フラワーズ・フロム・フロスト #1

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リンク note(ノート) フラワーズ・フロム・フロスト | ダイハードテイルズ・マガジン | note ダイハードテイルズ・マガジンの限定公開ノート | 2016-11-01 20:43:29 +0900
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「ニンジャスレイヤー:エイジ・オブ・マッポーカリプス」より

2016-07-21 12:21:55
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

【フラワーズ・フロム・フロスト】#1

2016-07-21 12:24:34
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

灰色の海と灰色の空が交わるところ、砕けた島々が静かな波を受けて、数隻の漁船が今も黒煙を吐きながら行き来している。岩肌にへばりつくバラック建築物は一軒ごとの境界が定かでなく、青や緑、黄色、思い思いの色で乱雑に塗りたくられたペンキが、人類の文明の存在を主張している。

2016-07-21 12:35:45
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

やがて尊大なクジラの唸り声めいた警報音が水面に鳴り響くと、装甲板でものものしく武装された輸送船が、みすぼらしい漁船を体当たりで破壊しながら入港した。「アバーッ!」凍てつくような海に投げ出された漁民達は砕けた舟材にすがりつき、恨めしげに輸送船の黒い影を見た。

2016-07-21 12:41:58
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

青地に白で「過冬」と書かれた漢字エンブレム旗を風にはためかせるその船は、海を挟んだエッジカム火山から掘り出されるエメツを街へ運ぶ為のものであり、当然ながらそれは、シトカの街の法であり拳であるロシアヤクザの酷薄極まる首領、メギルヴィッチの所有物である。

2016-07-21 12:48:45
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

メギルヴィッチはシンウインターという名のニンジャとしても知られていた。2037年当初の彼はロシアヤクザの末端でしかなかったが、そののちニンジャとしてのカラテを鍛えた彼は、当時のボス(ニンジャであった)の一族郎等全てを殺し、晒し首にする事で力を誇示。現在の地位を確たるものにした。

2016-07-21 12:56:38
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

エッジカム火山が多量のエメツを孕んでいる事が判明した時、かの山はシトカの重大な産業拠点となり、アラスカのロシアヤクザは国際社会において大きく伸長した。闇よりなお黒いエメツ、アメ=ツチとも呼ばれる鉱石に本能的な恐れを抱くものはいまだ多い。しかし既にこれ抜きに世界は立ちゆかないのだ。

2016-07-21 13:07:51
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

陰鬱に沈んだ街並みには明滅するネオン看板が連なる。「も寿司」「にみんが」「おマニ」「悠太郎」。標識類や案内板にはキリル文字やアルファベットが用いられるが、ネオン看板といえばやはりネオサイタマ様式だ。人々はネオン看板やワータヌキ像、ケモビールのアニメポスターを通し、かの地を思う。

2016-07-21 13:15:31
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

パーツ屋台、ロシアヤクザの炊き出し鍋、吊るされたバッファロー肉、辻説法師等でごったがえす表通りから幾つか路地を入った先、水蒸気立ち込める石畳の裏道に蛍光オレンジの明かりを投げかけるのは、昼から泥酔者がくだをまく安酒場「筋」だ。屋号はサイバネ・アイ持ちの屈強な女主人の名に由来する。

2016-07-21 13:24:31
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

スージーは今日も丸太めいた腕を振るって氷解をアイスピックで滅多刺しにしながら、店内のろくでなし達を見るともなく見ていた。「今日、ツケてくれよ。アバーッ!」泥酔者の手の甲に無造作にアイスピックを突き刺し、彼女はノレンをくぐって現れた見慣れぬ客を見やった。

2016-07-21 13:27:57
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

その者は泥酔者の胡乱な視線の中、つかつかとカウンターまで歩いてきた。そしてトークンを置いた。「ズブロッカと水をくれ」「アイ」スージーは眉をしかめた。青ざめた肌とサイバーサングラス、たくましい肉体、短く刈った黒髪。クローンヤクザと見違えたが、それがこんなところで酒を買うはずもない。

2016-07-21 13:34:45
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「俺が何か」客はいかめしく言った。サイバーサングラスのこめかみに指で触れて透過率を下げ、冷たい目でスージーを見た。「別に。ドーゾ」スージーは並べたグラスにズブロッカと水を注いだ。「アンタ、どこから来たんだね。シトカの人間じゃないだろ」「ああ」男は親指大の錠剤を水に溶かし、飲んだ。

