「趣味はサメ飼育です」室内で小型のサメを飼う人に、愛と情熱を注ぐ理由を聞いた

サメの世界はまだまだ未知の部分が多そう
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X(Twitter)で「趣味はサメの飼育です」と投稿したユーザーに注目が集まっている。

くもさんこう(@san_koh_kumo)さんが投稿したのは、サメのエサやりの様子をとらえた数秒ほどの動画だ。

動画の中央には、照明を落とした薄暗い室内で1ヶ所だけライトに照らされた横長の大きな水槽がある。水槽には多数の小型なサメが暮らしており、くもさんこうさんがピンセットでエサをつまんでは、底にいるサメたちの口元に運ぶ様子が映っている。

現在は社会人だというくもさんこうさんだが、投稿では「週末は水換えと水槽掃除で溶けます」と書いており、日常生活の多くの時間をサメの飼育に費やしている模様。

くもさんこうさんが飼っているサメたちは以下の通り。

【現在飼育している種類・匹数】
サンゴトラザメ:♂1匹 ♀1匹
バンデッドサンドキャットシャーク:♂1匹 ♀1匹
シマザメ:♀1匹
ハッセルツバンブーシャーク:♂2匹 ♀2匹
テンジクザメ:♂4匹
ネコザメ:♂1匹
マルヒゲオオセ:♂1匹  計15匹

また、会社の人たちに趣味であるサメの飼育の話をすると、「なんでうちに...?」という表情をされるようだ。

たしかに、どうしてここまで本格的にサメの飼育をしているのだろうか? くもさんこうさんに聞いてみたところ、真剣な思いを答えてくれたので紹介したい。

サメを知る・飼う・増やすことが今後の夢

サメの飼育を始めたきっかけを教えて下さい。

5歳の時にイタリアのジェノバ水族館で見かけたヨーロッパトラザメが可愛かったからです。

実際にサメ飼育を始めたのは10歳の時。それまでは父親の熱帯魚飼育の手伝いをしていました。初めて飼育したイヌザメは病気で一年も維持できませんでした。

うまく維持できるようになったのは大学生になってからで、飼育方法や生態についての論文を参考に自分で調べて飼い方を学んで実践してきました。飼育環境の改善を徹底したおかげで、安定した飼育ができるようになりました。

くもさんこうさんから見たサメの魅力は何でしょうか?

サメの中でも特に、水底で寝そべっているタイプの小型のサメ(底生性のサメ。以下、底生サメ)が好きです。

小型の底生サメの魅力はその可愛らしさにあります。特に顔が可愛らしく、テンジクザメの仲間には鼻弁と呼ばれるひげや、猪鼻を彷彿とさせる口元があり、可愛らしくもユーモラスな顔つきをしています。

サンゴトラザメは「くの字型」の口をしており、色鮮やかな背中側の体色とは対照的に、腹側から口元まで真っ白です。このシミひとつ無い純白な口があくびで大きく開いた様子は、まさしく可愛さが爆発しているのでないでしょうか。

また、サメとは思えない不器用な泳ぎ方も、小型底生サメの可愛らしさを際立てる重要な要素です。

世間一般的に知られるサメは、水を切るように華麗に泳ぎ、軟骨のみで構成されるしなやかな骨格を生かした鮮やかなターンを見せつける海の生態系トップメンバーです。

しかし、小型底生サメはそうはいきません。膨らんだ腹部を重たそうにしながらぼてぼて泳ぎ、丸みを帯びたヒレで懸命に水をかく様子は、同じサメの仲間とは思えぬほどに情けなく、極めて愛らしいのです。

一部の書物では「浅瀬の獰猛なハンター」と称されるらしいですが、実際に彼らが泳ぐ様子からはまったくそうは思えません。そんなキュートな彼らと人生を共にすることが私の生きがいです。

サメの飼育で大変なところは何でしょうか?

まずは金銭的・体力的・精神的にコストが高いところがあります。

水槽設備を用意するための初期投資額は100万円近くに上ります。さらに維持するための消耗品や、月々の光熱費・水道代などランニングコストも、一般的なアクアリスト(アクアリウムを楽しむ人)よりもかかっていると思います。

加えて自身の生活を営みながら、サメの健康的な日常を維持するのは大変だと思います。我が家は1500Lの大型水槽を構えており、週末は掃除と水替えをしています。

一度に人工海水を500L作り、それを換水する手間と費用は、アクアリストならよくわかると思います。

どうしてそこまで飼育に手間がかかるのでしょうか?

