこんな目に遭って…っていう感情移入と、最新刊『白銀の墟 玄の月』を読んだ時の衝撃が強かったんです。

それまでも散々辛い思いをしてきたのに、国のため、主君である驍宗(ぎょうそう)のために頑張る泰麒を見たら、なんて成長したんだろう、なんて偉いんだろうと。『白銀の墟 玄の月』がきっかけで泰麒推しの感情が自分の中に生まれました。

右下の黒髪の幼子が泰麒。上が泰麒が選んだ王・驍宗
小野不由美 著『白銀の墟 玄の月』(新潮文庫刊)

泰麒は戴国(たいこく)の麒麟。『十二国記』における麒麟とは、12の国にそれぞれ存在する霊獣のこと。天意を受けて王を見出し、その後も王に仕えて運命を共にする役目を持つ。エピソード2『風の海 迷宮の岸』時点では幼子だった泰麒だが、2019年のエピソード9『白銀の墟 玄の月』では青年に成長。過酷な運命に巻き込まれていく。

『白銀の墟 玄の月』といえば、一巻表紙(上の画像)の泰麒はインパクトがありましたよね。

あれは最高ですよね!

私も店頭に出ていた時、おそらく『十二国記』を全然知らないような海外の方が、店頭にあった表紙のポスターを見て「何ですかこれ。ほしいんですけど」って言ってました。『十二国記』の魅力は山田章博さんの絵の力によるところも大きいと思います。

『十二国記』は人の生きる道を教えてくれる

ここまで『十二国記』について熱烈にお話いただきましたが、お二人は『十二国記』のどんなところが好きですか?

もちろんファンタジー小説として面白いこともあるんですけど、『十二国記』はちょっと一線を画している。私はこの作品を読んで、自分の日頃の行いについてや今の社会についてなど、いろんなことを考えるきっかけになりました。

たとえば『図南の翼』には、「家の外には飢えている人がいっぱいる。自分のご飯を飢えた人にあげようとしたら、『お前は世の中を知らない』と言われた」などという珠晶のセリフがあります。世の中って難しい、訳がわからない。だから珠晶は自分でその答えを探すために行動しようとします。

私自身も日頃の行いで、「今私がやろうとしていることは偽善?」「偽善かもしれないけどこれは今やるべきだ」って自問自答するときに、珠晶の言葉を思い出すんです。

私も『図南の翼』が大好きなのですが、黄海(こうかい)での困難な旅路の中で「愚痴を言って人を妬む暇があれば、自分でやるべきことをやって そうしたら堂々と『自分はやるべきことをやった』と言える」という言葉がありまして、自分を顧みるきっかけになりました。

※編集部注:黄海は十二国の世界の中心に位置する丸形の陸地。険しい山脈などが囲み、周囲には幼獣や妖魔が住まう厳しい土地だが、その中心には崇山を囲むように蓬山、華山、霍山、恒山の五山が連なり神仙が住まうという。そのうち蓬山は麒麟が生まれ育つ聖地。

また、『風の万里 黎明の空』で、陽子が王として自分に何ができるか悩んでいるのを見たときもそう。私は国を治めたりすることはできないし、陽子みたいになれるわけもない。だけどそうやって考え続けて、自分の中によりどころを持って立つのはすごく大事なんだって気付かされました。

自分の人生で悩んだとき、「あのとき〇〇はああいう風に考えていたな」と、思い出すことが多いのが『十二国記』なんです。それぐらい名シーン名セリフがいっぱいある。

『十二国記』は人の生きる道を教えてくれるわけですね。

物語の世界観はファンタジーだけど、強い魔法使いが出てなんでも解決してくれるわけじゃなく、どこまでも非情かつ残酷ですよね。

麒麟は慈悲深い生き物ですが、王の治世がうまくいかず国が傾けば麒麟は病となり、やがては死んでしまう。にも関わらず独裁者になってしまう王もいれば、無気力な王もいて…。そういう人間模様が現代を生きる人々にとって決して他人事だと思えないんですよね。

※編集部注:『十二国記』の世界では、施政者である王が道を踏み外すと国が傾くという、天が定めた絶対的ルールが存在する。その兆候として、まず麒麟が病に伏せる、とされている。

「今まで『十二国記』ってどんな話なんですか?」と聞かれても、簡単に説明するのは難しかったんです。山口さんが今おっしゃったようなポイントを伝えたいものの、新規の人には伝わりづらくて。

だから「女子高生がある日突然見知らぬ世界に…」って言うと、「異世界転生なんですね!」というリアクションが返ってくるパターンもある。今風に言うと確かに陽子は日本から異世界に行っているけど、厳密には転生でもないんですよね…。

異世界に行って特別な能力を授かるわけでもなく、陽子が得たチート能力と言えるものは、冗祐という使令がついたことだけ。冗祐のおかげで剣を使えるようになったけど、それ以外は変わらない。身一つで生きていかなきゃいけないですからね。

