ハコスタアイドルフェスティバル Ep1 前編
- t7s_masarugi
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【Episode 01 炎と森のフェスティバル!】 春日部ハルは、これを付けると仮想空間の中に(意識だけ)入れるというヘルメットのようなものを被り、目を瞑る。 そして目を開くと、ビルに囲まれた街に立っていた。 「ここが仮想空間で造られた『20年前の東京』か……」
2016-07-19 18:47:3720年前、つまり2014年の東京。 そこが戦いの舞台だ。 たくさんのビルに囲まれたこの都市は、作り物であるため『人』という大切な部品が欠落していて、なんだか哀しく感じる。 「2回目だけどやっぱりすごいなあ仮想空間……!」 そんな光景を見渡しながら、ハルは目を輝かせていた。
2016-07-19 18:56:18「あっ! そういえば『アレ』! できるのかな!」 ハルは右手を前に突き出し、炎の弾を出せ、と念じる。 すると彼女の右の掌から、人の頭ぐらいの大きさの炎の球体が発射された。 「よし! できた!」 これが彼女の能力だ。 炎を操る能力。
2016-07-19 19:25:47炎の弾を発射するだけでなく、火炎を放射したりすることもできるし、炎を纏った右手でパンチを打つこともできる。 漫画などで使い古されたありふれた能力だが、そのぶん使い勝手はかなり良く、強い能力だ。
2016-07-19 19:32:22「あ、あそこに誰かいる……」 ハルは身構える。 ここにいるということはプレイヤーということであり、プレイヤーということは敵ということである。 そこにいたのは。 『笑わない氷の歌姫』、羽生田ミトだった――。
2016-07-20 21:11:20―――――――― 「って、ええええええええ!?」 「うるさいよー、支配人」 「うるさいです、主さま」 驚いた僕に二人が批難の目を向ける。 ええええええ!? だって羽生田ミトだよ!? 解散した伝説のアイドルグループ、『セブンスシスターズ』の!! あのハミィ閣下こと!!!
2016-07-20 21:16:32「あー……支配人、そういえば忘れてるのか……」 「何がですか!?!?」 まさかこの世界はやっぱり平行世界で、『セブンスシスターズが解散していない世界』なのか!? 「アレは本物のミトじゃないよ?」 「え……?」 「ミトの生体データを元につくったノンプレイヤー!」
2016-07-21 02:04:05ノンプレイヤーキャラクター……略してNPCと呼ばれるそれは、誰かの意思で動かすキャラクターではなく、プログラムされた通りに動く操作されないキャラクターのことだ。 「前回のハコフェスで『御園尾マナ』のNPCを出したら好評だったから、今回は3人のNPCを用意してるず!」
2016-07-21 02:06:31「……そもそもなんでセブンスの生体データなんて持ってるんですか? セブンスの関係者じゃないと普通は持ってないと思うんですが……」 「そ、それは……えっと……ゲ、ゲーム会社の人が、セブンスのファンで……持ってた……らしい……ず……」 ……怪しいがそういうことにしておこう。
2016-07-21 02:08:26「つまりあの羽生田ミトは偽物なのか……」 少しガッカリしたが、それでも興奮は収まらない。 羽生田ミトの生体データから造られたNPC……それに、春日部ハルは勝てるのだろうか。 楽しみになってきた――。
2016-07-21 02:12:03ここでセブンスシスターズの説明を少し入れておく。 セブンスシスターズは2年前、2032年に解散した伝説の6人組アイドルグループ。 アイドル文化の頂点で活躍していたが、突如解散。 アイドルは終わったと囁かれているアイドル氷河期の現在においても、復活を渇望されている――。
2016-07-21 02:14:54と、こんなところだ。 アイドルは終わったと言われているけれど、僕はそうは思わない。 だって僕たちは次世代の新しいアイドルを作るため、強い絆で結ばれた本物の『シスターズ』を作るため、活動しているんだから――。 ―――――――― ミトを見たハルの頬を、冷や汗が伝う。
2016-07-21 02:19:26今回のハコフェスは、ぶっつけ本番だった第1回のハコフェスと違い、特訓があった。 レッスンの後にお互いで戦ったり、NPCと戦ったりしていたのだ。 そのときに彼女は羽生田ミトと戦ったことがある。 「でもそのときは私とムスビちゃんとロナちゃんの3人がかりでギリギリ倒した……」
2016-07-21 02:27:00NPCキャラクターがハコフェスで優勝してしまっては、盛り下がってしまう。これは、自明の理だ。 そのため、『NPCを積極的に狙って倒そう』という暗黙の了解がアイドルたちにあった。
2016-07-21 02:28:44しかしそれでは、NPCがあまりにも簡単にやられてしまう。 その対抗策として、NPCは他のプレイヤーより強く設定されている。1対1で戦う用の強さには設定されていない。 そのため、周りに他のプレイヤーがいない今、逃げて他のプレイヤーと共にNPCを倒すのが最善の手段であった。
2016-07-21 02:30:34しかし、ハルの性格はそんなことを許さなかった。 むしろ――。 「私、燃えてきました! メラメラって感じです!」 その圧倒的不利な状況が、彼女の魂に火を着けた。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 右手に炎を纏いながら、ミトに向けて渾身の右ストレートを放つ!