2016-07-21 13:38:40
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「嫌なら言わなくてもいいよ」「ネオサイタマだ」男はズブロッカを一息に飲んだ。「おや。そりゃ凄いね」「長旅だ」男は椅子にかけ、サイバー・トレンチコートの裾を直す。「そりゃそうだろうねえ」スージーはため息をついた。「シトカには何をしに?エッジカムでも見に来たかい。ヤクザ・ビズ?」

2016-07-21 13:43:45
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

男は一呼吸置いて、「当然、用がなければ……」その時であった。「アバーッ!」血塗れの人間がテラスのテーブルをなぎ倒しながら店内に倒れ込んできた。泥酔者の何人かは驚いて酒瓶を持ち上げ、何人かは悲鳴をあげた。男はグラスを置き、振り返った。怪我人は若い。まだ十代か。両腕にいかつい刺青。

2016-07-21 13:50:10
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「レニ!どうしたんだアンタ」スージーは若者に呼びかけた。「やべえんだ……!」レニは起き上がろうとして、己の血で滑り、また倒れた。「やべえよ」「それだけでわかるか!揉めたのか?」「ニックが拉致られた……!ゲホッ!」「何だって?」スージーはカウンターを飛び越え、レニを助け起こした。

2016-07-21 13:59:41
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「ちょっとアンタ!そこのボックスを持って来な!」スージーはさきほどの旅行者に向かって叫んだ。「これだろ」彼は既にスージーの横におり、カウンター脇にあった医療ボックスを持って来ていた。「なッ……ああ、それだよ。助かるね」スージーはレニのタンクトップを裂き、脇腹の裂傷に顔をしかめた。

2016-07-21 14:02:48
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「誰にやられた」「過冬、ゲホッ!」レニは血を吐いた。「過冬」を耳にしたスージーは隣の旅行者ほどに青ざめ、脂汗を垂らした。「何……何をやらかしたんだい」「そんな事より、頼む。アニキを早く……」瞳孔が開き始めた。「まずい」止血処理をしながらスージーが呻いた。男は懐から注射器を出した。

2016-07-21 14:08:54
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「ZBRを使うぞ」「頼むわ」スージーは旅行者を見ずに頷いた。旅行者は手際よくレニに注射した。瞳孔が収縮し、レニは再び咳き込んだ。「アニキを呼んでくれ!ニックが殺される!」旅行者は不意に背後の階段を振り返った。上階からゆっくり降りてきたのは、顎髭を生やしたアフロヘアーの男だった。

2016-07-21 14:13:00
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

アフロヘアーの男は、年の頃三十絡みといったところか。気だるげに首をかしげ、「おう。どうした」平然と声をかけた。「ニックが……」「そりゃ聞いた。大騒ぎしやがって」「助けてくれ……アニキィ……ショーゴー=サン……」「だからよォ、何をやらかしたッてンだ?」

2016-07-21 14:20:43
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「ショーゴー」の名を耳にした旅行者の目が鋭くなった。レニは荒い息を吐いた。最も危険な状態は脱したようだった。「ニックは……過冬のエメツに手ェつけたらしくって」「バァーーーーカ」ショーゴーはヤンク座りで顔を近づけ、酒焼けした大声で罵倒した。「そんなもん、斬首で済んだらラッキーだ」

2016-07-21 14:31:39
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「ウウーッ」レニは顔をくしゃくしゃにしかめ、ボロボロと涙をこぼした。「どうすンだい」スージーが訪ねた。「死ぬしかねえわ」「ウウーッ!」レニは歯を食いしばって慟哭した。スージーが睨んだ。「言い方あるだろ!」「ッたくクソガキが……」ショーゴーは立ち上がり、ボキボキと首を鳴らした。

2016-07-21 14:35:11
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「どこ行くんだい!」そのまま店外へ立ち去るショーゴーに、スージーが声をかけた。「アア?決まってんだろうがよォ!場所の見当はつくさ!」歩きながらショーゴーが振り返った。「レニ!テメェでテメェのケツも拭けねえようなクソガキに、イキがる資格はねェんだぞ!」「ウウーッ!」

2016-07-21 14:40:49