サメの病気は薬で治療しにくく、徹底的に清潔な環境維持と病気予防をする必要があるからです。

薬品を使用した小型底生種の治療は困難であるため、終生飼育には病気の予防が大変重要です。そもそも水槽という閉鎖的な環境は、実際の海よりも水質が変わりやすく悪化しやすいため、常に生体が病気にかかるリスクが潜んでいます。

それはサメも例外ではなく、水質・水温・水流の安定性はサメの健康を維持する上で特にクリティカルな条件となります。

水質は、自作のオリジナル濾過槽を使用することに加え、週に一度、全水量の1/3を換水することで確保しています。

水温維持にはヒーター・クーラーを使用し、年間を通して21±0.5℃に設定しています。

水流は、規定より強めのウェーブポンプを使って発生させています。水流の強さは

  1. 水の淀みをできる限り無くして細菌性の病気を予防する
  2. 運動不足を予防する
  3. 排泄のしやすさを確保する

という観点から重要です。

小型底生種は水槽の角に集まる習性があるため、角の水回りの良さを確保する必要があります。幼魚は特に水流不足に由来する病気に弱く、体力も飢餓耐性もないため、罹患すると急激に衰弱して死亡します。また、彼らは遊泳することで排泄を行うため、限られたスペースの場合、水流に逆らうように泳ぐことで排泄がしやすくなります。

水の条件に加え、エサもまた病気予防において大事な役割を果たします。現在は論文をもとに独自レシピを作成し、エサに反映させています。

普段はどのようなエサを与えていますか?

48時間以上冷凍して寄生虫を死滅させたスルメイカ、ヤリイカ、キビナゴ、シラウオをベースに、不足しがちなオメガ脂肪酸や各種ビタミン、ヨウ素補給用の「海藻70(海藻を多く含んだ植物性のエサ)」を加えてから与えています。

ヨウ素は海水魚飼育において活発に消費され、不足すると食道閉塞の原因となる甲状腺肥大に直結します。そのため継続的に摂取させる必要があります。

小型底生種の寿命は15年以上と長いため、終生飼育をするためにも徹底した健康維持に努めたいです。

くもさんこうさんがサメの飼育を続ける理由は?

サメの飼育方法は、オープンアクセスの研究論文としてすでに公開済みで、その内容は数千ページにもわたります。しかしそれらの論文は英語でしか公開されておらず、認知度の低さも相まって多くの人がサメの飼育方法を知らないままなのが現状です。

飼育ノウハウが普及・向上しないことは、むやみに生体が捕獲・短命で消費されたり、貴重な種類が繁殖されず、その結果市場からも野生からも姿を消してしまうことに繋がります。この状況は野生個体群への影響、種の保全、倫理面といった観点から好ましくないと考えます。サメが生態系の中間層や上層で重要な役割を担うことを鑑みても、同様のことが言えるのではないでしょうか。

飼育方法を広めることによって、飼育ノウハウが向上し、飼育期間(飼育個体の寿命)を延ばし、終生飼育の安定実現につなげたい。さらにその先のステップとして、繁殖ノウハウの基盤を築きたいと考えます。

いずれは飼育によって新たな「飼育向け生体」、「研究機関向けの生体サンプル」の新規供給源の確立に寄与したいと切に願います。野生個体群に影響を与えずにサメを知る・飼う・増やすことが今後の夢です。

くもさんこうさんはサメの飼育環境を改善するため、大型アクアリウムを設置できる物件に引っ越し、サメの終生飼育を続けている。

飼育するサメにあわせた生活

最近では見守りカメラ付きの孵化水槽を立ち上げ、サンゴトラザメ、ネコザメ、タイワンザメといった幼魚の孵化・餌付けに成功したそうだ。

まだまだ知られていないというサメの飼育方法。この記事が興味を持っている人の目に留まり、知名度向上に貢献できることを願うばかりだ。

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