2016-07-21 02:34:06しかし、避けられた。 斜め前に跳んだ羽生田ミトは、その勢いでハルを横を通り抜け、距離をおいて着地し、そこから右の掌をハルの方へ向けた。 それに合わせて、ハルも掌をミトの方へ向ける。 「はぁぁぁぁぁぁ!」 お互いの掌から出た炎の弾がぶつかり合い、消滅する。
2016-07-21 02:48:36ハルの掌から出た炎は赤。 ミトの掌から出た炎は青。 二人の能力は同じ、『炎を操る能力』なのであった――。 ―――――――― 「って同じ能力じゃないですか! 被っちゃってるじゃないですか!!」 「うるさいです、主さま」 「色が違うからセーーーフ!」
2016-07-21 02:52:38「セーフなんですか!?」 「それにミトの能力は炎を操るだけじゃないしね……」 と。コニーさんは、意味深に呟いた――。 ―――――――― 「はあっ!」 ハルはもう1度炎の弾を飛ばすが、それも避けられる。 この仮想空間では身体能力が2~3倍になるが、そうではない。
2016-07-21 02:54:47ミトは掌や背中から炎を放射することで、その勢いで跳んで避けているのだ。 無論、同じことをハルも勿論できる。 「くっ……当たらない……!」 右手から何度も炎の弾を連射するが、1つも掠りすらしない。 流石セブンスシスターズのNPC、と言えるだろう。
2016-07-21 02:57:14「これならどうだッ……!」 ハルは右手だけでなく、両手をミトの方に向けて、そして両手から炎の弾を連射する! 最初の3発ほどミトは避けるが、避けきれないと判断したのか炎の放射をやめ、その炎を両手に纏った。 その両手でハルの炎の弾を掻き消しながら、ハルの方への突進する!
2016-07-21 03:10:04「全然効いてない……掻き消されてる!」 相手の能力の方が上だということに気付き、相手の攻撃を回避をしようとするハル。 しかし。 「体が動かない! しまった!」 ミトは2つ能力を持っていた。 1つは、蒼い炎を操る能力。 もう1つは、氷を操る能力。
2016-07-21 03:16:41「くっ……」 ハルは足を凍らされてしまい、動けないのだ。 炎を操る能力で溶かすが、その溶かした瞬間の隙に――。 「きゃあっ!」 ミトの炎を纏った右ストレートがハルにお腹のあたりに命中し、氷が溶かされて足が自由になったことが幸いして、ハルは吹き飛んだ。
2016-07-21 03:21:08幸い――距離がとれたのは幸運だ。あのまま至近距離にいたら連打をくらってやられていた。 ゲームの中なので痛みはないが、ハルのHPは大きく減少した。このゲームはヒットポイント制。決められた体力ぶんのダメージを受けたらその時点で敗北する。
2016-07-21 03:22:51今回は防御ができず、協力な攻撃がお腹に直撃したということで、大きなダメージを受けた。 吹き飛んだハルは地面に叩きつけられる。戦闘のプロなどではないハルは、綺麗に受け身をとることができない! 受け身がとれないということは、体制を整えるのが遅れるということ。
2016-07-21 03:25:45