※編集部注:冗祐(じょうゆう)は景麒が使役する使令。賓満(ひんまん)と呼ばれる種族の妖魔で、憑依した人間の戦闘力を向上させたり、異世界の言葉を話したりできる。麒麟は戦うことができないが、妖魔を折伏させることで使役できる。

不老不死の仙籍は羨ましいですが、そうなると役人として国を治めなければならないですし。

※編集部注:『十二国記』では国政に関わるような高位の人物などに対し、神仙として不老不死を得ることができる。

王になったらなったで大変なんですよね。残っている官僚は前王が選んだ人たちなので、自分を王としてなかなか認めてもらえない。新王として改革をしようとすれば足を引っ張られる…。読み始めたときは、「大人の世界を見てしまった」と思ったものでした。だからこそ中学生ぐらいから読んでほしいなと思いますね。

シリーズ30年超を経ても謎多き『十二国記』の世界

次の新刊は未定のままですが、「このエピソードの続きが知りたい」という願望はありますか?

私はずっときな臭い国だと言われている、柳国(りゅうこく)ですね。楽俊が偵察から帰ってきて、こんなに法律が整っている国なのに、官吏が賄賂を要求してくるということは、国が傾き始めているからじゃないかと言っていたので。不穏な噂ばかりがあちこちで出てくる国なので、真実を知りたいです。

柳国は、主上がどんな人かも全然わからないですよね。官吏から上がった人ということしか情報がない。まったく情報がないのは舜国もそうです。小野先生は過去のインタビューの中で「敢えて書かない国を残しておきたい」とおっしゃっているので、今後も登場しないかもしれませんが、どんな国なのか、どんな麒麟がいるのか興味深いです。

それに漣国(れんこく)の2人(鴨世卓と廉麟)の話も読みたい。あの2人が出会ったときや、農夫出身の王が選ばれたときのことが知りたいです。

奏国の利広(りこう)の話ももっと読みたいですね。奏国(そうこく)はいわゆる家族経営ですが、他国とはシステムが全く違う。元々商家を営んでいたから、そのままのシステムを国に持ってきて分担してるんだろうなと思ったので、そのシステムに収まるまでのことも知りたいです。

※編集部注:奏国は宿屋の主人だった櫨先新(ろせんしん)が王に選ばれて以来、約600年と十二国記の歴史上もっとも長く続いている国。国政は王とその家族+麒麟による合議制が採用されている。利広もその家族の一員。

美術品や工芸品で潤っているというド派手な範国も気になりますよね。一体どういう統治をしてるのかが知りたいです。尚隆とは犬猿の仲だという範国の氾王ですが、尚隆とは別の突き抜けっぷりがあるなと思います。

本当に『十二国記』には謎に包まれている部分がまだまだたくさんありますね。

究極的に知りたいのは、十二国が存在する異世界における「天帝とは何なのか」という点もあります。この世界のルールでは、どれだけ王の器のない酷い人物だったとしても、天が決めたのなら王になってしまう。まるでゲームマスターのような天がどういう理屈で動いているのかまでわかるといいなと思いますが、小野先生がそこまで書かれるかどうか…。

※編集部注:天帝は十二国の創造主で、天網(てんこう)と呼ばれるこの世界の摂理を生み出したとされている。作中における最大の謎のひとつ。

『十二国記』を広めることで作品に恩を返したい

書店員として、1人のファンとして、『十二国記』に出会えてよかったという思いをお二人から感じました。

本が好きだから書店員になった私ですが、書店員として『十二国記』の新刊発売に居合わせたとき、この本を広めることで『十二国記』に恩返しができるんじゃないかと思いました。

与えてもらうばかりだった『十二国記』に、恩返しにもならないかもしれないけれど、少しでも思いを返したい。そんな祈るような気持ちも持ちつつ、今も『十二国記』を売っています。

とにかく読んでほしいです。すべての人ではないにせよ、少なくともこれだけの人間の人生に影響を与えている作品です。一冊でいいので読んでみてほしいですし、あわよくば私たちの同志になってほしいです。

図書館で借りて読んでもいいですし、別の書店で買ってもらっても構いません。『十二国記』を通じて人生や考え方が少しでもいい方向に進むのであれば、こんなに嬉しいことはないですから。

いざ『十二国記』の世界へ!

座談会の中で書店員のみなさんが語る『十二国記』シリーズの名場面・名台詞を挙げるたび、「ですよね!」「わかります!」と首がもげそうになりながら頷く編集部陣。

そう、『十二国記』は自分の生き方を見つめ直すきっかけをくれる。そして、それほど強く影響を与えてくれた作品に対して、何か恩返しをしたいとと行動力を発揮するようになる…。

今回座談会をやりたいと考えたのも、案外そんな動機だったのかもしれません。

「十二国記」アニメ設定画集

2024年3月15日には2002‐2003年に放送されたアニメの設定画集が発売と、まだまだ話題は尽きない『十二国記』。ここまで記事を読んでくださった方は、ぜひ『十二国記』を読んでいただき、あわよくば私たちの同志になってもらえたら嬉しいです。

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書いた人
大曲智子

エンタメ系ライター。雑誌Web書籍などで活動中。